| 久しぶりのデートが家の中とかどうだろう... 少し気になって村越はを見た。 しかし、全く気にした様子のないは書店で購入してきた少し小難しそうな本を読んでいる。 「、良いのか?」 「何が?あ、コーヒーはお替り」 それは別にかまわないが... そう思いながらキッチンに向かい、コーヒーを淹れる。 はノンシュガーだが、ミルクは必要らしい。最近ちょっと好みが変わったと先ほど聞いたばかりだ。 新しいコーヒーを淹れ、が座るソファの前のテーブルにマグを置く。 「ありがとう」 雑誌を閉じてマグカップに手を伸ばし、一口飲んだ。 「ん?豆変えた?」 「どうだったかな。メーカーとか気にしないからな」 肩を竦めてそう答えると 「うん、変わったよなぁ...」 とひとりは呟く。 「で、は何を読んでいたんだ?」 彼女が傍に置いた雑誌を手に取る。 「文学誌?お前がこんなの読むようになったのか」 「村越はあたしのお父さんか!」 笑いながらが突っ込む。 「ねえ、村越」 「ん?」 パラパラと雑誌を捲りながら返事をすると「月が綺麗ですね」とが言う。 「どうした?」 「ちょっと貸して」 マグカップを置いて手を出してくる。 パラパラと捲っていた雑誌をに返した。 何だろう。 彼女はページを捲って「はい」と雑誌を返してきた。 ここを読めと言うことだろう。 村越は大人しく読み始め、ふと顔を上げた。 「どう?」 にやっと笑う彼女に軽く溜息をつき、「そうだな。月が綺麗だな」と返す。 彼女は満足げに笑った。 夏目漱石が『I love you』を『月が綺麗ですね』と訳したことがそこに書いてあり、彼女はその言葉を借りて村越に言ったのだ。 「じゃあ、例えばですよ。村越はどう言うの?」 「伝わってこその言葉だろう。態々情緒のある言葉で表現をしたとしても相手が気付かなければ意味がない」 村越が言うとは「まったくです」と深く頷き、笑顔を向ける。 「それでは、相手に気持ちを伝える最大の方法、目を見て。さあ、どうぞ!」 じっと自分を覗き込んでくるに少し怯みながら口を開くが、「こんな真正面から言えるか!」と村越は内心困った。 困ったが、それでも... 手を伸ばしてを抱きしめる。 「わぁ」と彼女の口から驚きの声が漏れた。 「愛してる」 図らずも彼女の耳元で囁く形となった。 「これで勘弁してくれ」 村越の言葉にはコクコクと頷き「充分です」と小さく呟いた。 |
桜風
11.5.1
ブラウザバックでお戻りください