Like a fairy tale ―8月8日―





「で、イザークの誕生日には何あげるんだよ?」

不意に声を掛けられては半眼になって彼を見た。

「何であんたがワクワクしてんのよ、ディアッカ」

「いや、ワクワクしてるって言うか...ソワソワしてるかなぁ?だって、ほら。とイザークって婚約者だろう?で、婚約者の誕生日をちゃんと把握しているかどうかがまず気になってなー」

の事だし、と最後の言葉には心から嫌そうに眉を顰めた。


別に、もうイザークと婚約者と言うのを嫌がっているつもりはない。

諦めたし、何を言ってもダメなことに関していつまでもグダグダ言うのはの性にあっていない。

しかし、だからといって今までと真反対、手のひらを返したように婚約者のために、って色々考えている自分にはなりたくない。

まあ、ディアッカが心配しているのは、誕生日を無視された後のイザークの荒れようだろう。

いや、荒れるか??

まあ、イザークの気持ちはイザークのものだから自分には分からない。勝手な想像をして自分の価値観で判断するのは失礼だと思って考えないことにした。



「ねえ、ニコルって誕生日に貰ってうれしいものとかってあるの?」

登校してすぐに聞いてみた。

「誕生日..イザークですか?そういえば、もうすぐですね」

何故それだけで分かるんだろう...

溜息を吐きたくなるのを我慢して「そういうこと」と素直に答えた。

「そうですねー。イザークの場合..」

「俺がどうかしたのか?」

不意に加わった声に眉を顰めた。

彼が背後に居ることが分かっているから隠す気が全くない。ニコルからその表情が丸見えで彼は苦笑している。

「別に、なんでもない」

は振り返ってそう言った。

イザークは振り返ってそう言ったをじっと見て「そうか」と返して離れていった。

もっと大騒ぎするかと思った。「何だ、その態度は!」とか。

そんな事を思いながら、はイザークの背中を見送った。

」と優しく声をかけたのはニコルだ。

「何?」と返すとニコルは微笑んだ。

何だろう、と思って彼の言葉を待っていると

「物じゃないんじゃないですかね」

と一言そう言った。

が何の事か少し悩んでいたら「イザークのほしいもの」とウィンクをした。

益々困った...

同性の意見を、と思ってニコルに聞いたのに。

人選としてはまず間違いないはずだ。

ディアッカはイザークに近すぎる気がする。まあ、イザークのほしいものをリサーチしておいて、って頼みやすいが、何となくディアッカに負けた気がして嫌だ。この誕生日を意識させてきたのもディアッカだし、それでなくてもディアッカはイザークと自分のフォローをさらりとしていることが多い。

借りを作るみたいで何だか癪である。

ラスティは、自分のほしいものを言うか、イザークをからかうネタになる物を言いそうだ。うっかり信じたらイザークの機嫌を損ねてしまいそうで、そんな賭けには乗りたくない。

他の事では結構親切だが、イザークはからかいの対象であるらしく、よく彼の機嫌を斜め下に向かわせている。

アスランは論外だ。うん、たぶん論外。何だか分かんないけど、論外だと思う。

そして、一番頼れるのはこの最年少の彼しか居ないと思ったのだが...

「ヒント!」

「答えを言ったも同然ですよ。あとは、が考えてください。だって、プレゼントを贈りたいのはでしょう?」

「ケチー」と言いながらは口を尖らせる。

、子供みたいですよ」と笑いながらニコルがそう言い、彼の表情を見たら本当にこれでこの話はお終いだと悟る。

仕方ない、とも諦めの溜息を吐いた。



イザークの誕生日当日。

女子たちがイザークに群がる。

彼は愛想がいいとはとても言えないが、それでも人気はある。

「なるほどねー」と離れた席からイザークを眺めた。

イザークの周りには物があふれかえっている。

その中には手作りの菓子などもあるのだろうな、と思いながら溜息を吐いた。

ニコルが物ではない方がいいだろうといったのはこういうことだろう。

彼が居たら「違いますよ」と困ったように笑うだろうが、はそれで納得してしまった。

授業が終わってからいつものように居残り訓練をして、少し休憩をするために射撃スペースから離れるとすぐ傍のスペースにイザークが居て息が詰まった。

何だ、どうした??

今日は一緒に訓練する日ではなかったはずだ。

えー?プレゼントの無心ですか??

そんな事を思いながらは水分を補給していた。

ふと、視線を感じたのかイザークが振り返った。目が合っては少し居心地の悪い思いをする。

結局イザークに何をあげたらいいのか分からなかった。

物じゃなかったら何があるのか。

...まさか、体!?

そんな事を思ったくらいだ。

でも、ニコルだったらそういうことを示すはずがないのでそれは無しの方向で。

「どうしたの、今日は一緒に訓練する日じゃないよね?」

イザークがヘッドホンを外したのでがそう言ってみた。先制攻撃だ。

「別に、俺がいつ訓練してもいいだろうが」

といつものイザークらしい返答がある。

がどうして良いのかわからずに視線を彷徨わせるとイザークは再びヘッドホンをつけて的に向かって銃を構える。

あれ?自分の誕生日プレゼントの無心のためにここに居るのではないのか?

は首を傾げた。

そして自分もまたスペースに向かった。

暫く訓練を続けていたが、今日はもうお終いと思って銃を置いた。

振り返ると着替え終わったイザークが椅子に座っていた。

「どうしたの?」

「外が暗いから寮まで送ってやる」

「...は?」

は素で聞き返した。

はっきり言って、このアカデミーでも自分に勝てる人物はそう居ない。

「いいから素直に頷け」

イザークのぶっきらぼうなその言い草に少しカチンと来たが、そんなことに一々目くじらを立てていたらキリがないことくらいは学習済みなので「はいはい、ありがとう」とは適当に返して更衣室に向かった。

着替え終わって出てみるとイザークが待っていた。

しかし、彼の荷物は意外と少ない。

今朝のあれは何だ?何処に消えた?

「ディアッカに押し付けた」

の疑問は顔に出ていたらしくイザークがそう短く答えながら教官室へと向かう。

自分たちが最後だったから演習室の鍵も返しに行くのだ。

「あの、さ」とが言いにくそうに声を掛ける。

「何だ」とイザークはを見ることなく短く返した。

「誕生日、おめでとう」

「ああ」

「で、だ。プレゼントなるものが、結局何が良いか分からなかったから用意できなくてね。えー...何が良い??」

仕方なくギブアップ宣言をする。

要らないものはあげたくない。自分自身、要らないものをもらって嫌な気持ちになる人間だから。

イザークは驚いたようにを見る。

が、言葉がない。

「はい、何か言おうね」

が促すとイザークは短く息を吐いて、

「じゃあ、今度買い物にでも付き合え。母上へのプレゼントを悩んでいるところだ。いい加減自分のレパートリーがなくなってきた」

「エザリア様もお誕生日なの?」

「いいや。でも、毎年11月に贈り物をしている。今年は家にいないからな。早めにプレゼントしておこうと思っているんだ」

もしかして、両親の結婚記念日とかかなと思いながらは頷き、

「じゃあ、そのときにイザークの誕生日プレゼントも買っちゃおう」

と機嫌よくそう言った。

「いや、それはいい」

要るものを買うのだから、邪魔にならないと思うのだが...

そう思いながらは首を傾げた。

「母上へのプレゼントを選ぶ買い物に付き合ってもらうんだ。それで十分だ」

「そういうもの?」

「俺が、それで良いと言っている」

なるほど、それなら確かに良いのかもしれない。

「了解!」

敬礼を向けたにイザークは面倒くさそうな表情を向けた。

内心、ちょっと浮かれているのだがそれはどうしても悟られたくない事実だからいつも以上に不機嫌面を作る。

それでも、は気にしないらしく手を下ろしたあとに「何か食べて帰らない?軽くさ」と言っている。

「太るぞ」と余計な一言を向けてみたが「太りませーん」とは返してきて笑う。

確か寮に帰る途中にカフェか何かあったはずだ。

「仕方ないな」と言いながらイザークが了承の意を示すとは嬉しそうにニッと笑った。









桜風
08.8.1