アイコトバ 12





赤崎とのことがもどかしく思っていたのはおそらく自分達以外にもいただろう。だが、とりあえず自分達だけで聞いてみることにした。興味本位と言うことではなく、心から不思議だったから。


と待ち合わせたのは緑川の行きつけの店だった。

ホールスタッフにの話をしていたので、彼女はスタッフに連れられて個室に顔を見せた。

「あれ?わたし遅刻ですか?」

「いーや。俺らが先に来てただけ。ほら、早く入れ」

促されて「しつれいしまーす」とは靴を脱いで上がり、ちょっと悩んだ挙句に村越の隣に腰を降ろした。

「役得だなー」と茶化す緑川に「ドリさん、ヘタすりゃセクハラですよ」と村越が言う。

ちゃんはお酒いける口か?」

「普段飲まないから良くわかんないですけど...カクテルなら何回か飲んだことあります」とが返す。

店員を呼んでが気になったカクテルを注文し、つまみもいくつか注文した。

ある程度注文して、それが揃った頃に緑川が口を開く。

「ちょっと聞いてもいいか?」

「絶対に答えなくてはならないことですか?」

の問いに苦笑して「プライベートなことについての質問だから、イヤだったら答えなくていいよ」と返す。

それなら、とは頷いた。

「何で赤崎じゃダメなんだ?」

ズバリ核心をついて言う。

もうちょっと婉曲的に言うのかと思っていた村越は驚いて緑川を見た。

だが、は何となく自分が呼ばれた理由を予想をしていたのか苦笑している。

「んー...」と少し考えた後「長くなっても?」とが聞き返す。

「そのための、これだからな」と緑川が返した。

も、もしかしたら誰かに聞いてもらいたかったのかもしれない。


「実は、わたしの初恋は..あのクラゲです」

は時々達海のことを『クラゲ監督』という。曰く、ふらふらしてるから。

言いえて妙だと何となく納得していた。

が、まさかの発言に村越は「は?!」と声を上げてしまった。

「コシ」と緑川に注意されて「すまん」とに謝る。

は苦笑して「いやぁ、その反応はありですよ」と言う。

「まあ..と、いうわけでわたしの場合、サッカー選手というものを恋愛対象に入れていないんです」

「ちょっと飛びすぎだなぁ...間に何か理由があるんだろう?」

緑川が促す。

「サッカー選手って突然いなくなるんですよ。ふらりと」

「あれはどう考えても規格外だろう」

アレを標準と思われては敵わない。何せ、自分は10年ずっと移籍を断ってETUに留まったのだから。

それもそれである意味規格外だと思うが、緑川は口を出さない。

も「いや、それは分かってるんですけど」と返す。

「フロントとして働いている今なら、そういうチャンスがあるなら行ったほうがいいとかそういうのを思ったりしますよ。それこそ、プロの皆さんはその身ひとつが商売道具で、その価値を高く評価されるほうに行くことだって選択肢としてありだと思いますから。
けど、何か..さ。ある種のトラウマなんでしょうねー。緑川さんが、シーズン前に、というか、監督が帰国する前に聞いたじゃないですか。わたし的には達海さんが戻ってくるのをどう思っているのかって」

ああ、聞いたかもと思って頷いた。

「あの時、複雑な思いの中に、これがあったんですよね。約束を守ってくれたんですよ、達海さん」

「約束?」

村越の眉間のシワがより深く刻まれる。

は頷いた。

「達海さんが出て行くとき、達海さんに今度ETUがピンチのときに帰って助けてくれるかって聞いたんです。言葉で返事はもらえなかったけど、ほら、時々ないですか?自信に満ちた笑顔。任せとけって感じの。寧ろ『悪い顔』かもしれませんけど」

に言われて2人は考え、「ああ」と緑川は頷き、村越は忌々しそうに表情をゆがめた。

「何か、ね。本人はそのつもり全くなかったんでしょうけど、ビックリして」

の言葉に村越は恐る恐る口を開く。

「聞きたかないが、一応聞くぞ?まさか、と思うが...初恋再来とか..じゃ、ないよな?」

物凄くいやそうに聞く村越には笑った。

「いや、どうもわたしの中で達海さんは随分と美化されていたようで、今の達海さんには特に...寧ろムカつくところが多々あります」

の返事に村越は心からほっとしたようだ。

「まあ、つまりアレか。赤崎はプロサッカー選手だからアウトなんだ」

緑川が確認するとは申し訳なさそうに曖昧に頷いた。

蓋を開けてみたら単純明快。

だが、だからこそ難しいのだろう。赤崎は諦められるのだろうか...


その後、ボーダーラインを超えたが大暴れし、村越は多大な迷惑を被ったのだ。

しかし、その帰りに緑川が言う。

「赤崎もまだ希望はあるな」と。

「こいつ、はっきり拒否したと思うんですけど...」

を背負っている村越が言う。

「いーや。俺としてはいけると思う。ま、かなりの努力が必要だろうけどな。今みたいにひっそりじゃなくて積極的に行けば、あるかもしれないなと思ってるんだがなー」

面白そうに緑川が呟いた。

「ま、若さでそれはカバーできるんじゃないか?」

「ドリさん、適当だな」

呆れた口調で村越が返すと「他人事だしな」とすっきりした表情で緑川は返した。

まあ、確かにその通りだ。

これ以上自分達はと赤崎の間のことについては首を突っ込むことはない。ただ、自分達的にすっきりしたので、温かく見守ることに徹することが出来る。

くーすか寝ているの寝顔を眺める村越に「妹、取られるかもな」と緑川が茶々を入れ、それに対して村越は苦笑して「どうだろうな」と答えた。









桜風
10.8.7


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