| 最高評議会の開かれる議場でイザーク・ジュールの議員就任への議題があがった。 最初から反対する議員がいたが、話だけでも聞くということで、イザークが議員たちの前で話をする。 この戦争を通して自分が見たもの、感じたもの。考えたこと。 先日アイリーン・カナーバにも話したそれを再び言葉にした。 聞き終わったときには、最初は反対をしていた議員の中にも、イザークが議員になるもの別に悪くないという考えのものも出てきた。 しかし、それでも異を唱えるものもいる。 エザリア・ジュールの傀儡になるのではないか、など。そんな懸念を示された。 「エザリア・ジュールについて、このあとの議題としてあげさせてもらっていますが」とカナーバが切り出した。 「彼女は、現在監禁しております。が、釈放という流れを考えております」 カナーバの言葉に議会は紛糾した。 というか、カナーバ、エルスマン、アマルフィ以外の議員が異を唱えたのだ。 「彼女について、社会的制裁を与えるということを考えています。今後、政治には一切関わらない。ジュール家の家督は、息子のイザーク・ジュールに継がせる。そして、今、彼が話したように彼はずっと議員をするつもりはなく、地球との和平に向けて、現在の混乱した情勢を安定させるために議員になることを決めている。つまり、地球側との条約を制定した折には辞職をするといっている。だから、それまでの期間、彼女が不穏な動きを見せないように、監視をつけるというのは如何だろう」 先日ホーキンスと話した内容を口にした。 それでも、なんだか腑に落ちない議員たちははやり難色を示している。 カナーバは仕方ない、と溜息をついた。 彼女だってこの名前はあんまり口にはしたくなかった。 「・をご存知だろう?」 カナーバが口にした名前に場内はざわめく。 イザークは俯いて唇を噛んだ。 「彼女は、イザーク・ジュールの婚約者だ。エザリア・ジュールがあのようなことになったので解消されると思っていた2人の婚約だが、の先代当主も認めているそうだ。あの方は、家督を譲られたが、その発言力は今でもあの家の中では大きい。その元当主が認めた婚姻ということになる」 カナーバは周囲を見渡した。 「彼女が、彼の傍にいるのだ」 「しかし、彼女の父親は...」 どこで聞きつけたのか、一人が言う。 カナーバは頷いた。 「しかし、それを止めたのもまた、・だ。我々にとって彼女の父、カイン・はプラントを守る英雄だった。そして、その彼が、悲しいことにプラントを憎み、そして壊そうとも思っていた。それは、皆様もご存知のようだな」 議員たちは頷く。中には初耳だったものもいたようだが、この際関係ない。 「しかし、それを止めたのは・。彼の娘本人だ。プラントへの核攻撃を防ぎ、そして地球への脅威、いや、我々人類の脅威であったジェネシスをも彼女は破壊した。彼女は、止める力を持っている。もし、イザーク・ジュールが間違いを起こそうとした場合、必ず、彼女が止めてくれるだろう」 「しかし、愛するものを止めることができるのか?!」 ひとりが言った。 「止めるだろう。彼女が、父親を愛していなかったとお思いか?彼女は幼い頃に母を亡くした。そして、父に育てられた。自分を育てた父親に対して彼女は銃口を向けて、止めたのだ。命を懸けて」 「私は、イザーク・ジュールの議員就任を推薦します」 静かに、ユーリ・アマルフィが沈黙を破った。場内がざわめく。 「彼は、我々と違って戦争の現場を見ています。戦い、傷つき、そして仲間や敵としていたナチュラルの兵士が命を奪い奪われるその様子を。彼だけなのです、それを直接目にしたのは。我々が見ていたのはモニタに映るそれで、情報として上がってきた数字だけです。彼は、我々が目にしなかった戦争の真実を目にしているのです。そういった人の意見は貴重です」 彼の言葉に反論できるものはいない。 それは事実だし、確かに自分たちは机上で論じていただけだ。勿論、それが議会の本分でもあるが、現場の声、現実を見てきた者の意見は必要となるだろう。 静かに、流れが変わった。 イザーク・ジュールの評議員への就任は承認された。 イザークは深く頭を下げた。 イザークが議場から出てくるとそこにはがいた。 「なぜ...?」 イザークが呆然と呟く。 は微笑み、 「無事に終わってよかったね」 と言った。 彼女は控えていたのだと気づく。 最後の切り札として、本人に議会で誓わせようとしたいたのかもしれない。イザーク・ジュールが間違いを起こそうとしたときには自分が止める、と。 「すまない」 「どーいたしまして。どの道、出番がなかったんだしさ。頑張ったね」 が笑う。 「俺は、お前に敵わないのかもしれないな」 イザークが呟く。 「なに?」 聞き取れなかったが聞き返すと 「また、部下たちに放っておかれたと文句を言われるぞ」 とにやりと笑って言う。 「ああ、うん。もう全部ホーキンス隊長に預けてきたから。というか、見てられないから、オレに預けろと怒られた」 あっけらかんと言うにイザークは深く息を吐く。 「帰るぞ」 「はーい」 スタスタ歩くイザークの後ろをのんびりとが歩く。 日を置かずに、イザークは史上最年少の評議委員になり、プラントの復興と地球との和平のために走り回る日々を送るようになった。 ディアッカはその護衛となり、ザフトに本格的に復帰した。 はザフトが落ち着いたと思うや否やすぐに除隊した。惜しむ声も少なくなかったが、それは当初の予定通り受理された。 ニコルは早々に除隊して、人々の心を慰めるための音楽活動を始めた。 ラスティも除隊した。彼は、母親が再婚した相手の会社を継ぐべく猛勉強することになっていた。 「、社長夫人になりたかったらいつでもオレの元に来い!」 そんなことを言っていたラスティだったが、さすがに2人の挙式に出席したときにはそんな話をしなかった。 ただ、なぜか号泣しながら贈る祝福の言葉はのみにしか贈らなかった。 自分たちが思っていたよりも多くの人たちに祝福されてイザークは幸せそうに微笑んでいた。 そんなイザークを見上げては泣きそうになった。 自分の大切に思う人たちが幸せそうに穏やかに微笑む。の、守りたいと思い描いた未来が確かにここにあるのだ。 そして、その1年後。 とイザークの間に家族が増えた。の守りたい未来が変わる。幸せな、穏やかな時が緩やかに流れていくことをさらに強く切に願った。 |
桜風
08.8.18
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