月下に咲く花 23





無事卒業試験を終えて配属先も決まった。

仲の良い友人たちが固まってクルーゼ隊。何か裏があるのではないかと思うくらいの偶然。

しかし、そんなことを気にしても仕方が無い。

イザークたちパイロットは確かに固まったけど、は衛生兵とメカニック。ジャンルが違うからきっと偶然だろう。


アカデミーの卒業式が終了し、その日の晩に記念パーティが行われる。

明後日にはもう配属先に異動となる。

男子寮と女子寮は敷地は別々にあるがどちらからもホールへ直接行くことができる。

つまり、途中で合流できる道があるのだ。

イザークはとそこで待ち合わせていた。

暫く待っていると夜の闇にとけた風景の中でぼんやりと輝く光が近付いてくる。空を見上げれば月が昇っていた。

「ごめんなさい、遅くなって」

「いや、構わない。行こう」

そう言って慣れた感じにイザークはをエスコートする。

ダンスホールでは多くの卒業生がパートナーを見つけて踊っていた。

も何人かに誘われて踊ったりもした。

イザークも誘われたが、それは断って壁に背をもたれる。

「いいの?最後だからって告白ラッシュかもよ?」

不意に声を掛けられてイザークが見るとがカクテルをもって見上げている。彼女はちらりとホールの中央で知らない誰かと踊っている親友を振り返った。

「別に」と素っ気なく答えるイザークに持って来たカクテルを渡してはクスリと笑う。

「何だ?」

「面白く無さそうな表情をしながら『別に』って。どっちよ?」

「両方だ」

そう素直に応えたイザークには思わず目を丸くしてまた笑う。

「その素直さをの前で出せば良いのに。と、ディアも言うと思うよ」

「そういば、アイツは?」

「あそこで女の子引っ掛けてるよ」

そう言ってが指差した先には楽しそうに見慣れない女の子と話をしている同室の友人がいた。

「そういえば、配属先が同じだな」

「ん?あ、ああ。そうだね。イザークの機体、整備してあげようか?」

「...もう少し腕を上げたらな」

メカニックとしてトップの成績を修めたにそう言ってイザークはホールを後にした。


ホールの裏庭に出る。

正直、慣れてるとは言え、ああいう華美なところは好きではない。

「あ、居た居た」

不意に少し高いところから声がした。

見上げるとがテラスからイザークを見下ろしていた。

「ああ、何だ。もう良いのか?」

イザークの言葉には肩を竦めた。キョロキョロと周囲を見渡す。

「イザーク、向こう向いてて」

「は?」

「いいから。早く」

に言われるままにイザークはに背を向けた。

背後でなにやら大きな動きをしている気配がある。自分の隣にある影が突然伸びた。

驚いて振り返るとドレスの裾を持ったがテラスの欄干に立っていた。

「あ。もう!振り向かないでよ」

イザークは言葉が出なかったが、体をの正面に移した。

「ほら、降りたいんだろう?」

そう言って手を伸ばす。

「良いよ、大丈夫」

「ドレスだろう。いいから」

イザークに言われては渋々イザークの手を取る。体重を掛けて欄干からふわりと飛び降りた。

意外にも、イザークの手を力強く感じられ、は少しだけ驚く。

思った以上にの手はか細くて、改めて女の子だなとイザークは思った。

「ありがとう」

そう言って手を離す

「ああ。しかし、ドレスでそれはないだろう?」

苦笑いを浮かべるイザーク。

今のを見たら母がどう驚くだろう?


何度か休みがあり、ディアッカに連れられてはイザークの家に遊びに行ったことがある。

と、言っても2回くらいだがそのいずれもイザークの母、エザリアに会った。

イザークそっくりな美人を見て、イザークの将来を見た気がした。

エザリアは聡明なを甚く気に入った。話をしていても頭の回転が良いので気持良い。さらに、行儀作法も申し分が無い。これでごく普通の一般家庭の育ちというのだから驚きだ。

そんな感じではエザリアに気に入られ、母から通信がある度に必ずと言って良いほど

「ところで、さんは元気?」

とイザークは聞かれる。

自分の母親に嫌われるよりも好かれる方が良い。が、好かれ過ぎるのも如何なものかとも思う。


ふと視線を感じて見ると、がこちらを見ていた。

「どうした?」

「私、イザークの瞳が好きよ」

突然そう言われた。

一瞬眉間に皺が寄る。突然何を?

「澄んだ青空みたいで。凄く好きよ」

が両腕を伸ばし、イザークほ両頬にそっと手を添えてにこりと微笑む。

顔を固定される形になったイザークは目を丸くしたあと、諦めたように一度目を瞑る。

「俺は、のその髪が好きだよ」

そう言ってイザークはの髪をひと房手に取り、口付ける。

「ありがとう」

は微笑む。

「その声も」

更にイザークが続けて今度はが瞳を広げる。

「瞳も。...ドレスだというのに、突然欄干に立つところも」

ちょっと居心地悪い話題なのでは思わず目を逸らす。

やっぱり、どう考えてもはしたなかった...自分の母に知られたら大目玉だ。

でも、態々中を回って外に出るのなんて面倒くさかったのだ。仕方ない。


イザークの手がの頬に添えられる。

イザークが腰を折り、2人の距離が縮まる。

少し眉を上げて驚いていただがそのまま瞳を閉じた。

それを合図に2人の影が重なる。

イザークの気配が遠ざかり、が瞳を開けたら目の前には意外にも赤くなっている彼が目に入る。

口が悪かったりすぐにムキになるけど、イザークはこれで結構純情でさらに素直じゃないけど優しいのだ。

「大好きよ、イザーク」

が言うと

「俺よりも先に言うな」

そう素っ気ない言葉を吐いたイザークは再びと唇を重ねる。

それは先程よりも長く、優しい、お互いの気持ちを伝えるキスだった。










桜風
08.2.2


ブラウザバックでお戻りください