月下に咲く花 31





が艦内を歩いていると、クルーたちの噂話が耳に入る。

「え、ラクス様が?」

「そう。地球に駐留しているザフト軍の慰問に行っていらしたでしょ?何でも、その慰問が終わって帰るために用意していたシャトルが強奪されたんだって」

「しかも、ニセモノが現れてラクス様に成りすまして」

その噂を耳にしては振り返る。

「ねえ」

擦れ違ったクルーに声を掛けると一人が振り返った。

「今の、何の話?」

「え、あの...噂話です。プラントに戻られるラクス様のシャトルをニセモノが現れて強奪してそのまま宇宙に上がってきたって。でも、そのニセモノのラクス様はホンモノにそっくりで誰も気付かなかったって」

ホンモノだ。

は思わず呟く。

「あの、ドクター?」

の呟きが聞こえなかったクルーが声を掛ける。

「あ、ううん。ありがとう。でも、アーモリーワンでも強奪があったのに、もう少し警備体制を整えないといけないわね」

「そうですね」

「ありがとう。また、その話の進展とか何か分かったら教えてくれるかしら?」

の言葉にクルーが訝しがる。は噂話とかそういうのに興味がないとおもっていた。

「私、ラクス様の大ファンなの。彼女を騙るなんて許せないでしょ?犯人が捕まったら安心できるし」

の言葉になにやら同調したクルーは「そうですよね。分かりました」と承諾して足を進める。


ホンモノのラクスが宇宙に上がってきた。

地球は今どうなっているのだろうか。

隊長室に向かおうとして2、3歩足を進めたが、やめた。

今でも地球軍の月基地の艦隊との戦闘が頻繁に行われている。

勿論、イザークもそれに出撃している。隊長として軍本部とのやり取りもあるし、それ以外にも仕事が山積みのはずだ。

、知ってるかな?」

メカニックであるため、直接何かの情報を得ることは無いだろうがパイロットたちと話すことが多い。

しかも、彼女はイザークの機体の整備担当していると聞いた。その際に何か聞いていないだろうか?

は行き先を変えてドックへと向かった。



ドックの入り口から中を覗いてみる。

の姿を探してみるものの、メカニックの人数とMSの数が多くて案外見渡せない。

入っていっても良いのだろうか?

悩みながら入り口に半分体を隠して様子を伺い続けていると肩にポン、と手を置かれる。

ビックリして息を飲む。

「ごめんなさい、そんなに驚くとは思わなくて」

振り返るとシホが立っていた。

は安心したように肩の力が抜ける。

「ううん、こっちこそ驚きすぎだよね」

苦笑いをしながら答えた。

「どうしたの?がドックに来るなんて珍しいわね。に用があるのかしら?呼んできましょうか?」

「うーん、いや、まあ」と適当に濁してみる。

「ねえ、シホはさ」

「ん?」

「偽ラクス様の話知ってる?」

に聞かれてシホは頷き

「シャトル強奪の話でしょ?いくらそっくりって言っても分かりそうなものなのにね」

呆れたように答えた。

「何か、詳しく聞いてない?あ、話せないことなら良いからね」

慌ててがフォローを入れる。

「そうね。あんまりこんな前線にまで情報が来ないってのが現状で噂程度だけど。強奪されたシャトルは乗り捨てられてて、そのシャトルのクルーはコックピットの中に縛られて放置されてたらしいわ。あとは...専任の捜索隊が出てるってことくらいかしらね」

「そっか」とは頷く。

「何?どうかしたの?」

「あ、ううん。ラクス様のニセモノって大胆なことをするなって思って。勿論、あの方のカリスマ性がそれだけあるって事なんでしょうけどね」

「そうかもしれないわね」とシホが同意する。


「お、。ドックに来るなんて珍しいじゃん」

不意に声を掛けてきたのはディアッカで「じゃあ、ね」とシホはドックへと消えて行った。

本当に嫌いらしい...

「どうしたの、こんな所で」

「ううん、何でもないの。...ねえ、ディアッカ。貴方前の戦争でラクス様と一緒に戦ってたわよね」

突然そんなことを言われてディアッカもぎこちなく頷く。

「何、突然」

「あの時のラクス様と、今の歌って踊ってるラクス様。何か違うかな?そりゃ、歌とか衣装とかそんな感じは全然違うけど...」

の言葉にディアッカは少し考え込み

「胸がでかくなってた」

と一言簡潔に答えた。

は半眼になってディアッカを見る。

「はあ?」

思わず声が漏れた。

「まあ、それは冗談」

本気だったろう、とは疑いの眼差しでディアッカを見つめたままだ。

「まあ、雰囲気が全然違うな。あれは俺の知ってるラクス・クラインの色じゃない」

「色?」

「そ。何か、こう...ちょっとさ。雰囲気っていうかそんな感じのものが違うような気がするけど。彼女みたいなのが2人も居て溜まるかってのがあるからなー...何か心境の変化とかあったのかもしれないし」

本当は、2人居る。そう思いながらは頷いた。

「そっか」

「なに、シャトル強奪の話?まあ、俺の知ってるらクス・クラインなら、シャトル強奪くらいするかもしれないけどなー」

ディアッカの呟きには少し驚いた。ラクスがそんな大胆な人間だったとは...

そう思ってすぐに自分の考えを否定する。

よく考えたら、ザフトの戦艦、エターナルを強奪したこともあった。

はディアッカと別れて医務室へと向かう。


...ん?だったら、今はあのエターナルはどこにあるのだろう??

少しだけその考えが頭の中を過ぎった。









桜風
08.4.12


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