月下に咲く花 33





ベルリンで地球軍のMSによる無差別大量虐殺があったとの情報が入った。

そして、それから数日後、ギルバート・デュランダルによる全世界に向けての演説がなされた。

ブリッジへと向かっていたイザークたちはその放送を耳にして、リフレッシュルームのモニタでそれを見る。

も廊下を歩いていたが、その演説を見るためにリフレッシュルームに入った。

モニタの前には白服のイザークと副官のディアッカがいる。



肩に手を置かれて振り返ればシホが立っていた。

「大丈夫?顔色、悪いようだけど...」

指摘されては慌てて「そんなことないよ」と返事をする。

「そう?」と言ってシホはもう少し前に出てモニタを見ようと移動した。


あんまり本気で演説を聞く気になっていなかったディアッカは背後から聞こえたの声に反応してかすかに振り返る。

やはり、顔色が良くない。

退出を促すか?

そう思っているとの表情が嫌悪に歪む。

モニタに視線を移せばラクス・クラインが議長を宥めていた。

「このたびの戦争は、確かにわたくしどもコーディネーターの、一部の者たちが起こした大きな惨劇から始まりました」

ラクスの登場に部屋の中の兵士たちも沸く。

ただ一人、はそのラクスに鋭い視線を投げていた。

そして議長の演説は続き、ブルーコスモスの母体であるロゴスを敵として排除する、という宣言で締められた。

「おいおい...」

ディアッカが呟き、イザークは視線で殺しかねないほどモニタを睨みつけていた。

振り返ればの姿はなかった。


「イザーク、さっき居たぜ?」

ブリッジに向かいながらディアッカが言う。

恨みがましい視線をディアッカに寄越しながらイザークは「で?」と促す。

「ラクス・クラインが出てきたときの反応は?」

「ものっ凄く睨んでた」

ディアッカの言葉にイザークは「はぁ?!」と素っ頓狂な声が漏れる。

「ファンだったんだろう?」

「俺は直接聞いてないけど、シホが噂でそんなこと聞いてたよな」

暫く2人は無言で移動していたが、

「けど、俺の中で仮説が立った」

「議長が騙されてるってことか?」

イザークも同じ仮説が立ったらしい。

「そんな甘い人じゃないっしょ」

軽くディアッカが返事をしてイザークも「そうだな」と同意する。

数秒悩んだ挙句、

「あのさ、コレ聞いて、忘れるも覚えておくもイザークが判断してくれ。けど、俺はこれを聞いてるから、議長の隣に立ってるのがニセモノだと思う」

結構真剣な声でディアッカが言うものだからイザークは思わず足を止めてディアッカのアメジスト色の瞳を見つめた。

アイスブルーのイザークの瞳を見つめ返すディアッカの瞳は真剣そのもので、だから、

「場所を移そう」

とイザークは誰も使っていないブリーフィングルームへと向かった。



部屋に入り、ロックをかける。

「で、何だ?」

、議長が怖いんだと」

イザークはピクリと眉を顰めた。

「どういう...」

「クルーゼ隊長んときと同じ感じがするんだとさ。これが、俺がに聞いてた内緒話。実際、議長を前にしたら顔色悪いんだぜ、は」

「何故、は俺に言わないんだ...」

溜息混じりに不満たっぷりにイザークが呟く。

「隊長だから、だとさ」

ワケが分からない、という表情をしたイザークにディアッカは苦笑いを浮かべた。

「隊長が迷うと、危ないからって。信じるものが揺らいだら、迷うだろう?迷ったら、動けなくなるだろう?命令する人間が迷えば、全員が迷いの中に陥る。それは危険だからってさ」

言わんとしている事は分かる。理解できる。

けど、やっぱり面白くない。

気分を切り替えるように溜息を吐く。

「それで、の勘を元に考えれば、議長の側に居るほうがニセモノで、シャトルを強奪したほうがホンモノだというわけか」

「ま、の場合は、ラクス・クラインのことは勘だけじゃなくて何か根拠が有るのかもしれないけどな」

肩を竦めながら同意する。

「んで?どうするのさ、隊長さん?ホンモノのラクスを見つけて仲間に入れてもらう?」

「俺たちは、ザフトだ」

イザークが簡潔に答えた。

「なるほど」

「だが、今の事も頭に入れておく」

「りょーかい」

軽く適当な敬礼をしてディアッカは応えた。

「で?」

イザークにはまだ話があるようだ。

「ん?」

「もうないんだな、との内緒話」

「ない、かな?」

首を傾げながら言うディアッカの胸倉を掴んでイザークは

「正直に言え!」

と脅す。

「な、ないって。あと、持ってるのはアスランだけ」

「ええい」と言いながらディアッカを乱暴に離す。

「くそ、アスランと会ったら吐かせてやる」

「...に直接聞いたほうが早いんじゃないのか?」

呆れながら言うディアッカの言葉に

「そんな格好悪い事できるか!」

イザークは怒鳴りながら返す。


...何でこんなに無駄に格好付けたがるんだろう?にはとっくにバレてるだろうに。

そんなことを思いながら、ディアッカはイザークに掴まれた胸倉辺りの軍服の皺を伸ばしていた。









桜風
08.5.3


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