月下に咲く花 22





アカデミーに入学して半年近く経ち、専門知識を身につけた彼らの訓練も高度なものに変わっていた。

それにつれて共通カリキュラムの時間は少なくなり、合同演習もなくなってきた。

お陰でイザークはと話す事もままならない。

それを見かねたディアッカとは休日に出かけようと画策してとイザークそれぞれを誘った。


適当に4人で買い物を楽しんでいたのだが、打ち合わせどおりにとディアッカは2人とはぐれた。

「安易な作戦だと思ったけど」

「イザークだからな」

とディアッカが居ない事に気付いたイザークは少し慌てた。

は気にしていないようだ。

「あれ、イザークってば。もしかしてそんな風に見られてないとか?」

物陰からイザークたちの様子を盗み見ていたディアッカが隣に立つに聞くと

「どうだろう。のそういうのって全然想像つかないんだよね」

という返事がある。

「ま、いっか」

二人は顔を見合わせてその場を去った。



残されたイザークは突然姿を消したディアッカをブツブツと責めていたが

「まあ、いいオトナだし。迷子になることないでしょ?」

に言われて口を噤んだ。

どちらかと言えば嵌められたと考えるところだろうに...

まあ、そんなことはどうでもいい。

今日は卒業記念パーティで着るドレスを買いたいと言っていた。

卒業した後はすぐに各隊に配属される。

その前の最後の息抜きと言って良いのが卒業記念パーティだ。

今の戦局を見ればこんなことをしている場合ではないというのが普通だが、今回はそのパーティの開催が既に決定となっている。

取り敢えず、は当分出来ないオシャレだからと新しいドレスを購入することに決めた。

についてきてもらう予定だったが、何故かイザークとディアッカまで一緒だったのだからちょっと驚いた。

しかし、今日を逃すとこの先ずっと試験だなんだで、アカデミーの卒業まで休日は時間が取れそうもない。

この機を逃してなるものか、とは気合が入っていた。

気になったショップを見つけて立ち止まる。

「入りにくかったらここで待ってて」

が言い、イザークは「大丈夫だ」と言って一緒に店内に入る。

母に連れ回されているお陰で案外女性のショップの雰囲気にも慣れっこだ。

色々と明るい色のドレスを試着しているを見ていたイザークだったが、店の隅に飾ってあるそれを見つけて声を掛けた。

、アレなんてどうだ?」

言われてイザークの指差したドレスを見る。

深い青。夜の色だ。

「暗くない?」

「しかし、の髪は明るいから合うと思うんだが...」

まあ、試着するだけなら、とはそれを着てみる。

「とてもお似合いですよ」

店員がそう声を掛けてきた。

もまんざらじゃない。イザークを振り返ってみると凄く満足そうに微笑んでいた。

全会一致。

その言葉がの頭を過ぎる。

結局、少々値が張るものの、そのドレスを購入した。持って帰るのは大変だから配達を頼んで店を後にする。


取り敢えず、迷子になったディアッカたちと連絡を取ろうとが言い、イザークが携帯を取り出すと空からポツポツと雨粒が落ちてきた。

驚いてが空を見上げるとザー、と本降りとなる。

「あそこまで走るぞ」

イザークが指差したのはテナントのテントだ。

バッグを頭に翳して走るにイザークも羽織っていたシャツで頭を覆ってやる。

イザークの指したテントの下についたときには結構濡れていた。それでも、はバッグとイザークのシャツのお陰で意外と濡れていない。

ハンカチを取り出し、自分より遙かに濡れているイザークの顔を拭こうと手を伸ばした。

イザークは体を引いてそれを避け、「俺はいいから、自分を拭け」という。

「でも、イザーク...」

「良いから、」と言ってイザークは携帯を耳に当てる。

暫くしてチッと舌打ちをする。

「どうしたの?ディアッカと繋がらない?」

「いや、この突然の雨の情報を知りたくてそっちに電話したんだ」

確かに、今日は快晴の日だった。周りの人も傘など持っておらず慌ててテントの下に入ってくる。

無駄なスペースを取らないようにを引き寄せてイザークは空を見上げながら目を眇めた。

「何て?」

「故障だと。今メンテナンス中だというアナウンスが流れてた」

「当分無理かな?」

「たぶんな」

イザークの返答を聞いたは暫く考えて

「じゃあ、濡れて帰っちゃおう」

そんなことを口にする。

「は?!」

「もうこれだけ濡れちゃったんだし。ディアッカたちにはもう寮に帰るって連絡入れてさ。それに、気持ち良いくらいの土砂降りだよ」

「風邪引くぞ」

渋々イザークが応える。

「大丈夫!私、こう見えて衛生兵だから」

笑ってが応えた。

溜息をひとつ吐いてイザークは携帯を耳に当てる。ディアッカも雨に降られたようで嘆いている声がイザークの携帯から漏れて聞こえる。

取り敢えずもう寮に帰る事にしたという旨を話してイザークは携帯を閉じた。

徐にシャツを脱いでの頭に掛ける。

「ほら、帰るぞ」

「え、でも。イザーク濡れちゃうよ」

「もう此処まで濡れたらどうでも良くなってくる。良いから被ってろ」

滝のように降る雨の中、イザークはスタスタと歩き出す。

もそれについて歩いた。

イザークが振り返るとは楽しそうに手を広げて空を見上げていた。

自分の貸したシャツがまったく役に立っていない事に苦笑いを浮かべる。

は一言で表すなら『自由』だ。他人に迷惑を掛けない範囲で天真爛漫だと思うし、マイペースといっても良い。

見ていて飽きない、というのが仲間たちの間でのの評価だ。

先が読めないためイザークは今まで色々と取り越し苦労とかぬか喜びとかを味わった。



立ち止まって声を掛ける。

「何?」

空を見上げていたはイザークに顔を向ける。

「卒業パーティ、俺にエスコートさせてくれないか?」

結構ドキドキするものだな、と思いながらの言葉を待つ。

はふわりと微笑んで

「よろしくお願い致します」

と膝を軽く折った。

スカートだったらチョンと摘まんでふわりと広げていただろうという感じの動きだ。

やはり、の動きはどこか優雅さを感じさせるな、と結構どうでもいいことが胸に浮かんでイザークは少しだけ可笑しくて小さく笑った。










桜風
08.1.26


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