アイコトバ 13





赤崎に五輪予選のための代表招集がかかった。

近年そういったニュースから遠ざかっていたETUのフロント陣の間ではちょっとした騒ぎだ。

練習を切り上げてその招集に応じる赤崎に皆はそれぞれの激励を送り、それを赤崎もしっかり受け止めてロッカールームに向かう。

「そういや...」とふと思い出してちょっと寄り道をした。

広報部を覗いてみたが、誰も居ない。

「赤崎、早く準備しないと」と彼を見つけた後藤に声を掛けられた。

「あ..ウス」

返事をしてそのまま慌ててロッカールームに向かった。

今日はに会っていない。


毎日せめて1回は彼女の顔を見るが、今日は全く見なかった。

荷物を持って玄関に向かう途中、有里と遭遇する。

「赤崎君、頑張ってね!!」

両拳をグッと握って応援する有里に「ウス」と返した赤崎が「あの」と何かを言いかけてやめた。

さん、今日親戚に不幸があってお休みなのよ」

彼の聞きたいことなんてお見通しだ。

対して、お見通しされた彼は少し気まずく「そうスか」と素っ気無く返して「じゃあ、」とクラブハウスを出て行った。


家で荷造りをしていると知らない番号から携帯に電話がかかった。

出るのを止めようかと考えた。

自分がプロサッカー選手になって以来、知らない友達や親戚が増えてそういった輩からの電話とかが一時期うんざりするほどかかってきていたのだ。

しかし、今回は何となく出た。

代表に招集されたことで少し浮かれていたからかもしれない。

「はい」と出ると『赤崎くん?』という声があまりにも近くて思わず携帯を手放してしまった。

バッグに数回当たって携帯が床に落ちる。

慌てて取り上げて「すんません」と返すと『大丈夫?こけた?怪我してない??!』と思った以上に向こう..が慌てていたので、「手が滑って携帯が落ちただけっス」と結構冷静に返せた。

「どうしたんスか?」

あ、ちょっと素っ気無かったかもと慌てたが

『代表招集がかかったって聞いたから。さっき有里ちゃんからメールもらったの。赤崎くんの番号は後藤さんを口説いて教えてもらったんだって。ごめんね、突然電話して』

と笑いながらが返した。

有里に感謝しつつ「今、大丈夫だったんスか?」と返してみた。親戚の不幸と言っていたから通夜か葬式なのではなかろうか。

『あー、うん。まあ、親戚に囲まれるのから逃げるいい口実になってるし。頑張ってね。結果が残せたらオリンピック本番の代表入りもあるだろうし』

の声がいつもよりも弾んでいるのは気のせいじゃない。というか、気のせいではないと良いなーと思いながら「分かってます」と返した。

『あ、ごめん。準備の最中だったんでしょ?急ぐことなのに』

と言われてああ、電話を切られるんだと思うとやっぱり少し寂しくなる。

『じゃあね。現地に応援には行けないけど、テレビの前で赤崎くんが出てくるのスタンバって待ってるから』

の言葉に「ウス」と赤崎は返事をすると、電話が切れた。

ツーツーという電子音を数秒聞く。

また掛かってこないかなーと思ったが、よくよく考えたらこの番号は紛れもなくの番号だ。

慌ててその番号を登録し、作業を終了して何だか悲しくなった。

何だ、このちっさい喜びは...というか、ちょっとストーカーってか軽く変態か?!

そんな感じに自分に突っ込みを入れてはいたが、やっぱり嬉しいのだから仕方ない。

監督にも言われた。何か得て帰って来い、と。

「だよな」と呟き、荷造りの続きを始めた。

五輪予選の招集に応じて挑んだは良いが、何も結果を残さずさらに得るものがなかったらただの役立たずだ。

「...しゃ!」

赤崎は小さく気合を入れて部屋を出た。









桜風
10.8.7


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