月下に咲く花 37





が負傷した兵をゴンドワナに送り届けて帰ってみれば、月の地球軍基地、ダイダロスからレクイエムが発射されたと言う情報を耳にした。

それはアルザッヘルへ向けてのものだった。

今ダイダロス基地の地球軍はザフトが制圧している。

つまり、これはザフトにより放たれたものだ。

自分の国、プラントを焼いたそれを使って地球軍を撃つ。

「気が知れないわ...」

バタバタと混乱するクルーの行きかう中、は一人そう呟いて自分の持ち場に戻った。



暫くして、月の都市、コペルニクスからオーブ軍とアークエンジェル、エターナルが姿を現す。

ギルバート・デュランダルは地球軍を壊滅状態に陥らせた。

そして、次に銃口を向けるのはオーブだ。

それを阻止するべくそれらが出撃してきた。

勿論、ザフト側としてもその艦隊を落とす必要がある。理想を叶えるために。

月艦隊の半数とミネルバをステーションワンへと送る。


一方、ボルテールのブリッジにてステーションワン付近の戦闘の映像を目にしたイザークは低く唸る。

「あいつらぁ...」

ギリ、を奥歯を噛み締めながら言うイザークに

「でも、連絡がないのは当たり前だぜ。俺たちはザフト軍なんだからな、やっぱり」

とディアッカが現状を的確に表現する。

「わかっている」

振り返ってそう言ったイザークは再びモニタに映る戦闘に目を向ける。

「ともかく発進だ!とにかく、船を出せ!!」

イザークの命令に慌てて艦長が返事をし、ボルテールをステーションワンへと向かわせる。


戦闘宙域で一度船を停止させる。

パイロットは搭乗機で待機しており、いつでも出撃できるようにはなっている。

モニタに映る見知らぬ機体にイザークは眉間に皺を寄せる。

「あ?何だ、あのMSは...」

「そんなことよりどうすんだよ、隊長。俺たちは?」

MSに搭乗していうディアッカからブリッジに通信が入る。

「あ?」

不機嫌に聞き返すイザークに

「一応出て行って瞬殺されてくる?」

冗談交じりにそんなことを言う。

「馬鹿者!そんな根性なら最初から出るな!」

イザークに怒鳴られ、「いや、だってな...」と口ごもりながらディアッカは呟く。

モニタで見る今の戦闘でジャスティスとフリーダムの戦闘力は圧倒的だ。

「俺が出る!」

そう言ってイザークはエレベータに向かって踵を返した。

「はあ?」とディアッカは聞き返してみるが、

「ボルテールはそのまま後ろから支援だけしていろ。いいな!前に出るなよ、死ぬぞ」

そう指示を出してドックへと向かう。


パイロットスーツに着替えるために更衣室へと向かうとドクターが立っていた。

「どうした、

「いや。さっき。何か、ディアッカから通信があって。更衣室に来てくれって...覗いてみたけど、誰もいないから帰ろうと思ってたところ。イザークも、出るの?」

「ああ、」と返事をしながらの腕を引いてそのまま更衣室に入る。

ロッカーからヘルメットを取り出して適当に投げる。ふよふよ泳ぐヘルメットをが掴まえて抱え込んだ。

「...あの筒、守るの?」

ぎゅっとそのヘルメットを抱える腕に力を入れてが呟いた。

の問い掛けに思わず手を止める。2人きりのその空間では呟いた声さえ大きく聞こえる。

暫く沈黙を保ち、そのまま返事をせずに着替えを再開する。

そのことには不満を口にしない。

「怒らないのか?」

少し不気味に思ったイザークが聞くと

「隊長を信じてこの艦に乗っておりますので、口出しとかは致しません」

「怖いな...」

パイロットスーツに着替え終わってに手を伸ばす。

抱えていたヘルメットをその手に渡した。

それを受けとり、ドアの前で足を止める。

「俺が守りたいのはあんな筒じゃない」

呟いたイザークに思わず顔を上げると前を締めていないパイロットスーツの隙間からチェーンの通っているリングが浮いていた。

前の休暇中にお揃いで買ったリングだ。いつも軍服をきちっと着ているからイザークがそれを身に着けているのを目にすることは中々ない。

スーツの隙間からリングが浮いてきている事に気づいたイザークはそれを中に入れてスーツの前も合わせようとした。

「待って」

そう言っては白衣の前を寛げてチェーンに通したリングを取り出す。

最近は治療する事が多いため、もチェーンに通して首にかけるようにしていたのだ。

「交換、しよう?」

に言われてイザークは頷いた。上半身スーツを脱いで首に掛けているチェーンを外し、そのままの首に掛けてやる。

もイザークの首に先ほどまで自分がお守りとして持っていたリングをかける。

パイロットスーツをきっちり着て部屋を出た。

床を蹴ろうとして、思い留まりイザークは振り返った。

「行ってくる」

「いってらっしゃい」

微笑んでそう言うにイザークは素早く口づけて床を蹴ってドックに向かう。

一度振り返るとはまだこちらを向いて立っていた。

手を振るにイザークは軽く手を挙げて応え、そして、もう振り返らない。

「あんなもの...」

口の中でそう呟き歯を食いしばる。

頭に浮かぶのは少し前の記憶。故郷が壊された。

壊したのは何だ?

それなのに、命令に従っている自分にもどかしさを覚えた。









桜風
08.6.7


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