月下に咲く花 19





地球でも宇宙でも戦局は激化する一方となった。

イザークは空いた時間をMSの調整に充てたり、睡眠時間を確保したりしていたが、

「たまにはんとこ、行ってくれば?何かあったら、ちゃんと部屋に連絡入れて呼び出すし。俺が出来ることだったらやっとくし」

と意外とお気遣い人間のディアッカに言われてイザークはその言葉に甘える事にした。


の詰めているはずの医務室に行くとロックされている上に誰もいない。

と、すれば自室か。

そう思って医務室からそう遠くないの部屋へと向かった。

部屋に入ると電気は点いているが、静かだ。



声を掛けてみても返事が無い。

ただ、部屋の中では微かな寝息が聞こえる。

ベッドを覗き込むとうつ伏せになってが寝ていた。

もしかしたら、部屋に帰ってきてそのままベッドに倒れこんだのかもしれない。

イザークはのブーツを脱がせてきちんとベッドに寝かせ、毛布を掛けてやる。

椅子に適当に引っ掛けているダークグリーンの上着をハンガーに掛けて、の眠るベッドに腰掛けた。

顔に掛かった髪を優しく払う。

の髪は癖がなくサラサラで、イザークはそれに触れるのが意外と好きだったりする。

「相変わらず、きれいな色だな」

の髪を梳きながら呟いた。



初めてを見たとき、イザークは泣きそうになった。

昔、子供のときに見た光景を思い出したのだ。

それは自分の目で見たわけではなく、テレビだったか、写真だったか。

詳しくは覚えていなかったが、その光景を初めて目にしたとき、涙が流れた。

それは、一面の花畑が月の光に照らされて淡く輝いているものだった。

どこの風景で、その花が何かは覚えてないし、もしかしたら聞いてはいなかったのかもしれない。

しかし、その幻想的な風景を目にしてイザークは心を奪われ、そして、アカデミーに入ってを見かけたときにその光景を思い出して、胸が締め付けられた。

泣きたくなるくらい、優しい光を放つ花。恐らく、元は白い花で月の光を受けてそれを反射し、淡く光っていただけなのだろう。

理屈はどうであれ、関係ない。

イザークがに惹かれたのは事実だ。


が。そうは言っても突然声を掛けるとかイザークには全く以って無理な話だった。

そう考える中、同室のディアッカがいつの間にかと話をするようになっていた。

何だ、どういうことだ?!

そう思い、焦ってはいたものの、平静を装ってディアッカに聞いてみた。

「知り合いか?」

「ああ、そうだよ」

普通に返された。

どういうコトだろうと考えた。

「プラントが一緒なのか?」

「んにゃ、違う。幼稚舎が一緒だったんだ」

「へぇ」と平静を装っていたが、何だかもっとこう、はっきりとディアッカと彼女との関係を聞きたかったりもした。

アカデミーでは大抵彼女は小柄で空色のショートヘアの友達、と一緒に居た。

の背は高くもなく低くもなく。しかし、どこの名家の出かと思うくらい美しい動きをしていた。

ただ歩く姿でさえ、周囲を魅了する。少なくともイザークにはそう見えた。



あるとき、偶然にひとりで歩いているを発見した。

イザークは少し早足で歩き、「おい」と声を掛けた。

「おい」ではは振り返らなかった。

「あ、えーと。

名前を呼ばれて初めて振り返る。

「ああ、ジュールさん。何か?」

『何か?』と聞かれても別に用事は無い。ないけど、話がしたい。

「えー...あ、そうだ。ディアッカと幼稚舎で一緒だったらしな」

そう言うと彼女は首を傾げる。

「ディアッカ...あ、ディアッカ・エルスマンさんですか?」

何だ?知り合いだといったのはウソか?寮に戻ったらディアッカに文句を言ってやろう。

そう思っていたら

「私の友達が、そうみたいですよ。いつも一緒に居る友達なんですけど」

そう言われていつもの隣に居るの髪の色を思い出す。顔は、興味ないから覚えてない。

「そうだったのか。いや、ディアッカから幼稚舎が一緒だったと聞いたから」

「エルスマンさんと仲が良いんですか?幼馴染とか...」

イザークはの隣を歩き、もそれを嫌がるでもない。

「まあな。そっちは?」

「プラントは違うし、今まで通った学校も違うんですけど。昔からの知り合いなんです。父の勤めている会社の関係で」

「そうか」と相槌を打ちながらも聞きたいことが沢山ありすぎて考えがまとまらない。

!」

後方から声を掛けられて振り返れば、小柄な空色の髪の少女が手招きしている。

「なーに?」

そう一言に声を掛け、「じゃあ、」とイザークに会釈をしては駆け出した。

駆けるの髪は、風に揺れる花畑のようだった。










桜風
08.1.1


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