| 練習が終わってロッカールームで着替えようとしているところに派手な音がしたので廊下を覗いてみる。 廊下の曲がったところから脚立の脚が見えた。 ああ、誰か脚立を倒したのか... 納得したが、何となく気が向いて行ってみたら倒れた脚立の傍に蹲っていたのがで赤崎は慌てた。 「ちょ、さん!大丈夫スか?!」 声を掛けられては驚いた表情を見せて「ああ、大丈夫大丈夫」と笑顔を作った。 そう、彼女は笑顔を『作った』のだ。 先ほどまで村越並みに深い皺を眉間に刻んでいたその表情を変えたのだ。 「どっか、捻った?」 「ううん、大丈夫だから。ほら、シャワー浴びて早く服を着ないと」 思い切り追い返そうとしているに何だか無性に腹がたった。 赤崎が手を伸ばしたのを見て「良いから、大丈夫だから」とさらに大丈夫をアピールする。 それを無視してを抱きかかえて立ち上がった。 「ちょ、体痛めるかもしれないから!降ろして!!」 なら必ずそう言うと思った。 「良いから黙ってろ!!」 赤崎が声を上げたことに驚いては目を丸くしたまま固まり、その声にチームメイトも様子を見に来た。 彼らはを抱えて医務室に向かっていく赤崎の背を見て何となくあの2人のやり取りを察した。 「さんだったんだ、さっきの音」 そう呟いて清川が天井を見上げた。 電球が嵌っていない。 少し離れたところに電球が2つ転がっている。 「バランス崩したんだろうなー」 そう言って石神が脚立を廊下の端に寄せて電球を拾う。 どっちが新しいものが分からないし、落としたのからいっそのこと新しいものに交換した方が良いだろう。 「ついでに、後藤さん探すわ」 そう言って石神は事務室に向かった。 医務室にを運び終えた赤崎は戻ろうとせずにそのまま医務室に留まった。 「あー、これは病院に行って検査したほうが良いかもよ。ちょっと骨に異常がありそう」 は顔をゆがめた。 触診されているのだが、それが物凄く痛いようだ。それでも、「大丈夫」と言い張っていた手前悲鳴は堪えているといったところか... 「誰かに車を出してもらいなさい。それがダメならタクシーね」 「オレが」と赤崎が言ったがそれについては「ダメ!!」とが声を上げた。 「何でっスか」 不満顔の赤崎に 「赤崎くんが病院に足を運んだって話はいい話にならない。それが付き添いでも、やっぱり避けるべきよ」 とがその理由を言う。 「別に、ほんとにオレが怪我をしたわけじゃないんだからいいじゃないスか」 「ダメ!せっかく五輪予選の代表試合に招集されて注目されているんだからマイナスイメージに繋がるものは極力避けないと!」 の言葉に赤崎は腑に落ちない表情を浮かべていた。 「ちゃん」とドアが開いて入ってきたのは後藤だ。 「脚立から落ちたんだって?先生...」 本人に状態を聞かないのは彼女の性格を知ってか知らいでか... しかし、正しい。 「骨折の可能性がありますね。病院に行くように話をしたんですけど」 「あー、タクシー呼びます」 「俺が連れて行きます」 の主張を却下して後藤が言う。 放っておいたら行かないような気がしたのだ。 の表情を見るとそのつもりだったようで、ちょっと不本意そうだ。 「歩ける?」 「はい!」とさわやかな笑顔を浮かべたに後藤は溜息を吐いて彼女を抱え上げた。 「此処へきても嘘を吐くのか...」 後藤の呟きには押し黙った。本当はめちゃくちゃ痛い。たぶん骨が折れているといわれたが、確実だと自分では思っている。そうじゃなかったら靭帯を伸ばしたとか。 とりあえず2〜3日では治らないと思う。 後藤に抱えられて医務室を出て行くを目で追い、赤崎は唇を噛んだ。 純粋に悔しかった。 後藤に抱えられたは簡単に観念した。彼が病院に同行するといっても反対をしない。 勿論、自分の立場を考えたらがそう言うのは分かるしそれが正しい。自分がプロサッカー選手ということに不満はない。 ただ、欲張りに我侭を言っているだけなのも良く分かっている。 「赤崎くん!」 ドアを出るところでが抱えられたまま後藤の肩越しに顔を出してきた。 「あの..さっきはありがとう」 の言葉に「ウス」と返して軽く会釈する。 「ほら、貴方も早く戻って着替えなさい」 ドクターに促されて医務室を後にする。 赤崎は深い溜息を吐き、ロッカールームへと向かった。 |
桜風
10.8.28
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