月下に咲く花 41





が医務室へ着くと赤いパイロットスーツの少年と少女がいた。

「軽症だから貴方たちは後回しにさせてもらって良いかしら?」

部屋の中にはまだ重症な怪我人がいる。

「え、はい...」

2人は頷く。

そのままの治療を眺めていた。

怪我人の中には診たことがある人物もいる。

いつかの同期なのかも知れない。

の治療の判断は早く、指示も的確であっという間に重症患者と呼ぶことが出来る者たちの治療とその指示は済んだ。


「さ、お待たせ」

そう言って少年の顔を覗きこむ。

「凄いわね、かすり傷。パイロットなのに...というかこの船に赤服ってアスラン以外にいるんだ?」

そう言いながら治療をすると少女の方が

「アスランのことを知ってるんですか?」

と聞いてくる。

「同期だもの」

の言葉に驚いているようだ。

「アスランって、アカデミーのときからあんなだったんですか?」

「貴女の言う『あんな』ってのが何を指しているのか分からないけど。妙に義理堅くて、世渡りは下手だったわね。私の友人曰く、『アスランは結構バカだったりするけど。理由もなくアホなことしない』らしいわ。私もその意見に賛成だけど」

の意外と歯に衣着せない物言いに「はぁ...」と少女は曖昧に頷く。

「さ、次は貴女」

少年の治療が済んで少女に声を掛ける。

「え、いえ...私は怪我なんて」

そう言って断るが

「せっかく此処にいるんだから治療されちゃいなさい」

に言われて消毒だけの軽い治療を受けた。


?」

丁度良くラクスが部屋に顔を覗かせてきた。

「何?」

「ヤヌアリウスのご両親とはご連絡取れましたの?」

ラクスの言葉に少年たちは跳ねるように顔を上げる。

「まだ。そんな雰囲気じゃなかったし。それに、うちは第4区だからさ」

そう言って微笑む。

第4区。

レクイエムで撃たれたヤヌアリウスのコロニーだ。

「イザークは、何と?」

ラクスに言われて苦笑いを浮かべる。

「泣けって。でも、一人で泣くなって。だけど、戦争が終わるまで泣かないって決めてるから。忙しそうだしね」

「そう、ですか...」

とラクスが話をしていると、

「あの、ヤヌアリウスのご出身なんですか?」

少女が声を掛けてきた。

「ええ、そうよ」

「地球軍が、憎くないんですか?コロニーにご家族、居たんですよね?」

少年が問う。

「んー、そういうのってキリがないでしょ?」

の言葉に少年は眉間に皺を寄せる。

「何で!?家族が居たんでしょ?あれは地球軍が、ロゴスが撃ったものでしょ!?それくらい知ってるんでしょ!?」

少年の言葉には肩を竦めた。

「憎んで殺して。その先に何かあった?」

の言葉に少年の眸が揺れる。

「そりゃ、憎んで呪って返って来るものがあるなら全力で黒魔術でも何でもマスターして全身全霊掛けて地球軍を、ロゴスを憎んで恨むわよ。
けど、返って来るものなんて何もないのよ。前の戦争で、私の友達は沢山死んだ。アスランの友達も、イザークの友達も。ラクスの、近しい人も。私たちは知ってたはずなの。殺し合いの先に何もない事を。それなのに、また繰り返してしまった」

少年は俯く。

「けどね。人は間違ってもそれを正せるの。間違った事を認めたら、今度は違う道を選べるの。こういうのってコーディネーターって無駄にプライドが高いから苦手かもしれないけど、そうしないと進めないってのも事実なのよね」

は困ったように笑う。

「今回、キミが間違った道を選んでしまったと思ったなら、次は他のものを選びなさい。それがまた間違ってたら反省して、また違うものを選びなさい。間違ってもいいじゃない。まだ、戻れるなら」

はそう言って少年の頭をクシャクシャと乱暴に撫で回す。

微笑みながらその様子を見ていたラクスがポン、と手を叩いた。

「そういえば、先ほどディアッカがの手が空いてるようだったらアスランのところに来てくださいと仰ってましたわ」

ラクスの言葉を聞いては首を傾げる。

そして、周囲を見渡し、医療班を見ると皆が頷く。もう此処は良いらしい。

「何処に居るの?」

「ブリッジですわ」

ラクスの返答に頷いてブリッジを目指した。



ブリッジにはイザークの怒鳴り声とディアッカの宥める声、そして、アスランの困惑した声が響く。ああ、懐かしい...

「ちょっと、イザーク。人様の艦で何やってるのよ。私は楽しいから良いけど、ちょっとこれって結構迷惑だと思うんだけど?」

の声に、イザークはグッと押し黙る。

「よお、ドクター。悪かったな、こんなところまで来てもらって」

と声を掛けてきたのは砂漠の虎。は直接彼の勇姿を見たわけでもなければ、武勇伝を詳しく耳にしたわけでもないからよく分からないが、以前イザークとディアッカがお世話になったらしい。

ぺこりと会釈をする。

「イザーク、ヤヌアリウスとは連絡取れないのですか?」

ラクスに言われてイザークは驚く。ヤヌアリウスといえば、のコロニーだ。

そういえば、何だか初対面と言った感じではなかった。

とラクスは親戚らしいぞ」

アスランが言う。

「何で貴様がそんなことを知ってるんだーー!!」

イザークが怒鳴る。

「あ、アスラン。約束破ったー」

が笑いながらアスランを指差す。

「ああ、なんだ。それがアスランとの内緒話ってことか」

「まあ、その一部なんだけどね」

は頷きながら笑う。

「というかドクター。キミはヤヌアリウスの出身なのかね?」

バルドフェルドに言われては頷く。

「それは、また...」

言葉が続かない。あのコロニー出身でなんでこんなにもしっかりしていられるのだろう?

「ご家族は?」

「コロニー..ですよ」

だったら尚更...そう思っているとが俯く。

...」

イザークがそっと抱き寄せた。


『あーー!ちょっと人様の艦、しかもブリッジで何やってんの!こっち帰ってきて隊長室でいちゃつけ!!』

突然回線が開いてがからかう。

オペレーターが焦っている様子なのでもしかしたら勝手にチャンネルを合わせて回線を開いたのかもしれない。

、凄いよ。また奇跡だよ!」

の言葉にが顔を上げる。

モニタに映った人物を目にしてはピシリと固まった。

「な、なんで...」

その呟きに答えられる者は誰もいなかった。









桜風
08.7.12


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