blessing





 人間の体というものは本当にすごいなぁ、と自分のおなかを見下ろしては感心した。

この経験は三度目だが、毎回思うのだ。

今回ももれなく思ってしまった。

だって、ここに一つ命があるのだ。

「どうした?」

の様子を目にしたイザークが声をかけてきた。どこか調子が悪いのかと心配したのだ。

「ううん。なんでもない」

「本当か?調子が悪いのを隠しているんじゃないだろうな」

「疑り深いなー」

「...心配しているだけだ」

確かに、少ししつこいなと思ってイザークは心配顔をやめた。

「ノルンがいなくてさみしいか?」

からかうようにイザークが問うと「まあね」と素直な返事がある。

「やけに素直じゃないか」

「いいじゃない、たまには」

そんなことをいうにイザークは苦笑して彼女を膝の上に乗せる。

「重いな」

「2人分乗ってるもの」

「...そうだな」

そう言ってのおなかに手を添えた。

「もう準備万端?」

が問う。

「ん?」

「イザークの方は、準備万端ですか?」

もう一度言う。

「ああ、まあ...」

「何、その曖昧な返事」

「いくつか候補があるんだが、中々決められなくてな」

困ったようにイザークがつぶやく。

目下のイザークの準備といえば、子供の名前を考えることだった。

最初の子供は娘で、の亡くなった母親の名前をもらった。2人目は息子で、イザークの亡くなった父親の名前をもらった。

そして、今度の3人目。今度こそ、イザーク自身が名前を考えなくてはならない。

外野がうるさいが、が「イザークに決めてもらう」と高らかに宣言してしまったので、彼らは大人しくなった。

「早くしないと、この子は名無しのまま過ごすことになっちゃう。酷いお父様ですねー」

お腹をさすりながらがおなかの中の新しい命に向かって声をかけるとイザークはぐうと唸った。


「お、おい。イザーク!!」

職場で、通信に応じたディアッカが慌てた声で名を呼んできた。

「どうした、落ち着け」

「や、慌てるって。、出産が始まったって」

「何ぃ?!」

思わず立ち上がったイザークはデスクで腿を打った。思わずうずくまったがそれどころではない。

「ど、どういうことだ?!」

「や。今エザリア様から」

ディアッカが言うとイザークがその回線を奪う。

「母上?!」

「イザーク。今からこちらに来られるかしら?」

「予定よりも早いのでは?」

「そうね。でも、早すぎることはないわ。落ち着きなさいね。慌ててこちらにやってくる途中に事故に遭ったらそれこそ笑い話にはならないわ」

「は、はい」

イザークが通信している間にディアッカはイザークが早退するために、イザークの上司とも言えるラクスの了解を取っていた。

「まあ。それは、急いで行って差し上げてください。も心細いでしょうから」

と、即了解をもらうことができ、イザークはそのまま執務室を飛び出した。

「事故るなよー!」

執務室の前でディアッカが心配そうに声をかけてきた。

イザークはそれに返事をする間もなくそのまま廊下をかけていく。

「...大丈夫か?」

初め、エザリアからの連絡を受けた時には驚いてディアッカも動転してしまったが、イザークの慌てっぷりを見て冷静になれたのだ。

「てことは、イザークは明日も休みかなー」

書類の処理期限を確認しながら呟く。


病院につき、分娩室の前にまろぶようにたどり着いた途端、産声が聞こえた。

「は...」

呆然と立ち尽くすイザークを見つけたエザリアに促され、看護師に確認してそこに足を踏み入れる。

...」

「あら?間に合った?」

疲れた表情をしているが、優しく微笑んだ彼女は美しく、イザークの頬に涙が流れる。

「あれ?ちょっと!」

驚いたの手をイザークはぎゅっと握る。

「すまない。ありがとう」

「これ、三度目」

苦笑してが言う。

全く同じことをイザークは3回繰り返しているのだ。

「ね、名無しちゃんにはどんな素敵なプレゼントがあるの?女の子だって」

が言う。

看護師が抱いている赤ん坊を受け取り、イザークの頭に浮かんだ言葉。

「コトブキ」

「ん?え、なに?」

「昔の、小さな島国の言葉で、祝福の意味を持っているんだ」

「...ふーん。素敵じゃない」

そう言ってがほほ笑む。

新しく生を受けたことを祝福され、平和な世界を生きてくれたらいい。

「あ、ノルンに連絡して。コトブキの写真も送ってあげてね」

「え?あ、ああ。そうだな。うるさそうだ」

苦笑してイザークが応じる。

突然現実に戻された気がした。

、愛している」

「あら、ここは外よ?」

「知るか」

そう言って笑ったイザークは分娩室を後にした。









桜風
13.5.1


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