| シホ・ハーネンフースがアカデミーの敷地内を歩いているとひとりの少女がいた。 風にそよぐ彼女の髪は太陽の光を反射して水面のようにキラキラと輝いていた。 彼女は、晴れ渡った青空に向かって両手を伸ばしている。何かを請うように、求めるかのように... その切ない表情から目が離せずに見ていると突然その彼女は振り返った。 目が合い、少しぎこちないながらもお互い会釈をする。 そのまま何もなかったかのように去ってもいいが、気になったので彼女に向かって足を進めた。 「こんにちは」 普通に会話が出来る程度まで距離が縮まり声を掛ける。 「こんにちは」 「何をしていたの」と聞こうと思った。しかし、きっとこの問いには答えられないだろう。そんな気がして、 「空が、好きなの?」 シホが聞くと彼女は少し寂しそうに瞳を揺らして 「ええ、好き」 一言答えた。 遠目から見ると同じ年かと思ったが、目の前にいる彼女は少し自分よりも年が上かもしれない。 「アカデミーの生徒さん?」 彼女が聞く。 アカデミーは教育機関だが、最近は研究機関としても利用されている。 「ええ。でも、研究生でもあるかな?」 シホが答え、彼女は「そうなの」と相槌を打つ。 「あ、居た居た!シホ!もう、探したじゃない!!って、!?」 研究機関でメカニックをしている友人の・がやって来て、そして、目を大きくしてシホの隣に立つ人物を見て名前を呼ぶ。 「。久しぶり。良かった、元気そう...」 昔のような天真爛漫さがない。その事には胸を痛め、顔を歪める。 「イザークも、私が本国に戻るまでは元気だったわ」 そう言うと何故か寂しそうに彼女は笑った。 「怪我、したって聞いたわ。MSで大気圏突破も」 何処から入ってくるのだろう、そんな情報。 曖昧で、半端に正確なそれらの情報にはいつも胸を痛めている。 に手を伸ばしたが、 「ハーネンフース!!!何をやっている!!」 研究機関の責任者に怒鳴りつけられてそれもままならない。 「早く行かないと」 が促す。 「後で!後で連絡入れるから」 走り去りながらはに向かって叫ぶ。 は頷いてに手を振った。 「はぁ、」と溜息が漏れた。 親友に久しぶりに再会できたのは非常に嬉しい事だ。 けど、あんな彼女、見たくないと思った。今まで見たことの無い親友の表情を思い出し、またひとつ溜息が漏れる。 「どうしたの、休憩しない?」 作業をしているの側にやって来てコーヒーを差し出したのはシホだ。 「ありがとう」 手袋を脱いでそれを受けとる。 「友達、だったの?」 シホが聞く。 「うん、昔からの知り合いで大親友。けど、あんな、初めて見た」 手持ち無沙汰気にシホから受け取ったカップを揺らす。 「何でと一緒に居たの?」 に聞かれたシホは天を仰ぐ。無機質な高い天井を見上げながら手を伸ばす。 「こんな感じに、空に手を伸ばしてたの。それで、気になってみていたら目が合って、何となく話をした。それだけよ」 「そっか...」 が呟き、 「『空が好きなの?』って聞いたら、『好きだ』って」 シホの言葉には寂しそうに笑った。 「の恋人、パイロットなんだけどね。瞳の色が、澄んだ青空の色をしているの。だから、でしょ。前線でMS乗りまわしてるわ」 呆れたように言うの言葉にシホが少しだけ興味を示す。 「名前は?」 「パイロット?イザーク。イザーク・ジュール。今は何処で何をしてるのか私には情報が入らないからなんとも言えないけど。でもね、腕は、確か。性格は短気で損気」 そう言ってコーヒーを飲み干した。 「さて、と。作業再開といきますか。けど、こんなもの...」 そう言っては自分が作っている青い新型MSになるハズのパーツを見上げる。 隣のドックでは赤い新型のMSのパーツが同じく作られている。 「シホは、そろそろ卒業だっけ?」 「ええ、そういえば。あのさんは?」 「卒業のはず。同期だね。けど、さっき噂に聞いたんだけどね」 が言葉を区切る。 「どうもドクターに気に入られて卒業させてもらえないみたい。もっと教えたいってのがあるみたいよ。はすぐに前線に戻りたいでしょうけど」 肩を竦めて言うに 「優秀なの?」 とシホが聞く。 「ええ、出戻るくらいに。ドクターが不足しがちでしょ?だから、ドクター未満の兵士で優秀なのを集めてアカデミーで短時間教育をするためのプロジェクトに入ってたはずなんだけど。短時間は無理っぽいわね」 皮肉交じりにが言い、シホも苦笑いを浮かべた。 |
桜風
08.3.22
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