| 後藤が達海を連れて帰った。 帰る前にもひと騒動あった。今まで達海が監督をしていたチームが違約金を要求してきたのだ。それを後藤が出すようにと事務所に連絡をしてきていたのだが、さすがにそれは出来ない。これ以上の負債は抱えられない。それこそ、達海を連れて帰ってチームが解散とかになったら本末転倒だ。 しかし、一転して達海を連れて帰ることが出来るようになったという。違約金はどうなったのか分からないが、興奮した様子の後藤から電話があったと聞いた。 そして、会長から選手に次期監督の話がある。 勿論、皆はそれぞれの表情を見せた。ザワリとその場が揺れたのをは少し離れたところから見ていたものの、感じた。 腹を括ったとはいえ、やはりどうにも... 未だにうじうじしている自分がどうにも気に入らない。 皆が帰った後、は持ってきてたスニーカーを履いて外に出る。 ふと、10年前の別れのときを思い出した。 約束は、守ってもらえたといっていいのだろうか。 いーや、彼のことだ。覚えていないに決まっている。 ポンポンとリフティングを始める。 練習場は選手達の聖域なのでその外で。 「上手いじゃないか」 不意に声を掛けられてボールを落としそうになったが、そこは何とか耐えた。 <こんばんは> 警戒心を顕にして英語で話しかけた。 彼は不思議そうに首を傾げた。 <なんで英語なの?> イングランドで10年。そりゃ、英語も堪能か... <久しぶりの日本はどうですか?> 達海の問いに答えずにはそう問いかけてボールを蹴った。 達海は軽くトラップしてそのままに蹴り返す。 <まあ、懐かしいとかそういう感慨に耽る間がないよな> 返されたボールはとても優しくては驚く。 <明日からもう始動でしょう?寝なくて良いんですか?> リフティングをしながらは言う。達海は面白そうにを見た。 <そっちはこんな時間に何してんの?帰らなくていいの??> <ちょっと精神統一って言うか、自分との対話中だったんです> <ふーん。なあ、ちょっと聞かせてくれるか?> <こちらからも質問があるんですけど> が言うと<んじゃ、そっちからでいいよ>と返された。 <達海さんの目指すサッカーは、どんな形ですか?> リフティングを止めてが達海の眸を射抜くように見つめてそう言う。嘘や誤魔化しは許さないと言わんばかりの視線に達海は苦笑した。 達海が口にした答えにの目元は和らぐ。 <んじゃ、こっちの質問> そう言って達海が質問をする。 の見解でいいといわれたので、その通りに答えた。 「んー、やっぱ..うーん...」 「ウチの、過去の試合を今見てるんですよね?」 「あれ?日本語」 不思議そうな達海は再び無視して答えを待つ。 「んー、まあ。アレだね、うん。結構アレだね」 『アレ』に何という単語が入るか何となく想像できたは特に聞き返さない。 「ま、『Giant Killing』だ」 「ウチが勝ち進んだら間違いなくそれですよ。でも、達海さんは今までそれをしてきたんですよね。この間まで居たチームでも、プレミアリーグのチームに一度は勝ち越したって聞きました。大興奮の後藤さんから」 笑いながら言うに「まーねー」としれっと返す。 「問題は山積みです」 「ひとつずつ解消していくしかないでしょう」 達海の言葉には深く溜息を吐いた。 「大人になりましたねー」 「親戚のオバちゃんみたい」 「やかましい!」 忌々しげに返すに向かって笑い、「んじゃ、も早く帰れよ」と言って戻っていく。 ふんっとそっぽを向いて思い出す。自分は確か自己紹介していないのではないか。 でも、達海は自分の名前を知っていた。 「毒を食らわば皿まで」 呟いて可笑しくなったは声を上げて笑い、とりあえずその日は帰宅することにした。 |
桜風
10.7.3
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