月下に咲く花 14





の元に何人か負傷したパイロットたちが運ばれてくる。

にとってドクターとしての初めての実戦だった。

次々に運ばれてくるパイロットの傷を見て衛生兵の中には治療室から逃げ出す者もいた。

しかし、は顔色をひとつ変えずに的確な指示と治療を施していった。

重症のパイロットの治療を終えたときには、それ以外の、精神的に疲弊した衛生兵も床に寝ていた。


取り敢えず床に寝ている衛生兵に毛布を掛けては伸びをする。

ブザーが鳴って振り返るとディアッカが立っていた。

「あら、久しぶりの実戦でポカしちゃったの?」

が聞くと

「いーや。それはない。俺って凄腕パイロットだから」

おちゃらけてディアッカが答える。

「そ?」

知ってたよ、というような表情では答える。

「議長が、乗ってるから」

ディアッカの言葉には肩を震わせる。

「この艦、これから本国に帰るんだ。議長を送り届けるのが任務になったから」

は視線を彷徨わせて「そう、ありがとう」と務めて冷静に返す。

「あと、アイツに会ったぜ。イザークの永遠のライバル」

その言葉には驚いて顔を上げて口パクで『アスラン?』と聞く。

ディアッカは楽しそうに頷き、「んじゃ」と片手を上げて去っていく。


医務室を衛生兵に少し預けては休む事にした。

自室へと戻る途中に

「やあ、ドクター」

と声を掛けられ、足を止める。

振り返り、敬礼をする。

そこにはギルバート・デュランダルがいた。

「また会ったね」

「は!このように何度も議長のお目にかかれて光栄です」

感情を殺した瞳でデュランダルを見上げる。

「まあ、そう畏まらないでくれたまえ」

ゆったりと微笑み、デュランダルが制す。

この艦に彼が居る事をディアッカに聞いていなかったらもっと取り乱していただろうと思いながら取り敢えず敬礼していた腕を下ろす。

「今回、ジュール隊の迅速な対応には感謝しているよ」

「いえ。ザフトの一員として当然のことだと、隊長は申されると思います」

「そういえば、ドクターには初めての戦場ではないかな?」

「はい。先の戦争でも本格的に戦場に出る前に本国に戻されましたし、あの時はまだドクターではありませんでしたから」

「そうか。今回の作戦で何人もの若きパイロットの命を亡くしたと聞いたよ。本当に、その亡くなった命の冥福を祈るよ。勿論、地球に住んでいた人たちで、今回の犠牲となった方たちにもね」

「そう、ですね」

言っていることは至極まともだし、プラントの最高評議会議長、つまりは指導者としては発言や行動に悪いところや不審に思う箇所はないはずだ。

「議長」

が考えていると誰かがデュランダルを呼びに来た。プラントの議会から通信が入ったそうだが、部屋に連絡を入れても反応がないため、探しに来たと話している。

「そうか。では、Dr.。また君とは会えそうな気がするよ」

「は!」

は敬礼をしてデュランダルの背中を見送った。


デュランダルの姿が見えなくなって漸くは腕を下ろす。

先ほどまで耐えていた震えが一気に全身を襲ってきた。

ガチガチと噛み合わない歯が鳴り、自身で体を抱き締めながら廊下の隅に寄って蹲る。

収まらない震えを何とか押さえ込もうと必死に恐怖という感情を殺そうとしていた。

?どうした、どこか悪いのか?」

不意に頭上から振ってきた声に顔を上げる。

膝をついたイザークが心配そうにの顔を覗きこんでいた。

「イ、ザーク...?」

「ああ、俺だ。どうした?」

は反射的にイザークの胸へを飛び込む。思いがけない衝撃でイザークは一瞬よろけ、それでも何となく意地で体勢を立て直しそのまま震えるを抱き締めた。

「何かあったのか?」

「何でも、ない」

何でもないはずはないだろう、と思いつつもは言いたくないことは本当に頑として言わないということをイザークは良く知っている。

だから、言いたくなるのを待つしかない。

言わなければならないことは時間がかかっても言うはずだ。

「言えるようになったら言ってくれよ。いつになってもいいから」

イザークの言葉には「うん」と小さく呟き、頷いた。










桜風
07.11.30


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