my princess 2




 少し空き時間が出来たため、イザークはディアッカに一言声を掛けて執務室を空ける。
 向かったのは国防委員会本部だ。
 アポイントは取っていないが、委員長への面会を申し入れると丁度時間が空いていると言って通される。
「どうした、珍しいな」と声を掛けたのはホーキンスだった。
「少し気になる話がありましたので」と言って話し始める。
 聞き終わったときに険しい表情を浮かべていたのはホーキンスだった。
「裏は?」
「取れていません。今の話の大半は妻の推測です」
 イザークの言葉にカインとホーキンスは揃って天を仰いだ。
 現役を退いたとはいえ、幼いころから染み込んでいる戦士としての感覚が受けた印象なら随分と信頼できる。更に、彼女はクルーゼの部下として戦い、デュランダルと腹の探り合いをして読み負けなかったという実績がある。勘はいい。
 だからこそ、イザークもこうして報告をしに来たのだろう。一民間人の憶測の話を。
「わかった」とカインが頷いた。
「報告は以上か? ならば下がっていい」
「はっ」と敬礼してイザークは部屋を出る。
「ホーキンス。例の、コーディネーターの排除を目的とする武装集団の動向は掴めているか?」
 ドアが閉まる寸前に聞こえたカインの言葉にイザークはため息を吐いた。

「カイン、お前悪い大人だな」
「彼はもう充分大人だ」
「「おじちゃんだあれ」ってに言われても知らないぞ?」
「人の古傷を頻繁に抉るな」




 来客があったと告げられてが向かうと、ラスティがひらひらと手を振っていた。
「いらっしゃい。仕事は?」
「今日はオフ」
「あー! ラスティお兄ちゃん。今日はママを取っていく気?」
 指さして不満げに口を開くノルンに「それはうまくいかないから諦める」とラスティは笑う。
「これ、昨日のお詫びのエクレア。機嫌直してよ」
 最近よく耳にするその店は毎日長蛇の列だと聞いている。
「誰かに並んでもらったの?」
「オレがお詫びをするのに、どうしてほかの人に並んでもらうんだよ。おかげで足が棒になっちゃった」
 自身で並んで購入したという。真偽のほどはどうかわからないが、本人の言を信じることとした。
 何より、すでに娘が上機嫌となっているのだ。
「ノルン、お茶を用意してもらってきて。これ、ラスティのもあるんでしょ?」
「うん」
「はーい」
 パタパタと遠ざかっていくノルンの背中を見送り、はラスティに視線を戻した。
「どうして本命にはできないかなぁ?」
「何か、ガラじゃないって思っちゃうんだよね」
「それじゃあ一生無理じゃない」
 呆れて言うにラスティは苦笑を零した。


 客間に移動してお茶を待っている間に「そういえば、お見合いどうなったの?」とノルンが聞く。
「断ってきたよ」
「イザークの見立ては?」
「向こうさん、大喜び。これを選べるなら考えてもいいって言われたから慌てちゃった。友人に知恵を借りたって言ったら、そのお友達と仲良くなりたいって言われたよ」
 の目が据わる。
「ちゃんと、奥さんいるからダメだよって断ったって」
 ラスティが笑いながら返した。素直になったもんだ。
「そういえば、昨日フレイお姉ちゃんと会ったよ」
「へー」
「ラスティお兄ちゃんのお見合いのプレゼントを選ぶのにパパ取られちゃったって話したの」
「待って?」
「これまでも間に立っている方の顔を立てるためにお見合いはしてたみたいだけどって付け加えておいたわ」
「おおい!」
 ラスティが盛大に突っ込む。
「え、待って。酷くない?」
「ほとんど舞台が整ってるのにモタモタしてるラスティが悪い」
 頭を抱える友人に視線を向けながらが言い放つ。
「イザークをデートに誘ってやる」
「は?」
「イザークをデートに誘ってやるんだから」
 ラスティの言葉にはため息を吐いた。
「どうぞご随意に」
 どうせ振られると高をくくっている。ラスティもそう思いながらも口にした言葉だった。

「ああ、いいぞ」
 仕事から帰ってきたイザークを出迎えたラスティが「これからオレとデートしない?」と誘った。
 怒鳴られるのを覚悟していたが以外にも了承する言葉が返ってきて却って混乱する。
「ん?」
 も後ろで首を傾げていた。
「というわけで、またちょっと出かけてくる」と言ってイザークはホールを出ていき、「ん?」と首を傾げながらラスティも続いた。
「あれ?」
 残されたは首を傾げたまま呆然と呟き、ノルンも不思議そうに首を傾げていた。

「えっと……どこに行く?」
 自分が乗ってきたエレカを運転しながらラスティは混乱したまま問うてみた。
「このままだ」とイザークが返す。
から話は聞いたか?」
「え、四人目出来たの?」
「は?」
 イザークが目を丸くする。
「ちがうよね。びっくりした」
「俺の方が驚いたわ」
「んじゃ、フレイにオレの見合い話したってやつ?」
「……話してないのか。まあ、ノルンがいたしな」
 イザークは嘆息吐いてちらとラスティに視線を向けた。
「コーディネーターの排除を目的とする組織がフレイを狙っている可能性があるらしい」
「どういうこと?」
 車内の空気が緊張する。
「ほとんどの推測なんだが」と前置きをしたイザークが昨日のことを話し始めた。
 聞き終わったラスティは「ブルーコスモスのような組織ってこと?」と問いを重ねる。
「全容は俺にもわからん。ただ、今日の、一民間人の推測を国防委員長閣下に話したんだが、部屋を出るときに俺にも聞こえるようにそういう組織をマークしていることについて副委員長閣下と話を始められた」
「それって、民間人に頼りすぎじゃない?」
「俺もそう思った」
 ため息交じりにイザークが返す。これは安全保障上の情報だ。
 イザークとの間の約束事を周囲の人間は知っている。
「ちょっと過敏だと思わない?」とから聞いたラスティとディアッカは同時に「「いや、仕方ないって」」と苦笑したものだ。
 だから、カインが少なからずイザークとを当てにしているというのは間違いないだろうが、ラスティは呆れた。娘とはいえ、優秀な戦士だったとはいえ、今は主婦なんてものをしている一民間人を巻き込むのはどうかと思う。
「ザフトってそんなに人材不足なの?」
「そうは思わんが……」
 げんなりしたようにイザークは返した。やはりラスティが話を聞いてもが当てにされていると思うのだろう。
「とりあえず、情報提供ありがとう」
「いい加減、どうにかしたらどうだ?」
 ラスティは眉を上げる。イザークはそういうことを言わないと思っていた。
「俺自身どうでもいいと思っているが、がやきもきしている」
「さっきも、舞台がこれだけ整ってるのにモタモタしてるオレが悪いって言われた」
 肩を竦めるラスティに「そうだな」とイザークは笑った。
「そういえば、昨日の。イザーク完璧だったみたい」
 何の話だ、と首を傾げると「月の石」とラスティが続ける。
「それはよかったな」
「ぜひとも紹介してほしいって言われた」
「興味ない」
「民俗学仲間ができるかもしれないのに?」
「興味ない。というか、が妬くだろう」
「うわー、自信満々。腹立つ」
 ラスティの言葉にイザークは勝ち誇ったように鼻を鳴らす。
「あー、そうだ。『が妬く』で思い出したけど」
 ラスティの言葉にイザークは構えた。
「たぶんだけど。家に帰ったらの機嫌を取るのに苦労すると思う。どーんまい」
 グッと親指を立ててさわやかな笑顔を向ける。
「は?」
、素直でかわいいね」
「待て」
「どうする? 家まで送ろうか?」
「いや、それはラスティが手間だろう。こちらの帰りは気にしなくていい。適当にエレカを拾って帰る。そうじゃなくて」
「そっか。じゃ、オレ帰るから」とラスティはエレカを路肩に寄せた。
「待て、さっきの」
「どーんまい」
 ラスティに答える気がないのを理解したイザークは諦めてエレカを降りる。
「何かあったらまた教えてね」
「そっちも調べるんだろう? わかったことがあれば情報提供頼む」
「了解。んじゃーねー」
 ラスティはイザークに向かって投げキッスをしてアクセルを踏んだ。
 イザークはげんなりした表情を浮かべてそれを払うように手を振る。

 帰宅すると「パパの浮気者」と娘に詰られて怯む。
 何が何だか、と思いながら部屋に帰ると「ラスティとのデート楽しかった?」とに問われて、「デート?」と眉を寄せた。
「絶対断ると思ったのに」
 拗ねたように言うに、ああ、そういうことかと納得する。先程のラスティが言っていた『の機嫌を取る』とはこのことだったのだ。
 とりあえず、今は機嫌を取っても仕方ないと判断して着替えを済ませて部屋を出た。
 遅れても部屋を出てくる。
 食事を済ませて子供たちの就寝前の挨拶を受けては「で?」という。
「別に楽しいものではなかったな」
 イザークが帰ってきた際にが投げかけた疑問に随分と時間を置いて返事をした。
「イザークのことだから断ると思ってた」
「昼間に、本部で聞いた話をしてたんだ」
「大丈夫なの?」
「ラスティの情報網も広いからな。足がかりがないと情報収集も難しいだろう?」
 イザークの言葉に「ふーん」とはあまり気の乗らない返事をした。
「最高評議会議長の親衛隊が聞かなきゃならない内容だったの?」
 の言葉にイザークは肩を竦める。そうは思えない。正式な情報提供ではなかったのがその証拠だ。
 ため息を吐いたイザークは国防委員長室を出てく際に耳にした言葉をに伝える。
 彼女もため息を吐いた。
「正式な協力要請があれば、堂々と協力するのに……。なーんか、国防委員長閣下は別のことをお考えなのかしら?」
「プラントの一市民に協力を強制できるのは最高評議会だからな。ザフトにその権限はない」
「強制力はなくても協力依頼はできるでしょ」
 は肩を竦める。
「内容が内容だからな」
「尚更」
 ここまでが渋るとは思っていなかったイザークは少し意外に思った。
「牽制、という意味も込めて断っておくか?」
 イザークとしてもが大人しくして、危険な目に遭わない方がいい。彼女は「自分の出来ることだから」とこれまで色々と立ち回っていたが、それを間近で見ていた当時の自分の心境を思い出して少しだけ眩暈を覚える。本当は大人しくしてほしい。
「んー」と唸ったは「いいよ」と首を振る。
「優秀なザフトの皆さんがあっという間に解決するかもしれないし」
 痛烈な厭味だな、と思いながらイザークは反論せずに口を噤んだ。









桜風
20.07.27


ブラウザバックでお戻りください