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「おう。高橋。もう行くのか?」
「ええ。お待たせするわけにはいきませんから」
「期待してるぜ〜。あの2人の対談、いっつも腹抱えて笑えるんだからよ!!」
「いや、それは俺、関係ないですよ...」
今日は取材が入っていたから現場に向かう。
大学を卒業して雑誌の編集者になった。
元々、そういう事がやりたかったから。
何より、一番情報が入ってくる場所だ。副業をするにはもってこいの本業だ。
とはいうものの、実際俺がやりたかった記事を書かせてくれない。
といういか、部署が違う。
俺は社会情勢の記事、若しくは経済をしたかったのだが、どこでどうなったのか、芸能関係の記事を書かされている。
芸能関係と言うか、モデルの『彰(あきら)』の取材は俺の専用の仕事と化している。
というのも、先方のご指名だ。おかげで俺はまだまだこの部署から抜け出せそうにない。
...姉さん、いい加減にしてくれないか?
文句を言っても俺の仕事が終わるわけではない。
夢来(ゆめき)さんとの対談の仕事が多いのだが、本当はこの2人の取材は楽しい。
普通に親友が楽しくおしゃべりをしているだけなのだから、そうなんだろうけど。
取材場所は大抵スタジオだ。
本当に、半端でないくらい姉さんは売れている。
だから、仕事の合間にと言う形になるし、だからこそ、夢来さんとの話が弾むのだと思う。
2人の取材、他社もやっているのだが、ここまで笑える記事はウチだけだと編集長が反り返ってそう言う。
でも、笑いを取るために取材しているんじゃないと、俺は伝えたい。
まあ、姉さんのストレスが解消されて、さらに人気があるなら良いけど...
「こんにちは」
現場に着くと姉さんはまだ仕事中だった。
「ああ、高橋さん」
「こんにちは。今日もよろしくお願いします」
マネージャーさんと挨拶をして対談をする部屋で待たせてもらった。
「あっちゃーん!」
勢いよくドアが開き、着替えた姉さんが入って来た。
後ろではマネージャーさんが慌てている。
姉さんのキーワードは『クールビューティ』らしい。
秋野の仲間たちがそれを聞いたときみんな爆笑をした。
特にハル君は
「上手く騙したなぁ!」
と景気よく姉さんの肩を叩いた。
まあ、うん。その気持ち、分からなくもないけど...
でも、黙って立っていればその言葉がぴったり来る容貌だと思う。
眼は涼しげな切れ長だし。全体的にシャープな感じを醸し出している。秋野で武術を習ったから余計にそういう空気を持っているのかもしれない。
まあ、何度も言うようだけど。それは、『黙って立っていれば』の話...
「あれ?夢来は?」
「まだ。夢来さんも忙しいみたいだし。姉さんも少し休憩したら?」
「そうねー」と言いながら姉さんはソファーに腰を下ろした。
「そういえば、あっちゃん。この間佐代子さんに聞いたんだけど」
『佐代子さんから聞いた』と言う単語は大抵『俊夫さんが』に繋がる。
今度は何だろう?
「俊夫さんが言ってたらしいよ。『俺は厳しい父親を目指す。娘にじゃない。息子にだ』って。そりゃもう、息巻いてたって爆笑してたよ」
それはそれは...
俺の口から漏れた溜息に姉さんは爆笑をする。
「あっちゃんも災難よねー。佐代子さんが俊夫さんと結婚しなかったらこんな障害なかったのにね」
笑いすぎて目じりに涙を浮かべた姉さんがそう言う。
「冗談だろ、姉さん。佐代子さんも俊夫さんも居るから夢来さんは笑ってるんだろ?」
またしても、姉さんが楽しそうに笑う。
「だから、あっちゃんはオトコマエなんだよ。まあ、そこがあたしの自慢なんだけどね。いつ、俊夫さんを『厳しい父親』にしてあげるの?」
「近いうちに、かな?」
そんな話をしていると夢来さんがやってきた。
疲れた顔をしている。
それでも、姉さんを見ると嬉しそうに笑う。
「久しぶり、アキ。敦也君も」
「久しぶりね、ホント。あっちゃんが中々取材申し込んでくれないから」
「姉さん。それって、本当に俺のせい?」
俺は幼いころから奇妙な力を持っている。
初めは何か分からなかった。
でも、自分の中に生まれた違和感。それに気づき、それが何なのか理解するのにそう時間はかからなかった。
一人で公園に居ると犬がやってきた。
そのとき、すでに抱いていた自分の違和感を確かめるために俺はその犬に近づいていった。
「わん」
鳴きまねをすると動物は大抵こちらに注目をする。
俺は元々の利き手である左手を犬に向かって伸ばし
「お前は『にゃー』と鳴く」
と言ってみた。
すると、その犬は奇妙な声で『にゃー』と言った。
正直、驚いた。
でも、そのままだとこの犬は仲間外れにされてしまう。
どうしていいのか分からずその犬を観察していると犬は俺に怯えたのか、『キャンキャン』と犬の鳴き声で去っていった。
それを聞いて俺は安心した。
あの犬は、仲間外れにならない。
一応、自分の力がどんなものか分かった俺はそのまま力のことは誰にも言わずに過ごしていた。
たぶん、人に話していいものじゃない。
しかし、ある日事件がおきた。
姉さんも超能力者だったようだ。
姉さんは母さんの口にしていない心の言葉を『読んで』しまったのだ。
姉さんの言葉を聞いて、母さんは蒼くなった。
怯えて、畏怖の目を向けていた。
そして、同じように姉さんも怯えていた。
自分のしてしまった取り返しのつかないことに気付いたのだ。
「お母さん」
俺が声を掛けると反射的に母さんが俺を見る。
「お姉ちゃんは今日の夕飯が何か聞いてるんだよ。答えてあげて」
そう言った。
人にこの力を使うのは初めてだった。
今まで犬とか猫とかにはやったことがある。
けど、人、しかも自分の母親に対しては、初めてだった。
ただ、姉さんを、母さんを助けたかったから。
何とか俺の力は作用して母さんの記憶にある奇妙な力を持つ姉さんは消せた。
しかし、いつの間にか帰っていた父さんが俺たちのその様子を見ていたらしい。
母さんから逃げるように別室に行ったとき父さんに声を掛けられた。
「今晩、散歩に出よう」
父さんが帰ってきて母さんは怒りながらも機嫌が良くなっていた。
案外夫婦仲は悪くなかった。
父さんは、さっき言ったとおりに俺たちを散歩に連れて行き、この奇妙な力を使わないように言ってきた。
そして、次に日曜日に出かけようとも言ってきた。
その時、俺たちの人生が変わったんだと思う。
初めて行った『GIFT』は驚きの連続だった。
俺たちと似た力を持っている人たちがたくさん居て。
そして、俺たちと同じ年くらいの人もたくさん居た。
俺たちがここに連れてこられたのは目的があった。
父さんが俺たちの力を知りたかったようだ
俺たちの持っているこの奇妙な力が何なのか分かれば、俺たちを守れると父さんは考えたんだと思う。
でも、俺はともかく、姉さんの力はまだ不安定で自分の意思でそれを自在に操れなかった。
だから、俊夫さんが呼ばれた。
俊夫さんの力は人の能力を開花させるものだ。
そこでいう『能力』というのは、普通の才能ではなく、俺たちのような奇妙なものばかり。
とは言え、俊夫さんが言うにはみんなその可能性は持っているらしい。
それが、表に出るかでないかのほんの少しの違いだと言っていた。
無理やり引き出された力は使い方が分からずに暴走する。
そんな場面をいくつも見てきたと誰かが言っていた。
俺も姉さんも何の前触れもなく現れた能力に多少なりとも困惑はあった。
特に、姉さんは自分の持つ人とは違う力を本能的に恐れていた。
自在に力を引き出せない姉さんに俊夫さんの力でそれを無理やり引き出して、耕(こう)君にそれが何なのか解説してもらおうということになった。
耕君は『ミラー』だ。
相手の能力を跳ね返す反射がその能力。
だから、姉さんの能力は耕君によって跳ね返されて、それが何なのか分かった。
姉さんの持っているのは人の心を読んでしまう、残酷な能力。
相手の隠された見てはいけない心まで見えてしまうものだ。
それが分かったとき、俺を抱きしめていた父さんの腕に力がこもった。
耕君によって姉さんの力のあらましが分かったあと、今度は俺の番になった。
俊夫さんが力を貸してくれるといったけど、でも、俺は自分の力の使い方を知っていたし、それを防ぐ方法もなんとなく分かっていた。
俺の力は記憶操作。つまりは、強い『暗示』だ。
それこそ、相手の記憶を書き換えることが出来るくらい強いもの。
誰かが『リライト』と名づけた。
俺の力が発動させるには、俺に神経を向けさせているのが最低限の条件だ。
だから、名前を呼ぶ。
彩(あや)が言うには名前は一番短い『呪』らしい。
だから、名前を呼ぶと言うのは暗示を掛けるのに効果的だと言われた。
俺たちの超能力を理解した父さんと再びGIFTの会場へ向かうと、さっき会った佐代子さんが合宿に誘ってくれた。
そして、その時、俺的には初めて旦那様にも会った。
当時はまだ秋野の一部を継いだだけだけど、それでも、既に――俺が言うのも何だけど――頭角をあらわしていたらしい。
今じゃ、他のどの企業の追随も許さない世界最強の企業となっている。
穏やかな話し方と対照的な敏腕ぶりだ。
いや、仕事をしているときは非常に厳しい表情をすると父さんに聞いたことがあったな。
それでも、その時初めて見た旦那様はとても優しそうだった。
結局、その日を境に俺も姉さんも『秋野』に入った。
人見知りの激しかった姉さんもいつの間にか、コミュニケーションが上手くなり、後から入ってくる子たちの面倒見がよく人気者になっていた。
姉さんと同じ年に『杉浦臣(すぎうらおみ)』という人が居る。
彼の父親は神職で、そこは古くから秋野と縁があるそうだ。そして、彼も奇妙な力を持っていて『秋野』の一員となっている。
臣君の下には俺と同じ年の『桧垣彩(ひがきあや)』が居る。
彩と臣君は仲が良い。数年前に母親を亡くしているが、両親の仲も良かった。
苗字が違うのは、母方のお祖父さんが結婚させる条件に『2番目の男には我が家の苗字で』とかいうものを示し、母親もあっさり承諾したそうだ。
しかし、家を継ぐのは彩だ。
なんとも面倒くさい、こんがらがった家だが、それで良いと彩の家族皆が笑っている。
確かに、皆が笑っていられるならそれで良いと思う。
彩は陰陽師だ。それは、生まれながらのものらしい。
生まれたときから式神を従えていたと聞くから驚きだ。
彩は俺と同じくらいに『秋野』に入った。
『秋野』に入ったお陰で俺は幼馴染が多い。
小学校のことでも情報交換をしながら育った。
小4だったか。
それくらいに彩が新しい子を連れてきた。
『松崎和(まつざきかず)』。
彼女は、『秋野』と何の縁もなかった。
ただ、彩たちの母方のお祖父さんの家の近所の女の子だった。
奇妙な力に気づいた彼女は、母親から見放されてしまうと泣いていたのだ。
偶々、時々遊んでいた彩がその話を聞いて、彩の父さんに相談した。
取り敢えず、GIFTに来てはどうかという話から彼女を誘ってみた。
その頃には殆どGIFTに顔を出さなくなっていた姉さんだったけど,臣君の話を聞いて和に会うために参加した。
和は見事に姉さんに懐いた。
生まれて初めて女の子にライバル宣言されたのも丁度このとき。
中学までは別々だったけど、俺たち3人は高校は同じところに通った。
誰かが仕事でいないときも、残った者がフォローが出来るから良いだろうということだ。
その高校は臣君の出身校だったりもする。
俺たちが入ってきたときには昨年度卒業した臣君は学校始まって以来の優秀な生徒として伝説になっていた。
物腰が柔らかいし、上級生に目をつけられても、何かをされる前にその上級生たちが自滅するから何事もなく、良い所だけを強調して卒業することが出来た。
上級生の自滅は臣君の持っている不思議な力によるもので、ある意味実力だ。
実際、その能力がなくてどこかに呼び出されたとしても、そこらの人間じゃ臣君には勝てないからどの道、臣君は伝説の人になる運命だったのかもしれない。
でも、学校での臣君の伝説ぶりを目の当たりにした彩は一言こう言った。
「苗字が違って良かった...」
今まで散々「兄さんと苗字が違うってやっぱり何だかイヤだな」、って零していたのに現金なヤツだ。
俺の仕事は大抵後始末だった。
情報を聞きだした後、俺達の存在を忘れさせるために他の情報を上書きするのが俺の役目。
だから、殆どの仕事に呼ばれる。
『秋野』は人を殺させない。
それは、俺達のために。
よく、スパイ映画とかだと口封じとかでターゲットを殺害したりするが、それをさせないというのが信条だ。
実は、父さんは旦那様を狙った人間を殺そうとしたことがあるそうだ。
でも、そのときは旦那様に止められた、と苦笑する。
「お前は自分の子供を腕に抱けなくなるぞ!」
って、今まで見たことのない迫力で止められたそうだ。
そのとき、初めて自分の感情を『怖い』と思ったらしい。
父さんはそれを契機にボディーガードを辞めた。
そんな事態を招かないような体系を完成させようと考えたそうだ。
元々、何かの情報が入ってきて、仕事を振り分けて未然に防ぐというのは要(かなめ)のお祖父さんが作りあげたシステムだが、それを確立するために父さんは新人の育成にも当たっている。
「アキラ姉さん、かっこいいねぇ」
和はモデルをやっている姉さんの大ファンでもある。
何かの雑誌に出ていると聞けばそれがどんなに少しでもそれを買いに本屋をはしごする。
学校帰り、彩と俺はよくそれにつき合わされた。
「和にとってアキ姉さんは本当に憧れだからね」
と穏やかにその様を見守る彩だが、そんなとき、何で俺が一緒にいるのか分からない。
「そういえば、臣君って優(まさる)と上手くいってないらしいじゃないか」
と父さんから聞いたことを言うと
「まあ、難しい年頃だろう。そろそろ反抗期だし。僕にも記憶にあるよ」
「「誰に?!」」
「僕。反抗的だったでしょ?」
和が俺を見る。
和よりも俺の方が彩との付き合いが長いからだけど...いつだ?
「いや、記憶にないな...」
「敦也の方こそ反抗期が無かったんじゃないのかな?」
「反抗するようなことがなかったから、ウチは。彩もそうだと思ってたけど」
「じゃ、そうかも」
オイッ!!
本当にマイペースだ。
今まで、彩だけ時間の流れが違うんじゃないかと思ったことは数知れず。
それでも、彩が怒ったことは一度だけある。
怒ったと言うか、とにかく。臣君と喧嘩した。喧嘩といっても、突っかかられた臣君は災難としか言いようがなく、そして、そんな態度をとられたのも初めてだったからどうしていいか分からなかったらしい。
そして、やはり仲の良い兄弟である二人は同じように家出をして、同じところで再会した。
つまりは、二人同時に秋野へ家出したのだ。
臣君が行ってみると、そこには既に彩が居て、恵に話を聞いてもらっていたらしい。
恵、昴の双子は実年齢以上に精神年齢が高い。
頭もいいため、既に義務教育の内容の授業は退屈すぎて時間の無駄だと言い放つくらいだ。
義務教育を受ける前からそんなことを言っていたのだから、少しだけ、可愛くない。
それでも、昴はともかく、恵は冷静かつ公平に物事を見据えることが出来ていた。
昴は非常識な自分こそが常識と言い、恵は大勢が認識しているものが常識となり、そして、自分たちの認識は少々外れているということを自覚している。
そこで、秋野の裁判官、恵による判決は。
「早く家に帰ったら?夕飯の時間でしょ?」
だった。
兄弟喧嘩如きで大騒ぎするなということだ。
後日、俺も内容を聞いたけど。まあ、難しい話だ。
恵がまだ子供だから、って言う者も居たかも知れないがそうじゃない。
ここで喧嘩して何かなるってものじゃないし、それこそ当人同士が話し合えってことだったんだろう。
とにかく。
このスーパーお嬢様の恵に勝てる者は居ない。
恵と昴は双子で同等だが、昴が暴走したら恵がブレーキとなる。しかし、恵のブレーキはこの世に存在しないのではないかと思われる。
ちょっとしたことなら2人のガードの望(のぞみ)と要が止めれるが、恵が暴走したときのブレーキは、恵自身でしかない。
暴走したことが無いから分からないけど...
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