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俺は、自分の力をすんなり受け入れることができた方だから他のヤツのような挫折とか嫌悪とか無い。
それこそ、俺の意思がないと使えない力だからだと思う。
でも、自動的な、姉さんや佐代子さん、臣くんに望と要とかは酷く精神が参ってしまったそうだ。
そして、『秋野』とは無関係で自動的な力に苦しんだ人も知っている。
姉さんの親友の能瀬夢来さん。
姉さんの命の恩人だ。
彼女は姉さんの中3の時、つまり俺が小6のときに初めて会った。
自分の力に戸惑っていて心を閉ざしていたそうだ。
そこへ姉さんが図々しくも夢来さんの心の中にズカズカ入り込んで、何だか知らないうちに心を開いてしまったと夢来さんが言っていた。
夢来さんは高校も姉さんと一緒で、姉さんが仕事のときはフォローをしてくれていたらしい。
よくウチにも連れてきていた。
だから、妹の薫子(かおるこ)も夢来さんを知ってるし、母さんも知ってる。
父さんは俺が初めて夢来さんに会った同じ日に会ってるから知ってるし、夢来さんの力についても同様だ。
夢来さんは姉さんが良く連れてきてたし、持っている心というか雰囲気っていうか..空気?
よく分からないけどいいなって思ってた。
ただ、なんて言うか...
俺はこのままずっと『秋野』の一員として過ごして生きたいって思ってたし、何より、ガキだ。
どう背伸びしたって夢来さんには追いつけない。
だから、せめて形だけでもって思ってた。
形、つまり、『俺が夢来さんよりも背が高くなったら』ってこと。
でも、そう思ったのが成長期真っ只中。
すぐに夢来さんの背を抜かしてしまった。姉さんくらい高かったらまだ猶予はあったんだけど。
でも、自分で心に決めたことだから。
中3のとき、夏祭り夢来さんを誘った。
姉さんはその日仕事が入っていたから丁度良かった。
毎年夢来さんと姉さんはその祭りに行っていたから、
「今年はあたしが行けないから夢来を誘って!」
と姉さんの言われてとても誘いやすかった。
後で聞くと姉さんは
『チャーンス!』
って思っていたらしい。
でもその 『チャーンス!』は俺にとってではなく、夢来さんにとってだったと聞くから何だか恥ずかしい。
しかし、そんなときに限って事件は起こる。
神社の境内で屋台をはしごしていると秋野専用の携帯が鳴った。
「はい、リライト」
この電話には自分の能力で電話に出ることになっている。
それがコードネームみたいなものだ。
指示の内容を聞いて頭を抱えた。
姉さんの力ならまだしも、俺はそういうの苦手だってのに!!
「あの、敦也君。仕事?」
夢来さんが遠慮がちに聞いてきた。
「あ、うん。ごめん。俺だとちょっと時間がかかる、と、思う...」
「じゃあ、いいよ。ここでお開きってコトで」
...父さん!!
すぐに済むといえない自分の能力の限界に打ちひしがれそうになる。
夢来さんはもう「じゃあね、ありがとう」と行って背中を向けていた。
「夢来さん。本当にごめん。今度、埋め合わせするから」
「楽しみに待ってるわ」
振り返った夢来さんはそう言って去っていった。
許すまじ、ターゲット!!
俺は今までこんなにも集中して仕事をしたことは無かった。
今、俺が探しているのは秋野の一の姫を狙っているとかそうでないとか。
その真相を探れってコトらしい。
まあ、そういう情報が来た時点でウチの場合は『黒』なんだけど...
しかし、案外早く見つけることが出来た。
でも、俺の見立てではヤツは拳銃を持っている。
...面倒くさいなぁ。
こんな人ごみの中で発砲されたら、どんなに情報操作力のある秋野でもかなり大変だろうし、かといっておびき寄せるのも難しいし...
増援を呼ぶべきか悩んでいるとそいつが動き出した。
イヤホンをしているようだからもしかしたら仲間からの連絡があったのかもしれない。
慎重に後をつけていたつもりだったけど、
「あんまり、危ないことに首を突っ込むもんじゃないな、ボウヤ」
そう言われた。
南米辺りの訛りか?
やっぱり増援を呼ぶべきだったかなぁ??
しかし、増援は必ず来る。俺に連絡が来てからずっとその気配はあるから。
ヤツらもさすがに目立つ行動は慎みたいのか、人ごみから外れた神社の裏にやってきた。
ここなら、俺だって好都合だ。
花火が上がり、大きな音が鳴った。
コイツらは『花火』というものが初めてだったのだろう。
一瞬俺への注意が逸れた。
俺を拘束しているヤツの腕をへし曲げ、後ろに回り込む。
その腕を外して、銃を握れないようにし、次のヤツに向かっていく。
花火の上がる音とともに銃声も聞こえた。
が、銃弾は俺には届かなかった。
「悪いな、彩」
「ううん、おじさんが一応式をつけてやってくれって言ったし。残念だったね、デート」
「放っておいてくれ。それよりも指示は受けてるか?俺はこいつらを探し出して真相を探れって言われただけなんだけど...」
「ああ。真相を探って黒ならリライト。白なら、やっぱりリライトってさ。だってね。こんだけ大立ち回りしてるんだもん」
「どちらにしてもソレかよ。...彩、手伝ってくれ」
彩の持っている式にも俺の能力に近い物を持っているのがいるらしい。
だから、そいつにも手伝ってもらう。
暗示を掛けてこいつ等の目的を探ってみた。
見事に『黒』だった。
書き換えているとき、彩の他の式がこいつらを拘束している。
だから、大丈夫だと思っていた。
しかし、それは俺たちの油断だった。
「仲間を離せ、化け物!!」
やはり南米辺りの訛りでそう言われた。
しかし、その声は俺たちが拘束していたやつらではなく、それとは違う方から。
そして、俺は人生初めて『キレた』。
そいつは夢来さんのこめかみに銃を向けている。
「離せ、化け物。こいつを殺すぞ。お前の仲間だろう!!」
彩は俺の隣で額を押さえて溜息を吐いていた。
「...ここにアキ姉さんが居なくて良かったよ」
と独りごち、そして、小さく
「殺すなよ。」
と俺に言った。
「努力はするが、約束は出来ないな」
言い終わってすぐに俺は駆け出した。
犯人に目掛けて姿勢を低くし、突っ込む。
ヤツは慌てて夢来さんに当てている銃口を俺に向けた。
なにやら騒ぎ立てているが、俺の耳には届かない。
何発か発砲してきたが、それを読んでかわし、俺はそいつの腕を人間の体の構造上、曲がらない方向へ思いっきり曲げた。
嫌な音とともにそいつの悲鳴も上がる。
更に追いうちをかけようとしたとき
「高橋敦也。動くな」
という声がして動けなくなった。
彩が俺に呪をかけて止めてくれた。
俺の気が鎮まったのを確認して彩が呪を解いてくれた。
「まったく。ここへ来たのが僕じゃなかったら敦也は何をしてたんだろうね」
いつもの、のんびりした口調で彩が苦笑交じりにそう言った。
「すまない、ありがとう彩。...夢来さん、怪我は?ごめん、俺。油断してた」
夢来さんは蒼い顔をしていた。
「えーと、どうする?この人見ちゃったよ?僕の力も、敦也の仕事の現場も」
言いにくそうに彩が聞いてきた。
「えっと、掟ってのがあるの?見られたからには、記憶を消すとか、存在を消すとか...」
夢来さんが遠慮がちに聞いてきた。
「いや。存在は、消さないけど...それこそ、掟みたいなもので」
どうして良いのか分からず、思案をめぐらせていた。その間、彩は記憶の上書き作業に勤しんでいた。
気を利かせてくれていたんだと思う。
...自分から問題提起をしておいて。
「じゃあ、記憶を消されるのね?分かった。それってここでの記憶?それとも、敦也君の周りの人も一緒なのかな?
敦也君、お願いがあるの。もし、記憶がなくなったら、また、出会ってくれる?話して、笑って、一緒にお祭りに行ってくれる?
そして、出来たら今度も今みたいに『夢来さん』って呼んでくれる?私、敦也君の『夢来さん』って凄く好きなんだ。
今までありがとう。とても楽しかったよ」
そう言って夢来さんは覚悟を決めたように目を瞑った。
「...敦也って意外と手が早かったんだね」
呆れた彩の声がして我に返った。
「う、うわ!ごめん!!すみません、夢来さん。ホントに、ホントにごめんなさい!!」
生まれて初めて『キレた』けど、今度は生まれて初めての『平謝り』だ。
思わず夢来さんにキスをしてしまっていた。
夢来さんは夢来さんで呆然としており、俺は本当にどうしていいか分からなかった。
彩に助けを求めて視線を投げても笑いを堪えながら視線をはずす。
だ、誰か助けてくれ...
そう思っていたら
「何で、謝るの?」
夢来さんの怒った声がした。
「はい?ああ、えっと。キスしたから?です」
思わず姿勢を正してそう答えると
「だから、何で謝るの?」
「えっと、あの...」
何で夢来さんが怒っているのかそのときの俺にはさっぱり分からなかった。
「私は嬉しかったんだよ。それなのに、何で謝るの?!何だか、『勢い余ってやっちゃいました』って感じじゃない」
実際そのとおりです。
でも、今夢来さん何て?
「嬉し、かった...?」
「そうよ!それなのに、謝られて私はどうしたら良いの?!」
そう言われて俺は自分の顔が崩れてきたのが良く分かる。
「ホントに?」
「本当よ!」
嬉しさがこみ上げてきた反面、ちょっと後悔。
「あのさ、夢来さん。お願いがあるんだけど」
「うん」
「仕切りなおしさせてくれないかな?」
「『仕切りなおし』?」
「うん、仕切りなおし。いいかな?」
「どうぞ?」
「夢来さん。俺は夢来さんが好きなんだ。もし良かったら付き合ってくれないかな?」
夢来さんは笑いを堪えながら
「ありがとう、敦也君。私も敦也君が好きだよ」
と答えてくれた。
「もういいかなー?敦也、この人たちの記憶のフォーマットは済ませたから上書きしてよ。終わらないよ」
呆れた風に彩が声を掛けてきた。
「悪い。じゃあ、えっと」
どう暗示を掛けるか考えた。
取り敢えずこいつ等の記憶は
『日本に不法侵入してきて裏稼業の一攫千金を狙ってたけど、ここへ来て方針の衝突から仲間割れをしてしまい、一人が負傷してしまった』
って感じにしておいた。
その間、彩が警察に連絡。
といっても秋野と繋がりのある警察幹部の人への連絡だけど...
そして、上書きした後俺たちはその場を去った。
後は、その警察の関係者が上手くやってくれる。
「じゃあ、僕はここで。またね、夢来さん」
そう言って彩は帰っていった。
「彩君、だっけ?彼、私のことを知ってるの?」
「ああ。だって、夢来さん佐代子さんの娘でしょう?それと、これは凄く気分を害すことかもしれないけど...」
「いいよ、言って」
「夢来さん、3年前姉さんの夢を見たよね。仕事中に事故に遭って、ってやつ。あの夢のこと、夢来さんは姉さんに話さなかったでしょう?だから、彩の式神で見させてもらったんだ。それで、俺が仕事から外れるって決まった。だから、彩にとっては夢来さんは『初めまして』じゃないんだよ」
夢来さんは目を丸くして驚いていた。
「え、じゃあ...アキが心を読んで気づいたってのは...?」
「それも本当。ただ、心の、言葉だけだったら表現しきれないものもあるよね?それで、風景が見れる彩に頼んだってワケ」
目を丸くしたまま夢来さんは溜息を吐いた。
「何だか、凄いことになってたんだね...」
「うん、ごめんね。勝手に覗いて」
「ううん、終わったことだし。そのお陰でアキが生きてるんだし。ところで、私の記憶を消すってのは?」
不安そうに、でも、なんともなさそうに夢来さんが聞いてきた。
「うん、一応。俺らの責任者の父さんに聞いてみるよ。そうなったら、ごめんね?」
「ううん、いいよ。でも、そうなったらまた仕切りなおしの仕切りなおしだね」
そう言って夢来さんは笑った。
祭りも終わって、仕事の報告を兼ねて本部へ行くと父さんが居た。
「高橋さん」
父さんと俺は仕事中は他人でなければならない。
「ああ、彩から聞いた。警察の方からも報告はあった」
「そうですか。それで、あの...」
父さんの神妙な面持ちが気になる。
「ああ、夢来さんにいきなりキスしたそうだな。大胆だな。一瞬俺の息子ではなく、忍の息子かと思ってしまったよ。あいつは仕事は出来るが、かなり遊んでたからなぁ」
俺の予想外のことを言われた。
てか、彩!言うか、普通?!
「彰子に言ってもいいか?」
「ちょ、ダメだって!姉さんには、俺から言うから。ってあの...」
「別に、記憶があってもいいじゃないか。何か都合が悪くなってから上書きしても遅くないと、俺は思うぞ。でもな、必ず守りきるんだ、いいな?危険な目にあわせることが出てくると思う。だから、お前は彼女を守りきるんだ。出来るかどうかわからない。そう言うなら辞めておけ。彼女を危険な目に遭わせてしまうからな。彼女の記憶を消して二度と会わないようにしろ。お前に、それだけの覚悟があるか?」
あまり見せない父さんの本気の目があった。
「はい」
「じゃ、大丈夫だろう。いいぞ、敦也の好きにしろ。まあ、彰子がどれくらい騒ぐか楽しみだな」
笑いながら父さんはそういって俺に退出しても良いと言った。
家に帰ると姉さんが仕事から帰ってきていた。
夢来さんとの話をすると思いっきり抱きしめられて、そして姉さんはバイクのキーを持って凄い勢いで家を出て行った。
少しして佐代子さんから電話があった。
『アキラが来たんだけど、何だか怖いわ...何か、凄く嬉しいことでもあったの?』
と言われてどう答えていいか分からなかった。
『まあ、今日はウチに泊めるわ。このまま帰りそうもないし』
と苦笑しながら電話を切られた。
それから俺は彩と和と同じ高校に進学し、大学進学を目指した。
秋野の仕事は学生のうちは、学業優先ってことになっているけど、程度にもよる。
だから、学校よりも副業を優先したこともあった。
大学は文学部へ行った。
社会や経済の記事を書く記者になりたかったから。
大学に上がったときに俺は道を選んだ。
姉さんと同じくサポートチーム。
勿論、この力が必要ならいつだって行くつもりだ。
大学も、就職も躓かずに済んだと思ったけど、人生はトントン拍子で行くことなんて滅多に無いって知った。
俺は芸能ニュースの担当になった。
社会や経済は程遠い。
勿論、今の部署だって勉強になっている。
楽しいってのも本当だし。
夢来さんがブランドを立ち上げたとき、記事も書かせてもらえた。
身内贔屓なしで書くことが大変だったけど、記事自体も好評でお客さんがたくさん来てくれたと喜んでもらえた。
俺たちは気づかないうちに神様からたくさんのものを貰っている。
それら全てに気づけないのはとても残念なこと。
だから、気づいているものにだけでも感謝をしよう。
全ての出会いは神様からの贈り物。
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