| 「さんてお酒飲めるんスか?」 興味津々に聞いてきたのは世良だった。 <うん、大丈夫> 右手の親指を立てて自信満々に返したに「んじゃ、今度のみに行きましょうよ」と世良が誘った。 しかし、「止めておけ」とそれを止めた人物が居る。村越だ。 その後ろでは緑川が声を殺して笑っていた。 「え、何でっスか?」 世良がきょとんと聞いた。 「いや、本当に止めておけ。飯を食いに行くだけならいいが、酒は飲ますな」 理由は言えないようだ。 「お前も、いいな?!」と念を押されたは首を傾げた。 「ちえー。せっかく若手でさんと有里さん誘って飲みに行こうぜーって話してたのに」 頭の後ろに手を組んで世良がぼやいた。 それなら尚の事拙いだろう... 緑川はそうなったとき、誰も収拾をつけられそうにないことを想像してまた苦笑する。 は慌てて村越を追った。 「村越さん!」 追いかけてくるとは思っていたが、そうなると逆に自分にとって都合が悪い。 村越は難しい表情を浮かべながらとりあえず、逃げてもずっと追いかけてきそうなので足を止めてが追いつくのを待つことにした。 先日、は年長2人組に誘われて飲みに行った。 緑川が良く行く店らしく、個室を用意されていたので、気にせずに食事が出来た。 勿論、二十歳を超えているのでは法律上お酒を飲んでも良い。なので、飲んだ。 カクテルだから、と気にせずに飲んだのが拙かったのかその後の記憶がかなり曖昧だった。 気が付くと丁度タクシーに乗り込んだところだったらしく、村越に住所を聞かれてそれ以降は運転手にナビをした。 村越たちは何となく、気になっていたのでを誘った。気になっていたのは赤崎のことだ。は確実に赤崎が自分に向けている思いに気が付いている。それなのに、はぐらかす。まあ、向こうが何とも言わないからというのも理由のひとつだろうが、だったら言えそうな隙を作ってやることだってできるだろうに... そんな2人の関係が何だかもどかしかったのだ。どちらかといえば、面倒ごとではあるが、緑川が村越に声をかけて「ドリさんが一緒なら」と村越もその席に着くことにした。 だが、本当に驚いた。 は酒癖が悪かった。 ボーダーラインを超えたら噛み付き魔になる。...らしい。噛み付くといっても甘噛み程度で痛くはないが、困ることは困る。 他のパターンも持っているのかもしれないが、かなりの凶暴なクセだと思う。 そのとき、ターゲットになったのがたまたまの隣に座っていた村越だった。 向かいの席に座っていた緑川はその様子を楽しく見守っていただけだった。 だが、先ほどの世良の誘いを受けて、そのまま若手と飲みに行ったとして、あのクセが出てきたらどうなる? 何と言うか、若手達が可愛そうだ。その日以降の試合のパフォーマンスに支障を来たす恐れすらある。 そんな不安要素があるなら、排除しておくべきだろう。 そう思って村越は大反対をしたのだが... 「あの、この間。わたし、何かやらかしちゃったってことです..よね?」 「まあな。だが、もういい。過ぎたことだ。忘れろ。あと、酒はなるべく飲むな。飲んでも良いが、自分のボーダーラインを見極めろ」 はっきりと畳み掛けるようにそういわれてはシュンとなる。 物凄く迷惑をかけたことが良く分かった。こんなに反論を許さないと言う雰囲気で畳み掛けられたのだ。もしかしたら、物凄く怒っているかもしれない。 「ひとつ言うぞ。怒ってはないぞ?」 覗うように村越が言う。 「本当ですか?」 「誘ったのはこっちの方だしな」 「おー?何の話だ?修羅場?俺初めて修羅場見たー」 村越の頬が引きつる。は半眼になって話に入ってきた人物、達海を見た。 コイツのせいなんだ... あのときに聞いたの話を思い出して村越は盛大な溜息を吐きたくなったが、それは我慢した。 でも、そのまま達海の顔を見ておきたくなくて「じゃあな」とにだけ声をかけてその場を去っていった。 「村越、怒ってんの?」 「怒ってないっていわれました」 「ふーん..そか。まあ、良かったじゃん」 「ですねぇ」とは答える。 あれ?なんで監督とこんなのどかに話をしてるんだろう...? そのことに気がついたは首を傾げながら広報部に戻ることにした。 |
桜風
10.8.7
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