月下に咲く花 26





ガモフに乗艦してから、何回か戦闘があった。

それが多いのか少ないのか分からないが、戦闘の度にけが人は出るわけで。もその都度忙しい時間を過ごしていた。


そんなある日、はドクターに呼ばれた。

「なんでしょう?」

は、本国に帰ってドクターになる勉強をしようと思わないか?」

突然の言葉にはきょとんと目を丸くした。

そのドクターの話だと、どうやら軍医が不足しているらしい。

いつまで続くことになるか分からない今のプラントと地球の状態。

もし、激化すれば医師の不足が予想される。

だから、今のうちにドクターを育てておこうという流れになってきているそうだ。

そして、この艦のドクターはを推薦したいと思っているらしい。

その話を聞いて

「お願いします」

と頭を下げた。

頭を下げられたドクターはきょとんとして、少し慌てる。

「いや、今すぐ出さないといけない答えじゃないんだ。少し考えてからでも...」

そんなことを言われたが、

「いえ。是非お願いします」

そう言って再び頭を下げる。

「ドクターである方が、今よりも助けられる命が有ると思うんです」

の言葉を聞いてドクターは納得し、本国と連絡を取ると言ってに退出を促した。



その翌日、4日後に物資の補給で本国から船が来るからその船に乗って本国に帰るようにと言われた。

その件でだろう、クルーゼ隊長からも呼び出しがあった。

「失礼します」

隊長室に入り、敬礼をする。

「ああ、。ドクターから聞いた。4日後、物資運搬船が来ることになっている」

「は!」

「イザークには、言ったのか?」

ゾクリと背中に何かが走った。

「いえ、まだ...」

「そうか、きっと彼は残念がるな。今回の件の手続きの方は殆ど終わらせている。あとは、本国に戻って本部がしてくれる。この書類を持っていけばいいはずだ」

そう言って書類一式をに渡す。

ドクターになるための勉強をするために離隊することになる。アカデミーはザフトの機関だが、教育が先立つもので、そこに所属しているうちは何処かの隊に配属されることは無い。

が渡されたのはその手続きの書類だろう。

は敬礼をして隊長室を後にした。

背中がぐっしょりと濡れている。

「ヤな汗掻いた...」

は呟き、自室へと向かった。


一度自室でシャワーを浴びてイザークの部屋に向かう。

丁度ディアッカが部屋から出てきた。

「あ、俺今日は部屋に戻らないから。ごゆっくり〜」

ヒラヒラと手を振りながらディアッカは誰かの部屋に向かっていく。

は溜息を吐いてそのままイザークたちの部屋に入った。

「イザーク」

「何だ」

『何だ』と言いつつも心此処にあらず。どうせ終世のライバル、アスラン・ザラのことでも考えているのだろう。

「私、艦を降りるから」

「そうか」

ああ、もう本当に。

「イザークってば本当にアスランが大好きなのね」

が拗ねたように言うと

「アスラン!?あいつがどうかしたのか!!」

どこかに行っていた心が戻ってきた。もしかして、自分にとってもアスランは終世のライバルか何かだろうか...

「何でもないよ。ねえ、イザーク。私が入ってきたの、ちゃんと気づいてた?」

「ああ」

ケロリと言うが、本当だろうかとは少しだけイザークを睨む。

よし、言わなきゃいけないことはさっきちゃんと言った。聞いてないほうが悪い。

そう思って溜飲を下げる。

どうやらが拗ねてしまったというコトを今更ながらに気付いたイザークは、機嫌を直すようにに口付ける。

そのままそれは深いものとなり、二人の体はベッドに重なった。


夜中、目を覚ますとの目の前に整った顔がある。

こうやって心静かに眠っていると穏やかな水面のようだと思う。

目を覚まして、更にアスランを目の前に置くと時化の海のようだが...

アスランのことを思い浮かべて先ほどのイザークを思い出す。

何だかまた少し腹が立った。だから、目の前の白い肌に少し強く吸い付く。

イザークの眉が少し顰められ、薄く目が開く。

「何だ?」

「お返しです」

の言葉を聞いてさっき微かな痛みを感じたそこを見たイザークの眉間の皺が更に深くなる。



窘めるようにイザークがの名前を呼んだ。

はその声に反応を示すことなく、「ねえ、イザーク」と声を掛ける。

「...何だ?」

「死んじゃダメだよ」

イザークは驚いてを見る。

「病気とか、怪我だったら私頑張って治せるかも知れないけど。イザークが死んじゃったら泣く事しかできないから」

そう言ってイザークの胸に顔を埋める。

イザークは「ああ、」と呟き、の髪を優しく撫ぜた。





あれから4日後。

物資運搬船が出立する時刻にの友人たちはドックに集まった。

「イザークは?」

「言ったけど聞いてなかったんだと思う。もう知らないよ」

そう言ってそっぽを向く。

友人たちは顔を見合わせて深い溜息を吐いた。

「だから、イザークのことヨロシクね」

はそう言って笑った。友人たちも呆れながらも了承する。

「時間だ、

声を掛けられて「はい!」と返事をして皆に顔を向ける。

「じゃ、行ってきます」

「早く戻っておいでよ」

「まあ、それまでは仕方ないから同室の誼でイザークの面倒は見てやるよ」

皆は口々に別れを告げた。

は敬礼を皆に送って運搬船へと向かう。

皆が見送る中、そのままは船に乗った。


「振り返らなかったね」

が呟く。

「まあ、『らしい』っちゃ『らしい』けど」

「寂しいな、結構」

プラントに向かう一艘の船を眺めながら口々に感想が漏れる。

しかし、

「ほんっとうに、イザークってば何やってんの!!」

が怒鳴ったが誰も窘める者はいなかった。










桜風
08.3.1


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