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あの日から、なんでもない日が流れ、その中で私は非日常である秋野の仕事もこなしていけるようになった。
サポートチームである彩は、時々私たちと一緒に仕事をしていた。
彩の持つ式神の様々な力が必要なときが多いから。
「今回って、かなり面倒くさそうだね」
そのときも私と彩は組んでいた。
今回の仕事はかなり複雑だった。
いつもの如く秋野の子供を狙っているなら慣れているけど、今回は会社についてのことらしい。
会社の組織のことなんて分からないし、それこそ、何をして良いのか分からない。
しかし、もっと複雑だった。
<もしかしたら、裏切りが出たのかもしれない。俺たちGIFTの中から。誰ってのは特定できないから気をつけて>
頭に直接響いてきた。
のんの声だ。
“のん”、つまり望月望(もちづきのぞみ)は、ある日突然テレパシストの能力に目覚めてしまって、人の思念が頭に流れ込んでくるようで頭がオカシクなりそうだったらしい。
でも、丁度生まれた秋野の二の姫、参の姫のお陰でそれは免れたと聞く。
そして、同じく救われたと言っている土井さんの次男坊のカナと共に2人のガードになることを決めたのだ。
とはいえ、実戦経験もないのに誰かを守るなんて出来るはずが無い。
と言うわけで、私たちと同じ仕事をしているのだが...
ムカつくことに凄くセンスが良い。
私が一生懸命会得したものを揃ってあっさり会得するものだから苛めたくもなる。
「気をつけてといわれても...これって皆に言ってるんじゃないの?」
「んー、違うと思うよ。望はチャンネル選んでいると思う。僕たちと、要(かなめ)と、あと、そうだな、敦也も今回参加してるよね」
のんびりとした口調でそう分析するが、頭の中で誰なのか自分の持つ情報を駆使して考えているようだ。
のんからの連絡が来たときもすぐに式を飛ばした。
相変わらず、隙が無い。
「よう、大丈夫か?」
彩は一瞬鋭い視線を向けた。
そこには、GIFTの仲間が居た。
私は気を緩めて、彼に近づく。
「うん、そっちこそ。あれ?パートナーは?一人で行動するのは危ないよ。ほら、さっきのんから連絡があったでしょ。誰かが裏切っているって。一緒に居ないと疑われるよ」
そう言った途端、
「和!」
彩が私に被さった。
「望月か。あいつも早めに殺っとかないとな。あのテレパシーは厄介だ。俺よりも腕がいいしな」
そう言って笑うコイツの目にははっきりとした殺意が込められていた。
彩の肩から血が流れていた。
「殺す...」
殺意を込めて呟いた。でも、
「ダメだ、和。秋野に居られなくなる、よ。そんなのダメだ。僕は、イヤだ」
って彩に止められる。
「じゃあ、2人とも死ね」
銃を向けられる。
覆いかぶさって私を庇っている彩がビクともしない。
「彩、どいて。私が止めるから!」
「ダメだよ。和は僕が守るんだから」
ジタバタ暴れても全然動かない。
「じゃあな。あの世でジャレてろ」
もうダメだと思い、体を強張らせていると、金属が床に落ちる乾いた音がした。
「間一髪!」
「彩ちゃん、大丈夫?」
カナとのんが居た。
カナの手には特製のワイヤーがある。
それは、腕さえ良ければ鉄をも切り落とすことが出来る強度を持つと聞いたことがある。
今までそんな非常識なことは無いだろうと思っていたのに。目の当たりにして否定できなくなってしまった。
「望月!?」
「あなたの力は雑すぎるんですよ。いや、性格かな?」
「何で...?」
突然現れた2人に私は呆然とした。
カナが彩を起こし、私に手を貸してくれた。
「んー。ずっと彩ちゃんがのんに救援信号を送ってたんだよ。望はいつもアンテナを立ててるわけじゃない。しまってるけど、時々アンテナを立てるんだ。今回みたいに誰かからの望に向けての救援信号が来てたらいけないからさ。で、そのことに気づいてた彩ちゃんがずっとここのポイントを送り続けてくれたんだ。残念ながら、俺たちは彩ちゃんの式の姿が見えないから案内してもらえないし」
彩の顔を見ると蒼い顔をしながらも
「もう、大丈夫だから」
と、笑顔を向けてくれた。
「...望、そいつ壊そう」
カナが言った。
「いや。来てくれたみたいだから大丈夫だよ」
そう言ってのんが向けた視線の先には、
「敦也?!」
「よう。まさか、アンタがな」
私たちに軽く手を上げ、敦也は睨みながら裏切り者に声を掛けた。
「和さん。彩ちゃんを病院に連れて行こう。望、ここは頼んだぞ」
そう言ってカナは止血を済ませた彩に肩を貸してその場を後にする。
「和も行ってやれ。要一人で力の抜けた彩を支えるのは一苦労だろ。こっちは全然問題ないから」
そう言って敦也が手をヒラヒラと払った。
私は慌てて彩たちを追った。
「カナ、代わろうか?」
「女の子に重いものを持たせたって聞いたら、昴たちに非難される」
苦笑しながらそう言う。
でも、カナ。『重いもの』って...
彩を荷物扱いしないでよ〜。
「加賀さんに電話してこの状況を説明して。和さん運転できたよね?」
「この間取ったばかり」
そう答えながら加賀さんに連絡を入れる。
車を1台借りて急いで加賀さんの病院へ行き、彩を運ぶ。
車の中でカナが応急処置をしてくれていた。
加賀さんは病院の前で待っていてくれていた。
「輸血が必要か...?要。一応、治親(はるちか)を叩き起こしてくれ。血液型が一緒のはずだ。あと、和。臣たちにも連絡を入れとけ」
そういって加賀さんが彩を抱えて去っていった。
カナは急いで加賀家の方に向かって走って行った。
私は震える手で杉浦家に連絡を入れる。
『はい、杉浦神社です』
「臣くん?あの...」
『和?どうかしたか?彩は一緒じゃないのか?』
「ごめんなさい!私のミスで彩が...」
『分かった。今何処だ?』
「加賀さんの病院」
『今すぐ行くから。大丈夫。彩は和を悲しませることはしないから』
そう言って電話が切られた。
私は急いで診療室へ向かった。
そこには寝起きのハルくんがもうひとつのベッドで輸血をしていた。
「生だぞー。俺のすっごい血だぞー。たーんと吸収しろ」
寝ているところを叩き起こされたハルくんは目が据わっていて、何やらブツブツ言っていた。
正直怖い。
「和さん。臣くんたちには連絡ついた?」
「うん、すぐに来るって」
「敦也からも連絡が来たぞ。始末はつけたそうだ。今こっちに向かってる」
席を外していた加賀さんが戻ってきてそう報告してくれた。
「和。彩は?」
病院に来たのは敦也たちの方が先だった。
「うん、寝てる。ハルくんの血を貰ったし、落ち着いたと思うよ」
敦也とのんは安堵したように息を吐いた。
「あー、俺の方が血が足りなくなったかも〜」
敦也たちの声を聞いてハルくんも出てきた。
「じゃあ、今度バケツいっぱいのほうれん草を送るよ。それ、全部食べて。俺からのささやかなプレゼント」
敦也がそう言うとハルくんが
「要らない。もっといいものがあるだろ、肉とか肉とか魚とか」
「和さん。今度彩ちゃんとハルくんを焼き肉屋さんに連れて行ってあげたら?」
そばで聞いていたのんが笑いながらそう言ってきた。
「和。大丈夫か?」
外でバイクの音がしたからそうかなって思ったけど、臣くんが来た。
「私のミスなの。彩から、のんの通信は一部の人にしか流れていないだろうって聞いてたのに、その内容を口にしてしまったから...」
「うん、そうか。でも、和を守るってのは彩が決めたことだし。だから、和は気にしなくていいよ。どうしても気になるんだったら『ありがとう』って言ってやって。それだけで、彩はとても嬉しいだろうから」
そう言って頭を撫でてきた。
怒られると思った。
大切な弟が傷つく原因になった私を、責めると思っていたのに...
「ごめん、和さん。俺、まだちょっとコントロールが弱いから...」
そう言ってのんが声を掛けてきて
「でも、臣くんはそんな風に思っていないよ。臣くんにとっては和さんも彩ちゃんと同じように大切なんだと思うよ。だって、臣くんが和さんを見るときの目と、彩ちゃんを見ときの目。同じなんだよ」
そう続けた。
「読んだ、の?」
「ううん、流れてきた。俺はアキちゃんとはちょっと違うんだ。人の心が頭の中に響いてしまうんだ。聞きたくない本音も。アキちゃんはそれを見なければいいけど、俺の場合はそうはいかなかったんだ。考えないようにしても頭に響くからずっと気になってしまうし。正直、辛かったね...」
初めて見たのんの表情に、言葉が出なかった。
この子も、凄く大変な目に遭ったんだ。
思わずのんの頭に手を置くと、のんはちょっと驚いて、そして笑った
。
「ありがとう。でも、俺ずっと前からもう大丈夫だから。要がいたし、恵と昴が俺を選んでくれたから」
そう言った。
彩は数日入院することになった。
どこも悪くないけど、療養のために。
私は毎日お見舞いに行った。
昼間は、他の手が空いている仲間が行っているらしく、何かしら病室にものがあった。
「やあ、和。今日も来てくれたんだ、ありがとう。嬉しいけど、無理しなくてもいいよ。和だって忙しいだろうに」
そう言って彩が気を遣う。
「ううん。大丈夫。来たいから来てるんだし」
高3の私たちは受験を控えていた。
私は道を決めていた。
そして、彩も敦也も。
学校の進路のこともそうだけど、秋野のことで。
私たち3人はサポートチームに入るって決めた。
それぞれが出した決断だ。
彩は元々サポートチームだったけど。
進学については、私たちは大学に進む。
今度はみんなバラバラだ。
彩は家業の神社を継ぐために神道の学部のある大学に行く。
敦也は昔からなりたかったジャーナリストを目指して文学部。
そして、私は法学部。
警察官になろうと思った。
私の持っている異端の力はやはり上手く使えない。
だったら、私自身でちからになれることを考えた。
私が今までこなした『秋野』の仕事では警察内の『秋野』のお世話になっていることが多い。
周りに聞いても、そういうのが多いそうだ。
だったら、私はそっち方面で役に立とうと思った。
キャリアで上を目指して、より多くの情報を集められるようになって秋野の人たちを守る、と言うのが最近の私の将来の夢というヤツだ。
勿論、大学にはストレートで合格。
就職も躓いていない。
自分で言うのも何だが順調な人生を送っている。
臣くんが言っていた。私には臣くんじゃないって。
今なら何となく分かる気がする。
あの時の私の臣くんへの想いってのはたぶん、強い憧れだったんだと思う。
いつも余裕があって落ち着いていて。
そういう『大人』って感じに憧れてしまったんだと思う。
でも、今は。
私の隣にはいつも穏やかな彩が居る。
彩が居れば私の心も穏やかになる。
彩は、凄く、不思議な人。
「何?僕おかしいかな?」
彩をじっと見ていると私の視線に気づいて首を傾げられた。
「ううん。彩って不思議だね。いつも穏やかだ」
「そうでもないよ。僕だって八つ当たりをしたこと有るよ。昔、兄さんにやっちゃったもん」
そう言って苦笑をした。
原因を聞いても教えてくれない。
でも、きっといつか教えてくれると思う。
彩はいつもそうだから。
「悪い、遅れた」
「おっそーい!」
遅れて敦也がやってきた。
「じゃあ、何を買いに行こうか。兄さんはネクタイを贈るって言ってたよ。今度、優って大学に上がるでしょ。入学式に締めてくれたらいいなって。で、昨日帰ってこられた奥様は、そのネクタイに合いそうなスーツ。...4日で出来るのかな?」
「んー。それなら、身に着けるもの系でいく?ついでにコーディネートしちゃおう!」
「時計、財布...鞄も有りだな」
指折りながら敦也が呟く。
「じゃあ、ここで考えても仕方ないから、予算内でイイ感じのものを探そうよ。さ、行こう!」
そう言って私は敦也と彩の前を歩く。
敦也は「はいはい」と言いながらゆっくり足を進め、彩は笑ってのんびりついて来る。
絶望したと思った私の世界だけど、今はこうして輝いている。
現れてしまった異端の力は、殆ど役に立たない。
それでも、その異端の力に感謝をしたい。
お陰で私の世界が変わった。
おそらく、『普通』ではなくなった。
でも、それが何だと言うのだ?
私は親友を得た。
私は私らしく居られる場所を得た。
私は愛するという気持ちを知った。
穏やかな時間を感じられる。
臣くんが言っていた。
世の中にはすべてのことに意味があるのだ、と。
皆から聞いた。
この世の全ては神様からの贈り物だ、と。
だから、きっとこの世の全ての意味は神様がくれた贈り物なんだと思う。
その全てを受け取ることは出来ない。
私たちはちっぽけな存在だから。
でも、せっかく神様からもらえるものなんだ。
貰えるものは貰っておきたいって思う。
勿論、「ありがとう」という言葉を添えて。
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