GIFT〜神様からの贈り物〜
――― 陰陽師(前編) ―――





僕の家はちょっとだけ複雑だ。

僕の名前が『桧垣彩(ひがきあや)』。

兄さんの名前が『杉浦臣(すぎうらおみ)』。

母さんの実家がお寺で、父さんの家業は神社の神主。

当然..って言っていいのかな?母方のおじいちゃんは反対したらしい。

おじいちゃんの人生計画では、『母さんはお坊さんと結婚して、寺も安泰!』っていう感じだったらしけど。

『神社の息子と〜!』

って怒ったらしい。

そして、おじいちゃんが折れたとき、出した条件が

『次男には母方の姓を名乗らせること』

だった。せめて名だけでも、と思ったんだと思う。

母さんは二つ返事で了承したらしい...

だから、僕は母方の姓を名乗っている。


僕はあんまり覚えてないけど、父さんたちが言うにはそういう感じの人だったらしい。

と言うわけで、我が家は2つの苗字を持った家族が仲良く暮らしている。

そして、さらにややこしいことに。

ウチを継ぐのは僕だ。

兄さんは『神職』っていうのが無理だから。

これも、ウチが複雑だと思われる原因のひとつだと思う。


僕は生まれたときから力を持っていたらしい。

当然のことだけど、覚えが無い。

ただ、兄さんが言うには生まれた日から式神がついていたとか。

そして、父さんから聞いた。

兄さんは僕が生まれて今の奇妙な力に目覚めたのだ、と。

正直、僕と兄さんの力は反対に位置すると思う。

だから、補完する形で現れたのではないかと言われた。

正直、初めてそれを聞いたときはショックだった。

兄さんは自分の力によって凄く大変な目に遭っている。

兄さんの力は『テンプテーション』って呼ばれて、つまりは誘惑だ。

本人はその気が無いのに、異形のものが寄ってくる。

中には『悪魔』と呼ばれるものも居て、それが非常に嫉妬深い。

兄さんに好意を寄せるもの、兄さんが好意を寄せているものに対して危害を加えようとする。

兄さんが大きくなるにつれてそれらを抑えられるようになったらしいけど、僕が小さかった頃はとても大変だったらしい。

父さんはすぐに家の周辺に結界を張った。家族に危害を加えるものたちを近づけないためだ。

そして、お守りを作って持たせた。

父さんの結界を張る力は強く、そのことで秋野からの信頼も絶大だ。

今でも僕の力はそれには遠く及ばない。

父さんの気を込められたお守りを持っているとあらゆるものから守ってくれる。

あらゆるものってのは自分の持っている力による影響も一緒だ。

だから、お守りを貰ってから兄さんは『悪魔』と呼ばれる者に好意を寄せられることはなかった。

『悪魔』を誘惑するには大きな力が必要になるから。


母さんは僕が幼稚園に上がる前に死んでしまった。

だから、僕は殆ど母さんの記憶が無い。

ただ、とても愛情を注いでくれて、そして、家族が、周りの人が笑顔で過ごせるようにいつも気を配っていた人だったと皆が言ってくれる。

それを聞くと、僕はとても誇らしい気持ちになる。

僕は性格上母さんに似ていると言われた。兄さんは父さん似。

父さんは穏やかで、母さんは大らかなのだそうだ。


僕たちは奇妙な力を持っている。

でも、僕はそれで『困った』コトは無い。

僕の力は陰陽師だ。

昔それを生業にしていた人たちがたくさんいたし、今でもそういう職業の人が居る。

つまり、人が進んで身に着けようとする能力なのだ。

『あって便利』の方が勝るってコトだよね。

生まれたとき、式神がついていたって聞いたけど、年々増えている。

と言っても自由に使役できるのは数が限られていて、質問をしたら答えてくれるとかそういう子の方が多い。

今でもまだまだ未熟だから...


僕はよく兄さんと2人で4つ駅が離れたところにあるおじいちゃんの家に遊びに行ったりしてた。

父さんは仕事で忙しいから。

そこで、一緒に遊ぶ女の子がいた。

近くの教会の子だ。

名前は松崎和(まつざきかず)。

僕と同じ年だから、すぐに仲良くなった。

兄さんも妹が出来たといった感じでよく面倒を見てくれていた。


ある日、和が泣きそうな顔をしていた。

どうしたのか、と聞くと泣きながら自分の奇妙な力について話してくれた。

『GIFT』だ。

『GIFT』ってのは僕たちの間では、生まれつき人とは違う力を指している。

僕の陰陽術も、兄さんの『テンプテーション』も。

それら全ては神様からの贈り物だって、以前旦那様が言ったらしい。

それ以来、そういうことを『GIFT』と呼ぶようになったのだ。

それに対して反発する人はいる。

自分のその奇妙な力を忌み嫌う人は少なくない。

それでも、そんな自分と似た奇妙な力を持っている人に出会えるのはほんの一握りだと思う。

独りで悩まずに話しの出来る相手がいるのだから、僕は幸福だと思う。

敦也もそう言っていたし、兄さんも、アキ姉さんも。

そして、きっと和も。

和の話を聞いて、とにかく父さんに相談してみようって話になった。

どうしたって、父さんの作るお守りを持たせてあげるに越したことは無いし。

おばさんに断ってウチにつれてくると、父さんは丁度お守りを作るために祝詞を上げていた。

父さんの祝詞を上げる姿を見て、和は目をきらきら輝かせていた。

とても気に入ったようだ。

父さんの仕事が済んで、話をすると、

「じゃあ、そうだね。和くんも『GIFT』に行ってみるかい?たしか、次は丁度来週の日曜だ」

と誘った。

ここで言う『GIFT』ってのは、そういう奇妙な力を持っている人たちの会合。というか、交流会のことだ。

数ヶ月に1回開催される。そこで僕たちは色んな情報交換をする。

そこへ、和も連れて行くことになった。

兄さんは最近来なくなったアキ姉さんにも連絡を入れていた。アキラ姉さんは同性にも人気が有るから、和も懐くのではないかという配慮だ。


和にとって初めての、そして、僕たちにとってはずいぶん慣れた『GIFT』への参加となった。

和は、人が多いことに緊張していた。

自分の気が高まると力が出るからそれを恐れて余計に緊張したらしい。

「大丈夫よ。ここではリラックスできるの」

アキ姉さんだ。

ここは父さんの張った結界に守られている。

『GIFT』の会場になるところは、父さんが前日のうちに結界を張っておくのだ。

和はアキ姉さんの声に驚いていた。

「アキラ。来てくれたのか」

一緒にいた兄さんがアキ姉さんに声を掛ける。

「まあ、ね。久しぶりに来てみようかなって。彩も、久しぶりね。で?この子は?」

「ああ、僕のおじいちゃんちの近くの教会の子で、僕と同じ年だよ。名前は松崎和。炎が出ちゃうんだって」

和を紹介すると、アキ姉さんは

「ああ、ファイヤースターターってやつ?黙ってれば気づかれない私たちとは違うタイプなんだ...辛かったね」

そういって和の頭を撫でた。

そして、やはりというか何と言うか。

「あっちゃん!新しい友達だよ」

そういって、少し離れたところにいた敦也を呼ぶ。

「何、姉さん?」

「この子。彩たちが連れてきたのよ。和ちゃんだって。あっちゃんたちと同じ年」

「高橋敦也です。よろしく」

そう言った敦也はいつものコトながら落ち着いていた。

そして、和はいつも「消し去りたい発言だ」と言っている

「高橋敦也!アンタは私のライバルだ!!」

という発言が聞けるのはその日の帰り際。

敦也も、兄さんも僕も驚いて呆気に取られていたけど、ただひとり、アキ姉さんが目に涙を浮かべて笑っていた。

それから、何度か和を『GIFT』に呼んだ。

でも、合宿の話はしなかった。

合宿に参加することは、つまり、秋野に所属することを意味する。

秋野が悪いとは思わない。

でも、ある人を守るために、別のある人を傷つけているのには違いない。

僕も兄さんも選んで『秋野』だ。敦也も、アキ姉さんも。

『秋野』は強制されて入るところじゃない。

ただ、『GIFT』に参加すれば何となくでも自ずと『秋野』を知り、そして、自分で決めることになる。そういうものだ。


しかし、そんな生活の中で事件が起きた。

何だか胸騒ぎがするから式を飛ばした。

そして返ってきた情報が、『和が攫われた』だ。

兄さんと急いで現場に向かった。

途中で兄さんは携帯でどこかに電話を掛けていた。

電車で移動しないといけないから、とてももどかしかった。

式の導くとおりに藪を掻き分けてその先に物置小屋のようなものがあった。

ドアを蹴破って中に入ると、和の炎が奔っていた。

「あの炎を消してくれ!」

たまたま傍にいた兄さんに惹きつけられた水気をまとう精霊の眷族がそれを鎮火した。

突然のことに和は驚いて呆然としていた。

そして、程なくして敦也がやってきた。

兄さんがさっき連絡を入れていたのは敦也だったようだ。

「ごめんね、敦也」

「態々悪いな」

「いや、気にしなくていいよ。コイツでいいんだよね?」

そう言って敦也はパンッと手を叩いて大きな音をさせ犯人の目の前に左手を掲げ

「お前は、これから自主をする。この部屋に放火したって。お前が持っているそのライターで火をつけたと。お前は放火犯だ。でも、怖くなって自分で消火した。いいな?お前は火をつけて、消した」

そう言いながら僕たちを外に出し、自分もいつでも外に出れるようにしてパチン、と指を鳴らした。

敦也の能力は『リライト』。記憶の上書きだ。

「冤罪?」

「子供の誘拐犯よりはマシじゃないか?」

「で、和の記憶はどうする?俺なら大丈夫だけど」

と言って敦也は和を見る。

敦也のような精神系の能力は本人の集中力と精神力が必要となる。だから、敦也に余力がないと記憶の上書きは出来ない。

「和、君はどうしたい?俺たちと同じところに来たい?でも、俺たちと同じところはとても大変なんだ。痛いとか苦しいとかたくさんある。君は、どうありたい?その君の持っている力は何に使いたい?」

兄さんが和に聞いた。

今が、和の選ぶときだ。

「私は...」

和は考えた。少し時間を置いて、

「私は、誰かの役に立ちたい。こんな壊すことしかない炎だけど」

はっきりと、兄さんの目を見て答えた。

僕と敦也は兄さんの答えを待った。

「分かったよ、和。父さんに話してみよう。あと、和。君は誤解しているよ。炎というのは確かに破壊する力だね。でも、人が初めて手にした『安心』もまた炎の生み出したものだ。炎を扱えるなら、『壊す力』と同じだけ、『守る力』があるよ。それはすべて使い方次第だ。
だから、和。考えよう。覚えよう。焦らなくてもいい。ゆっくり自分のペースで良いから。ね?一人で背負うのが重くなったら俺たちに言えばいい。いくらでも手を貸すよ。勿論、君の憧れのアキラも、ね?」

兄さんの答えに僕はほっとした。

「じゃあ、まあ。今日のことは和に関しては保留だね」

敦也も笑いながらそう言った。敦也だって、友達の記憶を書き換えるのは心が痛むはずだから。

「それはそうと。和は何で遅くなったかいい訳考えないと」

「仕方が無い。うちに居て寝てしまったからっていうのでどうかな?俺たちも寝こけていて、更に父さんは神主としての依頼が入っていたとか...ダメかな?」

兄さんの案はイマイチな気がして考え込んでいると

「良いじゃないか。それでいこうよ。じゃあ、和くんは私が送り届けて怒られるから、臣くんたちは帰りなさい」

と声を掛けられた。

いつの間にか父さんが来ていた。

「ん。分かったよ、父さん。2人とも、帰ろう」

兄さんに促されて、僕と敦也は帰ることにした。


その次の合宿から和は参加することになった。

僕たちはもう上級者向けの合宿に参加していたけど、初めて参加する和のために久しぶりに初心者の合宿に参加した。

キャンプみたいだな、と思った。

僕が入ったときも、上級者向けに上がっていた俊夫さんとか、佐代子さんが参加してくれたことを思い出す。

兄さんが和と同じグループに入った。

似てるって言ったら似てる力だしね。

和の兄さんへの想いは傍から見たら分かりやすくて微笑ましい。

でも、兄さんは気づいていない。

兄さんは、幸か不幸か好意を向けられることに慣れてしまっているから。


和は一生懸命訓練を積んで上級者に向かっていた。

その間、僕たちには仕事が来ていた。

敦也なんか、一大決心した日に仕事が入った。

僕はそのフォローをしなくてはいけなくなる。

気の毒に...

そのときの仕事はきっとずっと忘れない。

敦也が和のライバル宣言を忘れないように、僕にとってはとても衝撃的だったから。

思わず敦也のお父さんの高橋さんに報告してしまったくらいだ。上司としてではなく、親友の父親としての高橋さんに。

あとで敦也に怒られたけど...


和と敦也と同じ高校に上がった。

和は高校に入って初めての仕事が来た。

しかし、聞くところによると全然動けなかったそうだ。

それを気にしてか、最近元気が無い。

僕にとって最初の仕事は、式を飛ばすだけで良かったし、敦也も結構肝が据わっているから気にせずに仕事が出来たはず。

というか、先輩のフォローすらしてしまったと聞いた。

「親が親だから」と噂した人たちもいたけど、だったらアキ姉さんは何だって言うのか...

先輩が言っていた。

「アキラはまだまだだ。てか、もう組まねぇぞ!」

って。

一方、アキ姉さんはと言うと..多大な迷惑を掛けたと言って笑っていた。

和もそんな性格だったら良かったのだけど、結構繊細だ。

話を聞いてあげたいけど、でも、僕の話をしたら逆に落ち込むかもしれない。

更に、丁度秋野の弐の姫、参の姫を狙う輩がいるという情報を入手したため、僕たちは声を掛けられた。

本当は学校優先なのだが、このケースの場合、そうも言ってられない。

弐の姫、参の姫こと、秋野昴(あきのすばる)、恵(めぐみ)は天才だ。

敦也は少しムカつくとか言っていたけど。まあ、何でも有りなのがこの世の中だと思う。

まだ幼稚園に入って間もないのに、既に兄さんの勉強を見てたり、それ以上の知識を得ている。

2人は、「生まれるときに記憶をなくさなかったからだ」と言ってるけど、それも定かではない。

でも、2人が凄く賢くて、そして、それは命を狙われる程のものなのは確かだ。

特にこういう情報って最初に広まるのは裏社会だ。

それを手に入れようとし、そして、手に入らないって分かると他が手にすることができないようにする。

そんな考えの下にウチの弐の姫、参の姫は命を狙われる機会が増えていた。

その情報が有って学校を休んだ次の日。

和が無き腫れた顔をして学校にやってきた。

お母さんが厳しいって聞いていたけど...

僕も敦也も中々言葉を紡げなかった。

「良くそれで電車に乗ってこれたな」

とやっと言葉を口にした敦也。

「昨日、何かあったの?兄さんの様子も少し変だったけど...」

兄さんの様子も気になっていたんだけど声を掛けづらくて、そのまま声を掛けずにいた。

でも、今日の和の様子を見て、何となく分かった。

どうしてか、僕はそのときの和の作った笑顔を見て切なくなった。


家に帰ると兄さんがいた。

「兄さん、昨日和と何かあった?」

「ん?うん...告白、されたかな?」

「で、どうしたの?」

「断ったよ?」

なんでもない風に兄さんはそう言った。

その言葉が僕を初めて怒らせた。

「何で、そんな言い方するんだよ!和がどんな気持ちでいたか分かってるのか?!」

「でも、俺じゃないと思ったんだ。和には俺じゃない」

「それは兄さんが決めることじゃないだろ!勝手に決め付けて...和を傷つけて何でそんな平気な顔をしてるんだよ」

そう言い放って僕は外へ飛び出していた。

行き着いた先は

「あれ?彩ちゃん??」

秋野の家のほうだった。

「どうしたの?まあ、入りなよ」

門の中から恵のガードに内定している望月望(もちづきのぞみ)が声を掛けてきて門を開けてくれた。


敷地内の茶室に通された。

「今、恵がお茶を立ててるから」

そう言って望が先に入り、僕も後に続いた。

「どうしたの、彩ちゃん。珍しく空気がざわついているよ」

僕が茶室に入った途端、中に居た昴にそう声を掛けられた。

「うん...そういえば。要(かなめ)たちって、もうかなり仕事をこなしてるって聞いたよ?」

中々話しづらくて思わず昴のガードの土井要(どいかなめ)に話を振ってしまった。

「ん?どうだろう?まあ、少なくないよね」

僕の心の中を見透かしているだろうけど、要が答える。

「さーて、恵。私たちはもういいから、彩ちゃんにもお茶立ててあげてよ」

そう言ってさっと立ち上がり、昴が茶室を出て、要も続く。

「俺は、外で控えてるから」

そういって望も出て行った。

「いいのにねー?」

そう言って恵が笑い、お茶を立て始めた。

「あのね、恵。僕、八つ当たり、だと思う。しちゃったんだ」

「珍しいね、彩ちゃんが」

「うん...兄さんが、ね。和の気持ちに応えなかったんだ。和の気持ちって凄く直向だったと思うんだ、僕は。それなのに...」

思い出しただけで切なくなる。

「彩ちゃんってもしかして兄弟喧嘩したことないの?」

恵が聞いた。

「え?!そういえば、無いかも...兄さんも僕も衝突することが無かったから」

「ふーん、ホント?」

そう言った恵の視線は、茶室の入り口にいる兄さんに向いていた。

望に促されて兄さんも茶室に入ってくる。

「うん。まあ、そうだな。喧嘩っていう喧嘩をした記憶は無いな。いつも話し合いって感じだから」

そう言いながら兄さんは僕の隣に座った。

何だかムカムカしてきたけど、でも、ここで喧嘩を始めたら恵の目の前の茶釜が飛んでくる...

絶対に飛んでくる...

そんな僕の心を知ってかしらいでか。

兄さんは恵に立ててもらったお茶を、きちんと作法どおりに味わっていた。

僕も負けずに作法どおり頂いた。

「で、私が思うに...」

恵が切り出した。

「早く家に帰ったら?夕飯の時間でしょ?」

と一言。

僕の訴えが恵に響いていないのだとそのときはショックを受けたけど、でも、これで良かったんだ。

喧嘩両成敗にするには兄さんが気の毒。悪いことをしていないんだから。

そして、この解決法でもやっぱり僕が悪いのに無罪放免って兄さんに悪かったと思うけど、でも、騒ぎが大きくならない方法はこっちだ。

和の耳にも届いていない。

僕たちは何となくで仲直りをし、そして、何事も無く日常が過ぎていった。




桜風
07.5.27


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