| 浅ましい... 今朝、パチッと目が覚めた。覚めてしまった。 時計を見ると、いつも起きている時間で、体が覚えているなら仕方ないと諦めつつも、やっぱり諦めきれない。 「くっそー...」 今朝見た夢は、とても幸せな夢だった。 幸せだったが、『夢』と分かったらその分落胆が大きい。 内容としては、自分が想い人と大人な感じにいちゃこらしていたものだ。 夢じゃなくて現実だったらどんなに良かったか... 本日たぶんもう二桁突入の溜息を吐いた赤崎は家を出た。 駐車場に着いてまた溜息。 そうだった。車は昨日車検に出したんだ。代車を、と言われたのだが断った。 昔の友人が地元に戻ってきているため皆で食事に行ったのだ。駐車できなかったら面倒なので、代車を断った。 さあ、どうしよう。 タクシーを捕まえることも考えたが、何となく電車に乗ることにした。 電車に揺られて向かったは良いが、いい時間となってしまい、結局駅から練習場までダッシュする羽目に陥った。 「くっそー...」 夢見が良かったら現実はこれか...! 練習前にへばってしまったらどうしよう。それは拙い。 今更タクシーを捕まえるか?! そう思って大通りに視線を向けると見慣れた人が自転車に乗っていた。 赤崎はタクシーと言う選択肢をさっさと捨ててその風を切って自転車をこいでいる彼女に声を掛けた。 「さん!」 キキー!とブレーキが悲鳴を上げる。それなりにスピードが出ていたらしく、後輪が浮いて自転車が止まった。 「ちわ」と言うと彼女は自分の腕時計を見て、赤崎を見た。 「ちょ、何で?!」 あ、日本語... 今は緊急事態で、意思疎通が必要だと彼女が思ったのだ。 「や、実は」と説明を始めようとしたが彼女は自転車から降り、「乗りなさい」と言った。 「え?」 「遅刻するでしょう?!走ってったら疲れるだろうし。そしたら練習に支障が出るかも」 彼女は選手としての自分を心配してくれている。 嬉しいような、もう一声!と思いたいような... そう思っていたが、赤崎は自分のバッグをに渡す。 彼女は赤崎の意図が見えずに首を傾げた。 「さん、後ろ乗って」 彼女の自転車には荷台がついている。お尻が痛いかもしれないが、と思いながらもサドルに腰掛けた。 「オレがこれに乗ってったらさんが遅刻だ」 「いいよ、練習前に負荷を掛けるのはどうかと思うよ」 「さんを後ろに乗せてチャリをこぐくらい全然負荷じゃないって。ほら、乗ってくれないと遅刻する」 そう言って急き立てて促す。 赤崎のバッグを斜めに掛けてはその荷台に腰を下ろした。 「しっかり掴まっててください」 そう言って赤崎は思い切りペダルを踏んだ。 突然の加速に危うくバランスを崩しそうになったは慌てて赤崎のTシャツをぎゅっと掴んだ。それだけで赤崎の心臓の鼓動は早くなる。 どうにも、に対しては自分は中坊レベルだ。 それが何とも歯がゆく、同時に悪くないと思っている。 「キツかったら言って。降りるから」 「大丈夫っス」 そう言って赤崎は自転車をこぎ続けた。 時間があったらもっとゆっくり話しでもしながら自転車を漕ぐのに、と思いつつもそもそも時間があったらに会わなかったと自分の考えを訂正する。 練習場の入り口に着き、ブレーキを握るとが荷台から飛び降りて自分が掛けていた赤崎のバッグを彼に掛けた。 「走って!」とクラブハウスを指差す。 「ウス」と返事をして赤崎は駆け出した。 あっという間に遠ざかっていく赤崎には溜息を吐いた。 彼の言ったとおり、自分との2人乗りは特に負荷にならなかったようだ。走り方もいつもと同じだし。 「怖いわー...」 苦笑しながらそう呟いた。 更衣室では上機嫌の赤崎が居た。 皆は一瞬気持ち悪がったが、ああ、がらみかなと思って納得した。 いつも口が悪くて態度がでかい赤崎だが、が絡むと妙に素直で日ごろとのギャップを思うと気持ち悪い。 「早く来いよー」 世良がそう声をかけて去っていった。 |
桜風
10.7.24
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