月下に咲く花 10





少し早いが、荷物も沢山になってしまったため、ジュール家へと移動した。

イザークとの付き合いはアカデミーの頃からであるため、エザリアとも面識はあるし、はエザリアのお気に入りでもある。

今日のパーティの手伝いを買って出るにエザリアも喜んで共に準備に当たった。

イザークも手伝おうとか思ったけど邪魔だとか言われて仕方なく自室へと引き篭もった。


暫くして部屋のドアがノックされる。

返事をすると「開けて〜!」との声がドア越しに聞こえた。

読んでいた本に栞を挟んでドアへと向かう。

開けると、はポットとカップの乗っているトレイを持っていた。

「どうしたんだ?」

「いや、イザークが拗ねてるかと思って。ジュール隊長、お茶にしませんか?」

がそう言うと

「だから、気持ち悪いと言っているだろう?」

と小さく笑いながらの持っているトレイをスッと引き取って部屋の中心のテーブルへと運ぶ。

「準備は?」

「粗方終わったよ。あとちょっとで時間だし」

イザークの問いに答えながらは慣れた手つきでカップに紅茶を注ぐ。

そうか、とイザークが呟き時計に目を向ければの言うとおりだ。いつの間にか時間が進んでいる。

「今日はどなたがいらっしゃるの?」

に聞かれてエザリアから聞かされた著名人の名前を挙げる。

「うわ、エザリア様。さすが...」

「ま、こんなもんだろうな」

イザークは慣れているが、はそうでもない。

はそっと溜息を吐いた。気は抜けない。


ジュール家はを気に入っているので、彼女が庶民の出でもパーティに来る客人にイザークの恋人だと堂々と紹介する。

時には自慢をしながら。

一応、母が名家の出だから作法等にはうるさく、も良く厳しくしつけられた。

あのとき、厳しすぎる母を嫌った事もあったがそれが今は財産となっている。人生、何が起こるか分かったもんじゃない。

最近良くそう思う。

お茶を飲み終わり、服を着替える事にした。

が別室で服を着替えている間にイザークは母の元を訪れた。

「母上」

簡素なドレスに着替えたエザリアが振り返る。

「イザーク。貴方まだそんな格好で」

「すぐに着替えます。その前に、ショールを貸してもらえませんか?」

イザークがそう言う。エザリアは暫く首を傾げていたが、すぐに何かに気付いたように眉を顰める。

「全く...さんに愛想を尽かれても知らないわよ」

そう言いながらの今日の服の色やデザインを聞き、自分のワードローブからショールを数枚見繕う。

「ほら。これを使ってもらいなさい。全く貴方ときたら...」

「ありがとうございます」

とショールを受けとったイザークが部屋を後にする。

そんな息子の背中を見つめてエザリアはそっと溜息を吐いた。


に宛がった部屋のドアをノックして入るとが鏡の前で固まっている。

「どうした?」

「奇跡だ...」

呆然と呟くの様子を眺める。

...惜しい。背中にひとつ。

自分が付けた痕だというのに、イザークはそんなことを思っていた。

「見て!すごい。隠れた!!」

何が隠れたって、イザークがに付けた印。沢山散っていたから隠し切れないと思っていたのに、きれいにおさまった。

「一応、色々遠慮はしたんだ」

少し恨みがましくイザークが言うが、は聞く気が一切ない。

「ああ、これ。一応羽織っておけよ。どれがいい?母上から借りてきた」

見えないのだからいいと断ろうとしたが、どうやら気に入ったショールがあったらしく、それを手に取る。

良かった...

何となくイザークは安心した。



イザークたちが明日の17時に軍港に集合ということから、パーティは比較的早く終わった。

この時間ならも自宅に帰れる。

が帰る仕度をしているとエザリアに待つように言われた。

お土産があるという。

まあ、ステーションまではイザークが送ってくれるし、自分のコロニーに戻ってからは自分がエレカを運転して帰るから荷物が増えても問題ない。


エザリアが用意してくれている間、2人は庭に出ていた。

「全く、イザークがあんなに痕を付けるからあれ、着られないと思ったよ。また明日からずっとザフトの軍服と白衣だから、この休暇最後のお洒落だと思って楽しみにしてたんだからね」

少し恨みがましくが抗議する。

しかし、そう文句を言われたイザークは何処吹く風といった表情だ。

「聞いてる?」

「ああ、聞いている。だがな、

そう言ってイザークの顔が近付いてきた。の唇で止まるかと思ったそれは首筋まで降りてきてに微かな痛みを与える。

「イ、イザーク!?」

「見えるところに痕を付けるってのはこれくらいのことを言ってほしいものだ」

さらりと言う。

ちくりと痛みを感じた首筋を押さえたままは固まった。

暫くして、

「イザーク、サイテー!!明日だよ、またボルテールに乗るの。分かってるの!?ちゃんとスケジュール頭に入ってる!?」

とイザークの胸倉を掴みながら抗議する。

そんな息子とその恋人の様子を遠くから見ていたエザリアは深い溜息を吐いた。

微笑ましいような、なんと言うか...

あとで、恋人を送って戻ってきた息子に少しだけお説教をしておこう。

この様子だと、船に乗っているときも彼女に迷惑をかけかねない。

取り敢えず、今のところは心の中でに謝罪をしておいた。










桜風
07.11.2


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