アイコトバ 17





ふと、は朝の起き抜けに思ったことがあった。

職場に着いてすぐに有里を探す。

監督を叱り飛ばす有里を見つけるのは結構楽だ。

「おはようございます」と声をかけると「おー」と気のない返事の達海に対して「おはようございます!」と有里はきびきびと返し、そのまま達海をグランドに追い立てる。

午前の練習が終わった昼休憩に、広報部に戻ってきた有里にが声をかけた。

「ねえ、パッカくんTシャツってどうかな?グッズのことなんだけど」

現在もユニホームのレプリカは販売している。

だが、パッカくんTシャツはないのだ。

「Tシャツ?例えばどんなデザイン?」

言われては少し唸った後、その場にあった紙に適当にTシャツの形を描く。

それを見た有里は「さんって...」と何かを言いかけて言葉を飲んだ。

「なに?」

「ううん、続き、どうぞ」

危うく、「さんって語学以外は結構苦手なものが意外と多いよね」と言いかけたのだ。

此処で言うことは即ち

「うっわー下手くそ」

という...ってあれ?!

有里は顔を上げた。

の手元を達海が覗き込んでそう評したのだ。

「何ですって?!」

が達海を見上げる。

「そっちの方がヘタでしょう!この間のカレーパーティのときのチラシ見せてもらったけど、あれがパッカくんってどうなの?!」

「んなことねぇ!俺のほうが今描いてるのパッカくんより上手いって!!」

有里がの手元を覗き込んで絶句した。

まずい、これ、どっちが上手いか聞かれたら正直には答えられない。

そう思って逃げる準備をしていたら達海が別の紙に渾身のパッカくんを書いた。

「有里、どっちが上手い。俺だろう?」

「何言ってんですか。そのパッカくんらしき妖怪は、要は柿みたいなのに目を描いて口にはアーモンドが刺さってるだけでしょう?!」

「んだとー!!」

ああ、どうしよう。だれてもいいから助けて...!

有里が頭を抱えていると「よーし、じゃあ皆に決めてもらおう!」と達海が言い「望むところよ!」とがその挑発に乗った。

「...どうやって?」

既に疲労困ぱいの有里がうな垂れたまま問いかけた。

「そりゃ、連絡用のホワイトボードに貼って、投票してもらうんだよ。いらない紙切れくっつけて、上手い方の記号とか番号とかを書いてもらって傍に置いとく袋とかに入れてもらう」

「オーケー、それで行きましょう!」

「じゃあ、有里ちゃん」

「掲示してきてくれ」

「へ?!なんで??」

何でこういうところで気が合うんだ。普段、性格の違いから気が合わないことのほうが多いのに...

「わたしや達海さんがつけたらどっちかに関連性があるとかそういうのを深読みするかもしれないでしょう?監督権限で選手達を脅したり?」

「そんなことするか!んなことしなくても、俺の勝ちだからなー」

お互い少しにらみ合い、そして、有里を見る。

「だから、公正に有里ちゃんにお願いしたいの。投票用紙、ちょっと待ってね」

「封筒、何処にあるんだよ」

行動力はあるんだ、この2人。

だから、こんなくだらないことでもとっとと準備を始めてしまう。

「有里ちゃん、よろしく」

「有里が記号書いてくれよ」

そう言った2人はヘンテコ妖怪の書かれた紙が2枚と投票用の裏紙を小さくカットしたものとボールペンを有里に渡してさっさと自分の仕事に戻っていった。


肩を落とした有里は言われたとおりにホワイトボードにヘンテコ妖怪を貼り付ける。

Aがで、Bが達海。

『本日18時締切り。投票してね』と書いていると「あれ?有里じゃん」と声を掛けられて振り返る。

「あ、丹波さん...」

「疲れてるなー。大丈夫か?」と優しく声を掛けられて思わずほろりとなる。

先輩と、監督ってある意味上司になるのだろうか?良く分からないがその2人のくだらない諍いに巻き込まれた自分にはその日常会話すらほろりと来る。

「え、何これ...」

「おー!どしたんスか..って何だ?!これがパッカ?!俺たちをナメてんのか??!」

「...画伯2人が描いたものです。ご覧の通りなので、どちらが上手いかを皆さんの意見で決めるってことになったんです。ご協力よろしくお願いします」

ペコリと頭を下げて憔悴しきった表情の有里はふらふらしながら広報部へと戻っていった。


締切りの18時を迎え、有里が投票袋を回収した。

広報部にはと達海が開票を固唾を呑んで待っている。

「絶対に俺だ」

「はっ!まあ、せいぜい今のうちにいきがっててくださいよ」


そんな言い合いをしていた5分後...


「有里さーん、どうなったスか?!」

気になったらしい世良が広報部に顔を出した。

「って、あれ?!さん??」

選手達、気になっていた者皆が広報部に顔を出してきた。

その彼らが見たのは、四つんばいになって打ちひしがれていると高笑いをしている達海の姿だった。

「だーはっはっは!、ヘ タ ク ソ」

「何故だ...あのアーモンドが刺さった柿に目を描いただけのへんてこ妖怪に何故、わたしのパッカくんが...」

その様子を見て察したベテラン組はそっとその場を去った。

「しかも、俺の圧勝。ああ、さん?才能皆無デスネー!!」

「えーと、あれって監督とさんの?」

有里に問うのは清川で、頷きにくそうに有里は頷いた。

「あ、あの..さん」

どう言って良いやら...

自分達も投票したが、あの絵がこの2人の対決になっているとは露知らず。

というか、がそんなくだらないことに乗るとは思えなかった。

暫く打ちひしがれてわなわな震えていただが、突然すっくと立ち上がる。

「実家に帰らせていただきます!」

「え?!」

思わず声を漏らしたのは赤崎で、皆は心の中で「お前が慌てるな」とツッコミを入れる。

「ま、せいぜい修行を積んでくれたまえ」

追い討ちをかけるように達海がいい、「お先!」とバッグを乱暴に掴んでは選手達を押し退けて広報部を出て行った。

「あのー..で、何でパッカくん対決になったんスか?」

椿の言葉で最初の問題が今やっと出てきた。

椿の問いに「あ...」と呟いたのは有里で、の提案を最後まで聞いていなかった自分に今気がつく。

「えーと...明日聞いてみる」

有里の言葉に皆は思わず脱力した。









桜風
10.8.28


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