月下に咲く花 36





レクイエムの第2射を阻止するべく中継コロニー破壊のため、ジュール隊もその戦闘に加わった。

もう二度とプラントを撃たせないために、ザフトの兵士たちも今まで以上に奮戦し、ホールのひとつを落とした。

その後、軍本部からの情報ではミネルバがジブリールを撃ち、レクイエムの再射を防ぐことが出来た。

そして、地球軍の設置していた他の中継コロニーも制圧した。


ロード・ジブリールの死と、地球軍の月基地の制圧に成功して少しだけ情勢が落ち着いた。

しかし、先の戦闘で負傷したパイロットの数は多く、たち医療班の手が回らない。

ゴンドワナからの通信が入り、その負傷者の収容を提示された。

一度ゴンドワナにその負傷者を収容し、そこから本国へと移送するという事だ。

イザークはドクターをブリッジへと呼び出した。

呼び出されたドクターたちは疲弊して居るのが見て取れる。

ただ一人、は興味深そうにブリッジ内をキョロキョロと眺めていた。

ゴンドワナからの通信内容を知らせ、医師も数名それに付き添うという話になっていることを説明する。

「隊長」

そう言って挙手をしたのは

「何だ?」

イザークが促せば

「私はこの艦に残ります」

と言った。

長年親友をやっているディアッカはイザークの機嫌が悪くなったのをすぐに察知し、誰にも気付かれないようにそっと溜息を吐く。

出来ればは安全なところに、と思っていたため、何とか理由をつけてをゴンドワナに、さらには本国へと思っていた。

何せ、プラントを直接攻撃するレクイエムは抑えたし、地球軍月基地のダイダロスもザフトが抑えている。

どう考えたってこの艦に残るよりも、母艦のゴンドワナ、さらにはプラントの方が安全だ。それに、彼女は故郷が撃たれた。精神的にも参っているだろう。

本来なら部下一人を贔屓に扱うのは全く以って言語道断。だけど、これくらいなら良いではないか。

医師が必要と言われて、医師を派遣するのだから。

そう思っていた矢先のこの発言。


しかし、イザークの思惑はどうであれ。本人が残ることを希望しているのに、行けとは言えず、寧ろ、他の医師たちが喜んでいる表情をしたので、候補者無しのため自分の権限でに帰れとは言いづらい。

もそんなイザークの心境を察したのか『勝った!』という表情をした。

ゴンドワナに向かう医師がその場で立候補し、イザークは了解してそのまま退出を促し、オペレーターにその旨を通信するように指示を出した。

が戻ろうとすると全ての回線が開かれて議長の演説が始まる。

「見てく?」

ディアッカに声を掛けられ、は頷く。

そんなに長くならないだろう。

「...怖いんじゃなかったのか?」

イザークが呟くように言った。

がディアッカを見上げると

「折りを見て言った」

と返事がある。

なるほど、と納得して

「少し前までね」

と応える。

「どういうことだ?」

「メッキが剥がれてきたでしょ?幽霊見たり枯れ尾花って所かしらね?」

イザークとディアッカの頭には『?』が浮かんでいる。

「私、ディアッカに言ったよね。得体の知れないところが怖い、って。段々正体が見えてきたからさ。前の、ラクス・クラインとか」

そう言いながら議長の演説に耳を傾けた。

ディスティニープランと名付けられたそれには眉間に皺を寄せた。

「何?これって人の可能性、全否定?」

「って、ことだな...」

ディアッカも顔を顰めていた。

そして、画面にアニメーションが流れる。

「...ねえ」

が呟くとディアッカが「あ?」と取り敢えず応える。

「コーディネーターの技術の粋を集めてあのアニメーションってどうなの?」

「まあ、センスの問題じゃないのか?」

「うるさいぞ、ディアッカ!」

モニタに集中していたイザークはディアッカだけを怒鳴る。

もう慣れたものでディアッカも「はいはい」と応えて口を噤む。

はそのアニメーション後の詳しいディスティニープランの解説が始まっても興味を示さずにエレベーターに向かった。


?」

ディアッカが声を掛ける。まだ途中だぞ、と。

「ああ、いいよ。本当に枯れ尾花だった」

そう言ってエレベーターのドアを閉めようとした。

「ドクターは、議長を信じていないのか?」

艦長に聞かれて閉まりかけたドアに手を挟み、再び開く。

「私は今まで唯の一度も議長を信じて今のザフトに籍を置いたことはありませんから」

はっきりと応える。

「では、何を信じて君は戦うのかね?」

興味を覚えたらしく話を続ける艦長に、「自分の信念と」と言ってはイザークを見て、「ジュール隊長です」と続ける。

「しかし、ジュール隊長が議長を信じておいでだったら、それは?」

まだ続けるのか、と思いながらそれは表情に出すことなく、

「飽くまで、それはジュール隊長のお考えです。そして、私は先ほども申しましたようにジュール隊長を信じて戦っております」

イザークは溜息を吐く。

そんな彼に肩を竦めては「失礼します」と敬礼をしてエレベーターのドアを閉める。

「な、嬉しい?」

ディアッカがこっそり聞くと

「正直、責任重大だと改めて思い知ったって所だな」

とイザークは苦笑いを浮かべていた。









桜風
08.5.31


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