赤い傘







突然の雨に降られて、赤崎は慌てて庇の下に駆け込んだ。

たぶん、通り雨なんだろうけど...

そう思いながら空を見上げてみてるが、雲は重くどんよりとしていた。

ちらりと腕時計を見る。

時間がない...

濡れてしまうけど、走るか...?

そう思って一歩踏み出した。

しかし、雨粒が落ちてこない。

「どうぞ?」

知らない女性にそういわれた。彼女は傘を差しかけてくれている。

「え...?」

思わず警戒してしまった。だって、知らない人に傘を借りるなんて出来るはずがない。

「急いでいるんじゃないの?」

「あ、いや..急いでるけど...」

「じゃあ、どうぞ」

そう言って彼女は赤崎が庇を借りていた店の入り口に足を向けた。

「あの!」

赤崎が声をかけると彼女は振り返る。

「ほら、走って」

「あ、じゃなくて...返せない、と思うんだけど」

彼女が押し付けた傘を持って言うと「ああ、いいよ。いつか別の形で何かを返してもらうから」と言って彼女は店の中に入っていった。


赤い水玉模様のこの傘は、やっぱりどう見ても女物で。

でも、女物にしては大きいので赤崎も助かった。

しかし、どうして彼女はあんなことを言ったのだろうか。

もしかして、ストーカーか?!

そうか、オレのストーカーかとか何となく納得していると雨は降り止んで太陽が輝き、青空が広がった。


それから数ヵ月後に赤崎は目を丸くすることになる。


「Hello」と彼女は笑う。

「な、なんで...?!」

入団契約のためにクラブに向かった先に彼女が居た。

やはりストーカーか?!と思ったが、どうやら彼女はこのクラブの関係者だったようだ。

しかし...

「何で分かったんだよ」

彼女は肩を竦ませてそのまま去っていった。

「知り合いだったのかな?」

「あ、いや...」

知り合いと聞かれると頷けない。

「名前も、知らないス」と返す赤崎にスタッフが笑う。

「あの子の名前は、。広報部だ。死ぬ気で勉強したと面接のときに言われて、思わず採用ということになったんだ」

へー...

しかし、何だってさっきの挨拶は英語だったのだろうか...?

契約を済ませて帰るときにも彼女を見かけた。

えーと..

さん!」

名前を呼ばれて彼女は振り返る。

「傘、今度返すから」

そういった赤崎に彼女は首を傾げて記憶を辿っているようで腕を組んで更に首を捻る。

「夏頃の話なんだけど...」

赤崎がそう言うと彼女は手をぽんと叩いた。

「It's good anytime」

そう言って微笑んだ彼女はまたどこかへと消えた。

「ああ、さらに。基本的に彼女からの返事は英語だから」

スタッフが困ったようにそういった。

「はあ?!」

何だ?変人か...?

振り返った赤崎の視線の先には彼女が居て、手をヒラヒラと振る。

そういえば...

『いつか別の形で返してもらうから』

彼女はそういった。

つまり、もしかしたら、推測だが彼女は自分がこのETUに入ることを知っていたと言うことだろうか?

確かに、ユースに所属していたが...



さん」

赤崎に声をかけられては振り返る。

「ちょっと..というか3年くらい前なんスけど...」

彼女は頷く。

「何で、オレがETUに入るって分かってたんですか?」

赤崎が聞くと彼女は何のことか分かったらしくて笑う。

「It, perception」

何となく『勘』と言われた気がして赤崎は苦笑した。

「っスか」

「っスよ」

が返す。

さん、突然日本語って、ちょっと..」

ビックリすると言うか心臓に悪いと言うか...

視線を外して呟いた赤崎がをちらりと見ると彼女はウィンクをした。

「たち、わりぃっスね」

「おー?廊下でイチャイチャすんなよー」

「ちょ!アイスボタボタ零しながら廊下を歩かないでください!!」

突然沸いて出た監督が通りざまにそう言い、彼が手に持っているアイスが溶けて廊下にぽたぽた落ちている。

プリプリ怒りながらは雑巾を取りに行った。

「邪魔だった?」

「や、別に...」

「うん、ムカつくくらいにすっごく邪魔だった」とか言えるはずもなく赤崎は素っ気無く答えて「お先です」と帰ることにした。







桜風
10.7.1