| 家に帰るといつもよりも少し賑やかな様子だった。 その賑やかな中に知ってる声が聞こえて「またか」とイザークは呟く。 「ちちうえ」 頼りない足取りで息子がホールまでやってきた。 「ただいま、ヴィンセント」 そういいながら息子を抱き上げると「おかえりなさい」と嬉しそうに微笑んだ。 「たちはどこだ?」 「きっちんでおかしをつくっています」 「ラスティも一緒か?」 「らすてぃおじさまは、きっちんですけど、おかしはつくっていません」 「ノルンはどうした?」 「あねうえもいっしょにおかしをつくっています」 「そうか」 舌足らずに一生懸命状況報告をする息子にイザークは目を細めてキッチンに向かった。 「」 「あ!イザーク。お帰り。あら、ヴィンセント」 そういえば、さっきまで足元でお手伝いを一生懸命してくれていた息子の姿がいつの間にか見えなくなっていた。 「出迎えてくれたぞ」 「あら、おりこうさんね」 そう言ってはイザークに抱えられた息子の頭を撫でた。彼は嬉しそうに目を細めている。 「で?貴様は本当に暇人だな。『マッケンジー』というのはそんなに仕事がないのか?」 「やだなぁ、イザーク。今は議会中だろう?イザークが居なくて寂しい想いをしてるかもしれないを慰めに来てたんじゃないか。オレ、超忙しいよ?」 なら、帰れ。 そう思ったが子供たちの前でムキになるのは良くない。父親の威厳と言うものを考えるとここは冷静に対処しなければならない。 「では、俺は帰ってきた。お前は帰れ」 「えー!だって、が今オレのためにお菓子を作ってくれてるんだよ?それを食べてから帰るよ」 イザークがに視線を向けると「せがまれてねぇ」と苦笑した。 「何を作っているんだ?」 「おしるこ」 の言葉にイザークは絶句した。 「なぜ『おしるこ』だ?」 「ラスティが食べてみたいって。自動販売機の買ってこようかと思ったら作ってほしいって言うから。とりあえず材料が揃ったらね、って思って買い物に行ったら揃ったのよ」 まあ、納豆が結構気軽に手に入る世の中になったものね、とかは呟いている。 「着替えてくる」 「ああ、お手伝いしましょう。ノルン、ちょっと火を見ててね」 娘に声をかけると「はーい」と元気な声が返ってきた。一応、心配なのでラスティに視線を向けると彼は苦笑して頷く。 イザークはヴィンセントを降ろして自室に向かった。 「ノルンだけで大丈夫なのか?」 少し心配だ。何せ、娘の性格はこの目の前に居る妻とそっくりなのだ。案外大雑把なのである。 「ああ、ラスティにもお願いしたから大丈夫よ。さすがに自分の口の中に入れるものを面白い味にするはずないでしょう?」 の言葉にイザークは肩を竦めた。まあ、キッチンを出るときにがラスティに視線を向けたのを見たのでそういうことだろうとは思ったが... やっぱり面白くないのは確かだ。 「ただいま」 そう言ってイザークはにキスをする。そういえば、挨拶がまだだった、とはひっそり反省して「おかえりなさい」とキスを返した。 「でも、今日帰ってこれるとは思わなかった」 が心底驚いたように言う。 議会中はイザークは殆ど帰ってこない。忙しくて泊まった方が休めるのだ。 「ああ、まあ。さすがに禁断症状といったところか。というか、胸騒ぎがしたからな」 苦々しく言うイザークには笑う。 「笑うな」 「ごめん。禁断症状ですかー。いやぁ、素直になったよねぇ」 からかうように言うとイザークが益々不機嫌になった。 「ラスティは本当に何を考えているんだ...」 ぶつくさ言うイザークにがクスクス笑っている。 「笑うな」と言うと「これ、ナイショね」とが口元に人差し指を当てた。 「今日ね、ラスティ来た途端、『今日はイザークが帰ってくると思うんだ』って言ったの」 「はあ?」 「ラスティもイザークに会いたかったのよ」 では何故こうやってにちょっかいを出すようなことを言うんだ... 「だって、そのほうが確実にイザークが絡むもの」 声に出していない疑問には笑いながら答えた。 「要は、わたしはダシなの。ラスティが友達に構ってもらうための、ね。今度のお休みのときにでも出かけたら?ラスティとデート」 笑いながら言うに「気持ち悪い事を言うな」と返す。心底嫌そうに。 その表情がおかしくてはまた笑う。 「でも、そうね。イザークがラスティばかりに構い始めたら、わたし拗ねちゃうかもよ」 からからと笑いながら彼女が言った。 イザークは目を丸くして苦笑する。 「それは、是非とも避けなければな。最愛の妻の機嫌を損ねるのは、まずいだろう?」 そう言ってイザークはに唇を寄せた。 それが触れる寸前にドンドンと部屋のドアがノックされてあと0.1秒待ってくれたら、と心の中で打ちひしがれながらイザークはピタリと止まった。 「はーい」 少し残念そうな表情を浮かべたが返事をすると「ママ?」とドアの向こうにいるのがノルンだと分かる。 「どうしたの?」 ドアを開けて声をかけた。 「うん。そろそろ火、いいんじゃないかってラスティおじさんが」 また貴様かぁ!! 思わず叫びそうになったイザークはグッと我慢した。 「そう。じゃあ行ってみましょうか。ちょっと先に下りて火を止めてね」 に言われてノルンは「うん」と返事をして階段を駆け下りる。 「ラスティは、泊めないぞ」 断固たる決意を宣言すると、 「もちろん。わたしだって気兼ねなくイザークに甘えたいもの」 とが言う。 はイザークの元へ戻って頬にキスをして「早く降りてきてよ」と部屋を後にした。 それはが滅多に口にしない言葉だ。 イザークは誰も居なくなった部屋で照れ笑いを浮かべていた。 |
桜風
10.2.1