アイコトバ 4





グラウンドの傍が賑やかなことになっている。

お使い帰りのは「あらあら」と呟いた。

説得している後藤に対して反発しているサポーターのまとめ役、ユナイテッド・スカルズ。

「お疲れ様でーす」とその傍を通ると「!」と呼び止められた。

振り返り、彼の言葉を待つ。スカルズのリーダー、羽田の。

じっと睨んでくる羽田から庇うように後藤がの前に立ったが、「後藤さん、これ持って先に戻ってください。で、またなんかあったら携帯で呼ぶんで助けに来てね」と最後は可愛らしく言った。

「だが...」、と渋る後藤に「まあまあ」と言ってその場から追い出した。


後藤の姿が見えなくなっては改めてグラウンドのネットを見た。たくさん幕が貼ってある。その多くが達海の監督就任を反対するものだった。

「これ、外せない?」

「ダメだ。何でアイツなんだ?!お前だってあいつの裏切りを目の当たりにしてるだろう?!」

言われては右を見て、左を見て、上を見て、羽田を見た。

「まあ、うん。かなり複雑ではあるけど...ね」と頷く。

「じゃあ、何だって!!」

「後藤さんが、もうあの人しか居ないって言ったの。それを聞いて思わず『そうかも』って思った。だから、わたしはこれは仕方ないって思ってる」

「アイツは、一度俺たちを捨てたんだ!そんなアイツを信じるのか?!信じられると思っているのか??!!」


遠く、グラウンドの中から見るとスカルズがを脅しているように見える。選手達は少しハラハラしていた。

「おーい、集中しろ」と松原が声をかける。


「とりあえずさ、ホント悪いけどこの幕は降ろして。選手もある程度慣れているとは言っても、これはどうかと思う。モチベーション下がるかも」

きっぱりと言うに羽田の傍に居たスカルズのメンバーが「なんだと?!」と声を荒げる。

「やめろ」と制したのは羽田で、「」と諭すように名を呼ぶ。

「アイツだけはダメだ」

「もう契約したし。...チームとしてもこれが最後の選択になると思う。わたしの推測だけど」

そう返した。

「幕、とりあえず降ろせ」とメンバーに指示をした羽田はを見下ろした。

「理由、言え」

自分の周囲からメンバーを離して羽田がそう促した。

「ウチは親会社がない。これを念頭において。
まず、自治体の補助金が出なくなる可能性が高い。地域活性化が名目だったらその結果がないところに税金の投入してたらサッカーに興味のない人たちは納得できないし、議会だってこの不景気の中こういうのを続けさせるはずがない。
次に、スポンサー。大口の大江戸通運さん。たぶん、近々代替わりするだろうし、そうなったらスポンサー切られると思う。次期社長の、今の副社長さんはクラブチームのスポンサーということに意義を見出していないからね。お金にならなかったらそれは無駄と思うのがビジネスでしょう。昔の人みたいに義理や人情で何とかしてくれるところがこの先出ると思う?」

羽田の眉間に深い皺が刻まれる。

「本当か?」

「わたしの推測だけど。遠くない未来の現実だと思う。だから、結果を出すには今しかない」

「何度も言ってる。あいつはチームを捨てて自分の利益のために海外に移籍したんだ。チームのことを考えずに!」

は俯いた。羽田はちょっと慌てた。いや、泣かせたいんじゃないんだと心の中でオロオロしている。

「達海さんが移籍するって聞いて、わたし思わずこの練習場に来たら居たの。そのときに、彼は言った。自分の行くチームは弱いんだ。だから、自分がチームを強くして今まで強かったチームに勝ってくるって」

が何を言いたいのかイマイチピンと来ない。羽田は黙っていた。

「じゃあ、また帰って来るのかって聞いた。そのチームが強くなったら、また帰ってくるのかって。もし、ETUがピンチになったら、帰ってきて助けてくれるのかって。そしたら、答えなかったけど、達海さんはニッて笑った。自信満々に。で、今回帰ってきた。だから、わたしは信じる。もう、腹括っちゃった。それに、こっち側に来たらそれはそれでそっちにいたときに見えなかったものが見えてくるのよ」

そう言って笑った。「まあ、毒を食らわば皿まで」と付け加える。

「羽田さん、終わりました」とメンバーが声をかけてきた。こっちも丁度終わったところだと心の中で答えつつ「ああ」と返す。

「今シーズン、前半。それまでは我慢して。チームを作り直すこととかあるだろうし。それでも、我慢ならなかったら」

「ならなかったら?」

「後藤さんに苦情言ってよ」

そう言っては笑う。

「自分、って言わないのかよ!」

「自分っていうくらいなら、部長にっていうわよ。下っ端に文句言ってもダメよ。決定権はないもん」

そう言って笑うに羽田は溜息を吐いた。

「今日は、まあ、お前の顔に免じてやるよ。だが、それでもやっぱり俺たちはアイツを信じられねぇ」

羽田の言葉に「うん」とは応じる。

「今日、わたしの顔に免じてくれただけでも有難い。今年もゴール裏、よろしくお願いします」

深く頭を下げたに「お前もたまにはこいや」と羽田は声をかけて「おい」とメンバーに声をかけて練習場から去っていく。


「羽田さん、さっきの女、何スか?」

昨年スカルズに入ったメンバーが問う。

「ああ、昔は俺たちと一緒にゴール裏で応援してた子だ。えーと、名前は..。今はETUの広報部だとか...」

羽田の代わりに古参が答える。



クラブハウスに戻ると後藤が駆けてきた。

「大丈夫か、ちゃん」

「ええ、まあ。でも、今後の苦情は後藤さんに、ってお願いしておきましたので、よろしくお願いします。我慢できるところまでは我慢してくれるって約束してくれました。でも、我慢できるレベルがどこまでかは、わかんないですけど...」

の言葉に後藤は真摯に頷く。

「サポーターの気持ちも、分からなくもないからな...」

難しい表情を浮かべて呟いた後藤に対しては「ストレスで胃に穴を開けないようにしてくださいね」と声をかけて広報室へと向かった。









桜風
10.7.10


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