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今日も秋野の長男、優(まさる)に嫌われてしまった...
まあ、どうしたって俺たちガードは秋野の子達のプライバシーを侵害する存在になってるんだもんな...
「あっれ。臣が溜息って珍しいじゃん」
久しぶりに聞いた声に自然と力が抜ける。
「そっちこそ。秋野に来るなんて珍しいを通り越してる気がするぞ。秋野の中では珍獣じゃないのか?」
アキラは俺の言葉にニカッと笑う。
いつも雑誌を通して見ている笑顔は、澄ました感じで微かに微笑むとかそういうのだから、昔から知ってる俺たちには凄く違和感を感じるものだ。
アキラは本当は気持ちよく笑う。
「変わってないな」
嬉しくて、つい声に出した。
「ん?何が?」
「や。アキラの笑顔ってホント気持ちいいくらい思い切ってるよなーって思って」
「ワケわかんない」と言いながらまた笑う。
「モデル、大変か?」
「んー。好きなものを好きなときに食べらんないのがね。それ以外は平気よ。好きでやってることだもの。それに、最近モデルが痩せ過ぎてるのは青少年に良くないってのになってるから多少美味しいものもいただけるようになったわよー」
と幸せそうに笑う。
「肉とかケーキとかホント好きだもんな、アキラは」
「うん!」
力いっぱい肯定するアキラにまた笑ってしまった。
「なぁに?ホント失礼な男に育っちゃったわね。彩ちゃんはとても紳士的よ」
「それは昔からだろ」
弟の彩は昔から大人しいというか物腰が柔らかかったから、紳士的に思われる。
実際、殆ど怒らないから紳士的と言っても過言じゃないけど。
「そういえば。まさか、またしても優に嫌われた?」
「仕方ないだろ。一応、それも仕事のうちだよ」
今気が付いたけど、アキラは結構な量の色紙を抱えていた。
「お?紳士だねぇ」
アキラが持っているそれを持ってやるといたずらっぽく笑いながら一言そう言う。
「さっきと言ってることが違うんですけど?」
「いやいや。気のせいですよ」
「ここで書いて帰るのか?」
「持って帰りたくないからね。次いつ来れるかわかんないし」
そう言って空いてる部屋を発見したアキラはそこへ入っていき、俺もそれに続いた。
「そういえば、何で秋野に来たんだ?」
「や。久しぶりにね、みんなの顔が見たくなって」
手を動かしながら俺と会話する。
「ふぅん...敦也が結婚するから寂しくなったか?」
そう言ってみると、アキラはピタリと手を止めて
「寂しいことは寂しいけど、嬉しいが勝ってるわね。ただ...何となく、秋野っていう私のスタート地点に来てみたかったの」
苦笑いをしながらそう応えた。
「そっか...」
「ねぇ、私変わったかな?」
「変わったと思うよ、良い意味で」
「私、自分では変わったこと気付けないんだ」
親友や弟が目に見えて変化するのに、無意識ながらもアキラは焦っているのかもしれない。
「そういうもんだろ、普通。自分で自分のこと『変わった』って言えてる人なんて、勘違いか、悪い方へ方向修正してしまったやつくらいじゃないの?わかんないのが大多数で、普通だと呼ばれることだよ、きっと」
少し気恥ずかしそうに笑ってアキラはポツリと「ありがとう」と呟いた。
俺も「おう」と小さく返すだけで、その後は部屋の中にはサインをしているアキラのマジックの音と、インクのシンナーの匂いが広がった。
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