GIFT〜神様からの贈り物〜
――― プロポーズその後 ―――
| 篠崎俊夫が能瀬佐代子にプロポーズをしてOKされた。 そんな2人が揃って長年お世話になっている秋野に報告にやってきたのは、社長である秋野博幸が日本に滞在する最後の日で、そして、その奥さんの幸子も久しぶりに日本に戻ってきていた。 とはいえ、忙しい二人に会うのは中々できず、同じ敷地内にいるのに、声を掛けるのも憚れる。 「砕けたら自棄酒くらいは付き合ってやる予定だったのになー」 いつも忙しくしている高橋俊也だが、俊夫には時間を割いてやることが多い。 「残念でした!けど、ホントお世話になりました」 深々と頭を下げる俊夫と佐代子。俊也は2人の大恩人だ。 「ねえ、あの家どうするの?」 パリッと乾いた音に続いてボリボリとこもった音がする。 何故かこの場に同席している俊也の娘、彰子が煎餅を頬張っていた。 その隣で杉浦神社の長男、杉浦臣が緑茶を淹れている。 「あの家って?」 「佐代子さんち。俊夫さんのお母さんがあそこに移るってのも妙な感じはするしさ」 「確かに。それは何だか違う気がするわ」 そこまでは考えていなかったらしい。 臣が皆の前にお茶を配る。 「秋野が買い取ってもいいと思うけど...」 俊也の言葉に佐代子が首を振る。 「いえ、それは...これ以上よくしてもらっても返せません」 「十分な物を貰ってるけどな。そうだなー...彰子、せんべいの音がうるさい」 とりあえず真面目な話し合いのはずだが、彰子がさっきから口にしている煎餅を噛み砕く音が響いて間抜けなものになっている。 「いや、待って。お父さん。美味しいんだよ、コレ」 「そりゃそうだろ。恵が取り寄せたヤツだからな」 「え、めぐが?!ちょっとオバサンくさくない?まだランドセルでしょ?」 「そのオバサンくさいと思われる煎餅をさっきから止め処なく食べているアキはおばさんってことか?」 彰の目の前にある煎餅に手を伸ばしながら臣が言う。 「な!しっつれいね!!そんなことを言うんだったら、臣の心を読んであーんなことやこーんなことをここに居る皆にばらすわよ!!」 「じゃあ、俺は魔王を召喚してやるよ」 「どっちもウチじゃ出来ないでしょー」 呆れたような声がした。 その声の元を見てみると、今話題に上っていた恵が立っていた。 「ああ、昴か。お帰り。恵はどうした?」 俊也が声を掛ける。 恵と思っていた子は双子の姉の昴だった。何年も秋野に居ても中々区別がつかずに間違う者が多い。 「犬たちのお帰り攻撃受けてる」 「そうか。手洗いうがいしろよ」 「分かってる。面白そうな話だから、ちょっとそこで止めてて」 そう言って昴は走り去った。 「面白そうな話だってよ」 「面白がられてるんだ...」 顔を見合わせている俊夫と佐代子に俊也は 「良かったな、昴に関心を持ってもらえて」 と苦笑した。 昴が戻ってきたときには、恵も一緒だった。 二人が並ぶと雰囲気が微妙に違うため、秋野と親しい者なら区別がつくが、片方ずつだとやはり迷う。 「ただいま」 恵の言葉に皆は口々に「おかえり」と返す。 「めぐ、コレ美味しいよ。何処で買ったの?」 「あとでサイトのアドレス教えてあげるよ」 「ネットで買ったの?庶民的な...」 「庶民だもん」 「で、だ」 恵と彰子の話しが長くなりそうだと踏んだ俊也は、話を戻す。 「佐代子の家なんだが」 「何なら秋野で買うよ」 昴が言う。彼女がこの家の跡を継ぐということは既に決まっている。つまり、彼女の決定はこの家の決定と言っても過言ではない。 「それは佐代子の意にそぐわないらしい」 俊也の言葉に「そっか...」と昴は納得する。 そして、ニヤリ、と笑い 「じゃあ、あっちゃんに買い取ってもらえば?」 と言う。 「あ、それいい!夢来だってあの家がなくなるのは寂しいと思うだろうし。昴、相変わらず冴えてるじゃん!」 「当たり前よ。私は歩く人類の叡智よ!」 彰子の賞賛を受けて昴は胸を反る。 「ノリがいいねぇ」 恵は、自身が取り寄せた煎餅を食べながらそんな昴たちを眺めていた。 「じゃあ、あっちゃんを呼び出しちゃおう!」 そう言って彰子が携帯を鞄から取り出す。 「あっちゃんって、平日は仕事ですよね?」 恵が俊也に聞く。頷いて「ああ、休みは無いに等しいぞ。家にも殆ど帰って来ん」と応えた。 それに構うことなく、彰子は敦也の番号を選んでダイヤルする。 「俺ら、当事者だよな」 「まるで第三者ね」 2人は顔を見合わせて笑った。 「ところで、結婚式はどうするの?」 「ベールの裾、持ちたかったー!!」 恵が聞き、昴が嘆く。 「や。もうお互いいい年だしやらないでおこうって話してるんだ」 「俊夫さん!女性に対して『いい年』って何!?あー、もう。これだから...」 話の腰を折るように彰子が口を挟み、ついでに嘆く。 「で、本気で式挙げないの?」 真顔に戻って彰子が改めて問う。 「ええ、そのつもり。トシの言ったとおり、いい年だしね」 「や。それは、ちょっと。マズイデス。しましょうよ、式。あたしも全面的に協力しますから」 微妙に片言になりながら彰子が言う。俊夫と佐代子は顔を見合わせ 「「何か隠してるの(か)?」」 と声を揃えて彰子を問い詰める。 「きっと夢来さん、ウェディングドレスを作ってるんじゃない?」 恵が言う。図星を突かれて思わず口ごもった彰子はそうだと自白したようなものだ。 「へえー。YUMEKIブランド初のウェディングドレスじゃないの?」 昴が楽しそうに彰子を見ながら呟くと 「というか、たぶんこの先ずっと唯一のものだと思う」 観念した彰子が呟く。 それを聞いては佐代子の方も無碍には断れない。 「あ。結局ウェディングドレスにしたんだ?」 「何?意味深だね、臣くん」 「いや、ウチの母は着物での挙式だったから見に来てたよ、夢来ちゃん」 臣がそう言う。 娘の初めてのそれを身につけたい。 そんな想いで式は挙げずに披露宴だけでも、という運びになった。 「また詳しいことが決まったら連絡します」 俊夫がそう言い、 「いつでも相談に乗るから遠慮なく来い」 と俊也が応えた。 |
桜風
08.7.20
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