GIFT〜神様からの贈り物〜
――― 過去視(中編) ―――






博幸くんたちと歩いていると、高橋さんが足を止めた。それに続いて土井さんと加賀さんも止まる。

「幸治。ヒロを連れて走れ」

そう言ってビルの陰に向かって高橋さんが走っていく。

土井さんもそれに続いて走っていった。

「来い!」

博幸くんを庇うように加賀さんが走りながら私に声を掛ける。

けれど、そのときの私は状況が飲み込めずにその場でオロオロしているだけだった。

明らかに自分以外の4人の雰囲気が違う。

「幸治君。佐代子ちゃんを!」

「ダメだ!俺はお前のガードだ。お前を危険な目に遭わせるわけにはいかない!!」

「命令だぞ!」

「そんな命令、聞けるわけ無いだろう!!」

博幸くんを軽々と抱えて加賀さんはどんどん遠ざかっていく。

目の前に良く分からない人が現れた。

さっきまでいなかったのに。上から降りてきたようだ。...上から?

上を見上げると無理やり後ろに引っ張る力で思わずしりもちをついてしまった。

そして、私の目の前に降りてきた人が吹っ飛ぶ。

「ぼやっとするな!死ぬぞ!!」

そう言ったのは土井さんだった。

土井さんに吹っ飛ばされた男を見ると、その過去が見えた。

薄暗い部屋の中で何か話をしている。

生憎、私の力では声までは聞こえない。ただ、視えるだけだから。

状況を把握しきる前に彼らは撤退して行った。

「おい、大丈夫か?」

呆然としていた私に、土井さんが声を掛けてきた。

「は、い...」

「俊也は?」

戻ってきた加賀さんが土井さんに声を掛ける。

「ああ。ちょっと治療が必要だ。しかし、首謀者のことをひとつも聞き出せなかったな」

「...まあ、仕方が無い。博幸も無事だったしな」

そう言って加賀さんが携帯を取り出してどこかへ連絡していた。

「あの...」

「何だ?」

加賀さんが無感心な目で私を見下ろす。

「私、視ました。あの人たちの過去」

加賀さんと土井さんがはっと顔を見合わせる。

「そういえば、佐代子は過去が視えるんだよな」

腕を押さえながら高橋さんもやって来た。

「はい。音は聞こえないけど、でも、視ました」

話をしていると車のクラクションが鳴らされる。

「誰を呼んだんだ?」

「適当に頼んだ。でも、たぶんトシだろう。最近暇そうに秋野にいるからな」

加賀さんの言葉を聞いて、土井さんが苦笑をする。

「佐代子。お前は一緒に来い。忍と幸治はそのままヒロを。俺の代わりは誰かが入るだろうから。それまで、気を付けてろよ」

そう言った高橋さんに2人は頷き、博幸くんと土井さんと加賀さんは当初の目的地に向かった。

「大丈夫っスか?」

高橋さんが車に乗るなり心配そうにトシが声を掛ける。

「ああ、E-1へ行ってくれ。あそこが一番近い」

「了解」

そう言ってトシは車を走らせた。


暫く走っていると普通のオフィス街にやって来た。

高層ビルの地下駐車場に入る。

「ここは?」

「ああ、まあ、数ある基地のひとつだ。基地って言うか、司令室?資料室?まあ、そんなことろだよ。高橋さん、大丈夫かよ」

私の質問に答えながらトシが高橋さんに手を貸す。

二人の後ろをついて歩いた。

私はトシを見ないようにした。だって、人の歴史を勝手に覗いていいはずが無い。

エレベータで昇っていき、あるフロアで降りる。

一見普通のオフィスだ。

しかし、そうではなかった。

社長室の奥に隠し部屋があってそこへ入っていく。

「ここって、誰の会社なの?」

「えーと、誰だったかな?忘れた。で、佐代子。お前が視たやつ、この中に居るか?」

そう言いながら高橋さんがファイルを渡してきた。

ページを捲って私は驚いた。

それはアルバムのように色んな人の写真がある。テレビで見たことのある有名人たちもその中には含まれていた。

『それらしい』って感じの人も居れば、人畜無害そうな人も居る。

しかし、私が視た人は居なかった。

「いない。この中には居ません」

「本当か?こいつらじゃないなら...」

私がファイルを見ている間に高橋さんから説明されたのか、トシは違うファイルを発掘し始めた。

ふと、他のファイルからぱらりと一枚の紙が落ちた。

それを拾い上げて私は驚く。

「この人...高橋さん、この人だよ!」

私の声に反応した2人が手元の写真を覗き込む。

私が持っている写真は若い男の人が博幸くんと握手をしている。それは、とても友好的な笑顔だった。

「ちょっと待て。そんなはずないだろう?この人は坊ちゃんがガキん時からの付き合いなんだぜ?そんな...しかも、秋野の恩恵を受けているって言っても過言じゃないような会社の社長だ。跡継ぎを殺そうなんて思うかよ」

「え?博幸くん、跡継ぎなの?お兄さん居るじゃない。武幸(たけゆき)さん」

「いや。タケは継ぐ気がないからな。それに、商才はヒロの方が上だ。それより、本当にコイツが指示していたのか?」

「いいえ、違います。指示をしている人は別に居ました。ただ、この人も同じ部屋に居ました」

私がそう言うと、高橋さんは考え込んだ。

「間違いないんだな?『違ってました、ごめんなさい』じゃ済まない問題なんだからな」

真剣な目をしてそう確認してくる。

さっき、変な人たちに襲われたときに見せた鋭い目。

「はい、間違いありません。この人は、同じ部屋に居ました」

私も迷うことなく答えた。

「分かった、指示を出そう。...佐代子。お前はどれくらいの過去まで視れる?時間制限とかあるのか?」

高橋さんに言われて考え込んでしまった。

そういえば、どうなんだろう?しっかり視ようと思ってモノを視ていなかったから、そこら辺はよく分からない。

「すみません、分かりません」

ここぞって時に役に立たない私だ。

折角、命の恩人の役に立てそうだったというのに...

「トシ、これ持ってろ」

高橋さんが懐から何かを取り出す。

それは、お守りのようなものだった。

「佐代子、俺の過去を視てみろ。いつぐらいまで見える?」

言われて思わず目を背けた。

視たくない。

「視ろよ。高橋さんだって本当は視せたくないはずだ。でも、坊ちゃんのためなんだよ。高橋さんにとって、それだけ大切な存在なんだよ、坊ちゃんは」

トシが静かにそう促す。

恐る恐る私は高橋さんを視た。

高橋さんの辿ってきた人生が視える。

「高橋さん、中学卒業後、ヨーロッパへ行ったんですか?そこで、軍に入って、そして、偶然、旦那様に会った?スカウトされたんだ...」

「何年前の話ッスか?」

「...随分前だ。かなり遡れるな」

「そう、ですね。でも、全員にそうなのか分かりませんけど...」

「俺のも視てみるか?」

そう言ってトシは高橋さんにお守りを返して私の前に立った。

「いいの?」

「ああ。俺は坊ちゃんっていうよりも高橋さんに恩があるからな」

私はゆっくりトシの顔を見上げた。

整っているトシの顔は思ったよりも優しい目をしていた。ぶっきら棒な物言いだから気付かなかったけど、優しい気持ちを知っている目だ。

「トシは、人の超能力を使えるようにできるんだ?才能を開花させてしまうんだね。本人が望むか望まざるか関係なく。そっか。それでも、奇妙な力が怖かったんだね。偶然行った秋野は変な力を抑えてくれるし、そして、高橋さんがそんな不安だったトシを気に掛けてくれたんだ。だから、懐いてるんだね」

「『懐く』って言うな。それより前は?」

「うーん、ぼやけるわ。無理っぽい」

「てことは、本当に個人差か...コイツの過去、いつまでなら視えるかが分からないな」

「少なくとも、あの犯人の過去は1月前までは視えてました。話をしている部屋のカレンダーが先月でしたから」

少し、高橋さんが考え込み、

「佐代子、明日動こう。明日、この社長に会いに行くぞ。こいつを視たら芋づる式に他の奴らのことが分かるかもしれない。そこから手掛かりをつかんで、一気に潰す」

そう言って高橋さんは携帯を取り出してどこかに電話を掛けた。

「凄いな、お前の力」

そうトシが呟いた。見上げると少し寂しそうな目をしていた。

「俺の超能力は、高橋さんの役に立てることなんて本当に少ないから。お前みたいに自分の意思で何か出来るって凄いことだと思うな。正直、羨ましい、とか、思ってみたり」

トシのホンネに私は驚いた。

「でも、私の力も受動的だよ。受動的って言うか『自動的』?放っておいたら際限なく色んなものの過去が視えちゃうの。気が狂いそうになったよ。今は、秋野の敷地の中に居るからその間は大丈夫だけど」

「お互い、上手く使いこなせたらいいのにな」

そう言ってトシが笑った。

「だね」

思わず私も笑顔になる。

自分の奇妙な力を人と話していてこんな楽な気持ちになれるなんて思ってもみなかった。

「さて、場所移すぞ。他のやつらにも動いてもらうことにする」

そう言って高橋さんが部屋から出て行った。

トシと私も後に続く。


移動先は山の中だった。

何かの施設みたいに厳重に警備が敷かれていた。

「ここ、何スか?」

「なんか、ちょっとした軍事施設っぽいんですけど?」

「ま、そんなもんだ。ああ、トシも来たことなかったか。連れてこようと思ってはいたんだがな」

そういいながら高橋さんは脅威のスピードで山を登っていく。

車は麓に停めた。道が細くて車だと先に進むのが無理だから。


急な坂道を何とか登って着いたその先には施設があった。

ちなみに、私は息も絶え絶え。トシも座り込んでしまった。

「だらしないぞ。これ位は息を乱すことなく登れよ」

自分の言葉のとおりに息を乱すことなく私たちを見ている高橋さんには驚かされた。

「アンタ、バケモンだろ...」

「無理。都会っ子の私には無理です...」

私たちの息が整ったのを確認して高橋さんが歩き出す。


ついて行くと、そこには人がたくさん居た。

「ねえ、この人たちは?」

「知らねぇ。さっき高橋さんも言ってたろ。ここは俺も初めてだから」

こっそりトシに聞くとそんな答えが返ってくる。

大人しく高橋さんについていくと、そこは漫画で見たようなどこかの秘密基地みたいに部屋の中にはたくさんモニタがあって、無線機らしきものとかも山ほどある。

「俊也、そいつらは何だ?」

暗い部屋の中でサングラスを掛けた男の人が声を掛けてきた。

「ヒロのツレです。ついでに、超能力持ち」

高橋さんの言葉に一瞬で場の雰囲気が緊張する。

「確かなのか?」

「ええ。2人とも、俺が認めますよ」

「そうか...で?お前がここまで来たってことは『急ぎ、且つ、最上級のもてなし』か?」

「ああ、こいつの身辺洗いざらい調べてほしい。俺は明日動くつもりです」

そう言ってあの社長さんの写真を机の上に置いた。

「...こいつ?いいのか、本当に」

「責任は俺が取る。全力で頼みます」

そう言って高橋さんとあのサングラスの人が細かい内容を話すためか、部屋から出て行った。

もう何がなんだか分からない。

ものの過去が視えるのが実は大したことじゃないのかと思うくらい、現実は目まぐるしく展開している。

「なあ、あんたたち超能力があるって本当か?」

「ああ、そうだ。お前らも、なのか?」

トシは私の前に立って彼らに答える。

「へぇ〜...」

舐め回すようにトシの頭の天辺からつま先までじっくり観察する彼にはかなり腹が立つ。

そして、不意に彼の過去が見えた。

彼も、超能力を持っている。

それで、皆に気持ち悪がられた。

でも、彼は自分が特別な人間だと思っていたみたいだ。だから、自分を畏れた人たちを蔑み、彼らの感情をせせら笑って生きてきた。

ここへは、彼のこの状況を良く思わなかった知り合いが連れてきたらしい。

似たような力を持っている人たちの中に入れば、彼は変わるかもしれないと思ったのだろう。

でも、彼は変わらなかった。

そして、彼の能力は、強い催眠術のようだ。

人の人格崩壊を起こすくらいの強い幻覚を見せることができるらしい。

そして、彼はそれを使おうとしていた。

「トシ!」

「俺の眼を見ろ。俺がお前の力を解放してやる。お前にはもうひとつ力がある。それをこの俺が開放してやろうっていうんだ。感謝しろ。鍵を開ける。開放してやるよ、お前のもうひとつの力をな!」

突然トシの雰囲気が変わった。

とても威圧的な、怖い存在となった。

トシは普段からぶっきら棒だけど、やっぱりどこか柔らかい部分があって...

こんなトシ、初めて見る。

いや、違う。一度だけ視た。トシの過去で。

「大丈夫か、佐代子」

不意に声を掛けられて驚く。

「大丈夫か?」

「うん。どうなったの?」

目の前でさっきまでイヤな顔をしてトシを見ていた彼の様子が変わった。

「何?」

「あいつのもうひとつの力を解放したからな」

「な、何をした?!僕はトクベツなのに!!うわ、何だ、あっちへ行け!!」

何やら喚きはじめた。

そんな姿をトシが無感動な目で見る。

「こいつ、能力がふたつあったんだ。まあ、ひとつは、幻覚を見せるっていう外への力。もうひとつは内向きの力。いわゆる、結界のようなものみたいだな。でも、それは結界だけど、自分の殻だと思ってくれればいい。つまり、あいつの外向きの力は、今は自分の結界という殻の中から出て行けないんだ。両方をバランスよく使えれば、こいつはかなりの強みだが、逆に上手く使えなきゃ自滅。まあそこら辺はこいつの運と努力次第ってところだな」

努力という言葉に無縁そうな彼はまだ弱々しくふらふらと彷徨っていた。

そして、その様子を見ていた誰も、彼に手を貸そうとしない。


少しして、高橋さんたちが戻ってきた。

そして、あの彼の様子を見て眉をしかめる。

「どうしたんだ?アイツ」

事のあらましを聞いた高橋さんは大きな溜息をついた。

「トシ〜」

「やられる前にやっただけっスよ」

「で、どうすりゃアイツはマシになる?」

「自分の持ってるふたつの力をバランスよく使えれば何てことはないはずだよ」

「無理やり開けるなよな...」

「だから、やられそうだったから、やったんスよ。正当防衛ってやつ」

「ま、そういうワケのようだから、お前たちも手を貸そうとか思ったら貸してやれ」

部屋の中に居る人たちにそういい残して部屋を後にした。

「高橋さん、彼らは?」

「裏工作の人間たち。まあ、秋野専属の情報屋だな。それ以外の活動もしてるけど」

「超能力者、多いんスか?」

「多いな。難しいだろう?人と違うって感覚を持っているとどうしても生活してて違和感を持ってしまうみたいだな。みんな同じ違和感を抱えていたら、その違和感は違和感じゃなくなる。そんなこんなで増えたなぁ。でも、ずっと居なきゃいけないってことはないし、無理やり連れてきている人間は居ない」

思わず廊下を振り返った。

さっき居た部屋から人が出てきた。

ヒラヒラと笑いながら手を振ってくる。

誰に振ったのか分からないけど、でも、私も小さく手を振り返した。

「またおいで!」

そう声を掛けられた。

何だか不思議で首を傾げてしまう。

「気に入られたな。まあ、ここにもお前たちと性格が合うやつ合わないやつ色々居るから。もし、これからも来たいならID用意してやるから言えよ。全員いつもここに居るってワケじゃないけどな。大抵の奴は普段は家に住んでいてたまにふらりとここに着たりしている。勿論、招集が掛かったりするけどな」

「招集?どういうことっスか?」

「言ったろ?ここは秋野の関係の裏工作するところだって。仕事だよ。お前らみたいな力を持っていると他の..まあ、所謂常識の中に住んでいる奴には到底出来ないことができるだろう?まあ、よく言えば、不可能を可能にするって言うか。だから、依頼するんだ。報酬を払って。それで、さっきのサングラスが居たろう?あいつがその仕事に向いている能力を持っている奴に仕事を振り分けていくってシステムだ。大抵情報収集だから、チームを作らせてそれで、役割分担をさせていくっていう形かな?」


翌日。

私は高橋さんと博幸くんと一緒にあの社長の元へと向かった。

加賀さんと土井さんは反対したけど

「まあ、表立ってどうこうして来ないよ。というか、出来ないでしょ、そういうのって」

という博幸くんの一言で抗議は流された。

「緊張すんな。大丈夫だ」

高橋さんにそう言われて少し落ち着く。

私を拾ってくれた博幸くんへの恩返しだ。

「そういえば、忘れてた。佐代子ちゃん、コレあげるよ」

そう言って博幸くんがお守りをくれた。高橋さんが持っているのと似ている。

「ウチって結界が張ってあるんだけど、その結界を施してくれた神職の方が作ってくれたんだ。俺が頼んだお守りを作るのは結構難しかったらしくてさ。今日、出来たって持ってきてくれたんだ」

そう言っていたお守りを持つと世界がすっきりした。

いい加減、自分の力になれてしまった私は過去が視えるのも大して気にはならなくなった。まあ、視えないに越したことはないって思っていたけど。

私の視界は、現在と過去がそのまま一緒に映って見える。正直、その二重の視界は目障りだったりする。

そして、その現象をこのお守りが抑えてくれるという。

とても便利なものだ。


相手の会社に向かった。

博幸くんの顔を見たら受付の人はすぐに社長室連絡を入れて案内してくれた。

そして、私は驚く。

私が『視た』あの光景の部屋だ。

そして、社長さんを視た。

笑顔で博之くんと話している彼はやはり後ろで何かをしているようだった。

視た感じでは、彼の後ろに更に黒幕がいて、この間の刺客のボスもいる。

取り敢えず、この人のこの事に関係している人を覚えてくるだけでいいと言われていたからそれに集中した。

自慢じゃないけど、私は人の顔だけは忘れない。

博幸くんたちも一通り、何でもない話を終えて退席することになった。

「今度、チェスでもどうです?」

社長さん友好的な笑顔を浮かべながら手を差し出す。

「そうですね。是非。...手は、ちゃんと考えて打ってくださいよ?勿論、待った無しで行きますからね?」

大人の顔をして不敵に微笑んだ博幸くんは握手を返した。


会社からさっさと退散する。

「トシってさ、スーツ着てるとホストだね。いや、まだスーツに着られてるって感じ?」

「うるせ」

今回の運転手はトシが勤めた。

「ああ。確かに。俊夫君もスーツはまだしっくり来ないね」

博幸くんが笑顔で感想を述べる。

「来た。早速か...」

静かに私たちの会話を聞いていた高橋さんがそう呟いた。

トシはバックミラーを見て舌打ちをする。

「どうするんスか?道順は?」

「取り敢えず、人通りの少ないところを選んで走ってくれないかな?そうだな、30分くらい」

博幸くんが穏やかにそう指示を出す。

私たちの乗っている車の後ろには不審な車が数台、付いてきている。

高橋さんが携帯を取り出した。

「傍受されるんじゃないスか?」

後ろの様子をミラーで見ていたトシがそう言うと

「まあ、大丈夫だ。通話しないんだから」

そう言って高橋さんは電話を切ってはダイヤルをするのを繰り返していた。隣の博幸くんも同じコトをしている。

人通りがなくなった途端派手に銃声が響く。

「きゃあ!」

「頭抱えて蹲ってろ。トシ、逃げ切れ。あと5分」

暫く、ハリウッド顔負けのカーアクションを繰り広げていた。

トシは銃弾を避けつつ、人通りの少ない道をずっと選んで運転している。

「よく踏ん張った、トシ」

高橋さんがそう言うから恐る恐る振り返って見ると、追跡していた車が消えていた。

時計を見ると、高橋さんが言ったとおりあれから5分だった。




桜風
06.7.30



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