| トクベツな関係 |
| どこにでもある居酒屋の引き戸を開けて中を覗く。 店員に声をかけられ、この店を予約した幹事の名前を告げると個室に案内された。 「ごめん、遅くなった」 そういって声をかけて、テーブルの上を見渡したら笑いが込み上げてきた。 「何だよ」 不機嫌に堺が言う。 「つか、遅れて大爆笑ってなんだよ」 苦笑して丹波が言う返した。 「わかってるくせに〜」 そういっては 「とりあえず、ビールで」 と注文を待っていた店員にそう声をかけて入口に近い、空いている席に座った。 間もなく店員がが注文したビールを持ってきたので、彼らも改めて乾杯をした。 「てか、堺君の席の前にビールって」 が笑う。 「うるせーよ」 「やー、高カロリー解禁ですよねー」 そう言った石神が言うと堺がギロリと睨む。 睨まれた石神は首を竦めてグビッとビールを飲んだ。 「『から揚げはカロリーが高い、食うか!』とか『ビールじゃなくて、ウーロン茶』ってね?こういうお店に来たら必ず堺君の口から出ていたお小言だったもんね」 「そうそう。お前らもフィジカル気にしろってなー」 堺と同じ年の丹波がの言葉に頷く。 「丹波君は、気にしないから、余計にお小言多かったよね。同じ年ってのもあっただろうけど」 「おいおい、同級生。自分だけ若い振りするな」 そういって丹波に指摘されては「何のこと?」ととぼけてみせる。 そんなに石神は苦笑を零した。 「まあ、そんな健康オタクな生活のおかげで現役生活長かったもんね」 「健康オタクっていうな」 の言葉に半眼になって堺が返し、彼女は笑ってビールを煽る。 「むしろ、今から揚げ平気なのがどうかと思うけどな」 苦笑して丹波が返した。 彼の前には、煮物だとか、それこそ現役時代に堺が好んで食べていたものが並んでいる。 「だよねー」 笑って彼女は同意して、丹波の前に置いてある煮物に手を伸ばした。 「ガミ」 堺に名前を呼ばれて「はい?」と返事をした途端、隣に座っていたがふらりと傾ぐ。 「わ、」ととっさに手を伸ばして彼女の後頭部にたんこぶが作られるのを阻止した。 「おー、さすが...」 丹波がそう漏らした。 ここで言う『さすが』というのは、とっさに反応した石神ではなく、彼に声をかけた堺の方だ。 「うるせ」 短く答えて席を立ち、石神が左腕で支えている彼女をそっと寝かせてコートをかける。 数年前、堺とは恋人という関係だった。 ただ、お互いが一番大事にしているものが違い、その結果、恋人という関係は解消した。 とはいえ、そもそもべたべた付き合いをしていなかったことと、その後も交流があったことから、環境は変わらない。 堺が引退したきっかけに復縁ということになるかと思われたが、そうはならず、相変わらずの友情を温めている。 周囲から不思議な関係だといわれているが、当の本人たちが気にしていないため、そのまま数年が経過した。 食事が終わったが、は起きそうにない。 「おー、どうする?」 ちょっと困ったように丹波が言った。 幹事として、面倒見る必要があるのだろうが... 「起こします?」 「や、起きねーよ」 アルコールで潰れた彼女は中々起きない。 きっちり割り勘で話していたが、堺が分も支払い、石神に手伝ってもらって彼女をおぶった。 「重っ」 思わずこぼれた言葉に石神は笑って 「今度さんに会ったら今の、言ってもいいですか?」 からかうように言う。 「言うんじゃねーぞ」 そう返して「じゃ、お先」と店を出た。 (そういや、こいつ負ぶって歩くの久しぶりだな...) 食事に行くと、彼女は時々こうしてアルコールの摂取方により、強制終了していた。 そんなときは、仕事で何かあることが多く、堺は大抵強制終了を止めなかった。 「今度はどうしたよ?」 眠っているに小さく問う。 「聞かないで」 言葉が返ってくるとは思っていなかった堺は驚いて足を止めた。 「起きてんなら、歩け」 「いいじゃん、楽させて」 「...たく」 ため息交じりにそういって堺は足を進めた。 「ははっ。良則は優しいね。これだと、女の子にモテモテだ」 「お前にだけだよ、ばか」 堺が返した言葉に彼女はくすぐったそうに笑う。 「トクベツだ」 「まーな。んで、んちは、相変わらずあそこでいいんだよな」 「うん」 「了解」 ゆっくりと足を進める堺の背中で彼女はまた寝息を立て始めたのだった。 |
桜風
13.5.1
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