月下に咲く花 32





ドックからの帰りにディアッカは隊長室へ向かう。

ブザーを押して部屋の中に入る。

相変わらず大量の情報処理に追われている。

「何だ」

やはり不機嫌だ。ディアッカの方に一切視線を向けずに

「や、何かさ。さっきドックの前でに会ってさ」

の名前が出て、イザークは一瞬だけディアッカに視線を投げる。

「今噂になってる偽ラクスのことが気になってるみたいなんだよな。...に何か聞かれた?」

「...当分声さえ聞いてないな、は」

忌々しげに呟くイザークにディアッカは「ご愁傷様」と口の中で呟いた。

「でさ、今のラクス・クラインと前、一緒に戦ったラクス・クラインの違いを聞かれたんだけど...イザーク、何かある?何か引っ掛かってるみたいなんだよな。彼女の勘の良さ、イザークだって十分承知してんだろ?」

イザークの眉間に皺が寄る。


丁度ブザーが鳴って別の人物の来訪を告げる。

『シホ・ハーネンフースです』

「入れ」

隊長室に入った途端、シホは顔をゆがめた。

「先ほどドックでから隊長の機体の整備状況報告を預かって参りました」

そう言いながらディスクを渡す。

「ああ、すまない」

イザークがそれを受けとる。

「そういえば、シホもと話をしていたよな、さっきドックの前で」

シホは軽く睨むようにディアッカを一瞥する。

「そうなのか?」

イザークに話を促されてシホは頷く。

「ええ。ドックの中を覗いていたので声を掛けたら今噂になっている、ラクス・クラインに成りすました何者かのシャトル強奪のことを聞かれました。あと、先ほど食堂でクルーが噂をしていたのですが..いえ、これはジュール隊長もご存知ですね。失礼しました」

「良いから言ってみろ」

逡巡した後、

「Dr.はラクス・クラインの大ファンだとか。だから、その..今回の事は嫌な感じだから、また何か新しい噂とかあったら教えて欲しいといわれたと」

ディアッカがイザークを見る。

イザークも記憶を辿っているようだが、

「そんな話聞いたことないぞ?」

ポソリと呟いた。

「まあ..態々自分が何のファンか、なんて話すことはないことかもしれないけど...1回くらい言ってそうなのにな」

ディアッカがそう言い、「俺がラクス・クラインと一緒に戦った話をしても『ふーん...』で終わったし」と続ける。


イザークは数秒考えて

「ディアッカ、貴様。から何か聞いてないのか?俺には言うな、といった感じに」

イザークに言われてディアッカは驚いたように眉を上げる。

どうやら、自分との内緒ごとは黙認らしい。

「ラクス・クラインのことでは、何も」

ディアッカが正直に答える。

「それ以外は、何かあるんだな?」

イザークに睨まれてディアッカは両手を顔の高さまで挙げて降参のポーズを取り

「折を見てちゃんと言うから」

と白状した。

「絶対だぞ」とイザークもそれ以上追求しない。シホはそんな2人のやり取りに首を傾げる。

「でも、ラクスか...んじゃ、アスランが聞いたかもな」

「アスランだと!?」

突然イザークが怒鳴る。そんな隊長の姿にシホは目を丸くした。

「おいおい、イザーク。シホがビックリしてんだろ。ホント、アスランの名前が出た途端コレだもんなー」

ディアッカに窘められてイザークはコホン、と咳払いをした。

「何故、そう思うんだ?というか、いつ!?」

「俺らが評議会に呼び出されてあいつの護衛監視の仕事をしたとき。あの2人エレカに戻ってくるの遅かったじゃん?それに、アスランはラクス・クラインの元婚約者だろ?がラクス・クラインのことで何か聞きたかったらこれ以上にない情報源だと思うんだけど?」

「...何を聞いたと思う?」

考えながら言うイザークに「さあ?」とディアッカがあっけらかんと答えた。

ジロリ、とイザークに睨まれる。

「だって、聞いたけど教えてくれなかったんだから仕方ないだろ?墓に入るまでもってく内緒話だって言ってたし」

「何だっては俺以外の人間と内緒話なんて...」

忌々しげにイザークが呟くと

「だって、イザークって性格が馬鹿正直じゃん」

さらりとディアッカに言われた。先日にも同じことを言われたことを思い出す。

チッとイザークは舌打ちをして

「ま、何かから聞いて、それが俺に言えるようなことだったら教えてくれ。俺も気になる」

投げやりにディアッカに言った。

「物分りのイイ彼氏だなー」

からかうように言うディアッカに

「お前は、口うるさいから振られるんだ」

と酷いことを言って返す。

「ハーネンフース」

突然名前を呼ばれてシホは敬礼をした。

「此処で聞いた話は、この部屋を出たら忘れてくれ。まあ、結構どうでもいい話が多かった気もするがな」

イザークの言葉に頷いて敬礼をし、隊長室を後にした。

「ディアッカ、貴様も用事は済んだんだろう?さっさと部屋を出ろ」

ディアッカはわざとらしく敬礼をして部屋を後にする。


ドアが閉まるとイザークは深い溜息を吐き、

「ラクス・クライン、か...」

先ほど話題に上った人物の名前を呟いた。









桜風
08.4.26


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