アイコトバ 21





黒田が黒いTシャツ、赤崎が赤いTシャツとなった。

「あー、似合う似合う」

クツクツと笑いながら達海が同席した。面白そうだと思ったのだろうか...

「達海さん、オールスターの準備とかないんですか?」

が煩そうに言うと

「だって、オールスターって言っても俺はコーチなんだろう?平泉のオッサンが監督で。やることないって」

そう言う達海には肩を竦めて2人に向き直った。

「赤崎くん。悪いけど、黒田さんが先でいい?」

「ウス」

「先輩には敬意を持って譲れよー」

黒田が言うと赤崎は憮然とする。

「譲るって言ってる人になんでそういう風に言葉を重ねるんですかねぇ」とが呟く。

「じゃあ、黒田さん。『めちゃくちゃかっこいい俺』を表現してください」

「......は?!」

「おねがいしまーす」

とのコミュニケーションに慣れていない黒田はちょっとこう見えて緊張しているのだ。

「あれ?それが黒田さんの『めちゃくちゃかっこいい俺』ですか?そんなもんですかー?」

ファインダーを覗きながらが言う。

「や、は?えっと...」

かっこいいって何だっけ?

改めて求められてちょっと困惑していたが「あ、でも顔を重点的に撮るんじゃなくてパッカくんTシャツがメインなんで。やっぱり自然に立っててください」とに言われて「何だよ!」と毒づく。

「そういや、。お前、いつからETUのサポなんだ?」

黒田がシャッターを切られながら声をかけてきた。

「ずっと昔です。というか、黒田さん。あまりわたしの過去を気にしないほうがいいですよー。教訓があるでしょう?」

にそういわれて黒田は黙りこくった。

昔、が自分とのコミュニケーションに応じたときに根掘り葉掘り聞こうと思ったらカウンターで自分が根掘り葉掘り話してしまった。

そんなトラウマから黒田はぴたりと口を閉ざす。

そのまま、黒田の撮影はつつがなく終了して黒田はさっさと帰っていった。


続いて赤崎の撮影を始める。

先ほどの黒田の撮影を見ていたので、赤崎は特に気負うことなくモデルを務めることができた。

そうは言っても、がじっと自分を見ているのは何とも背中がむずがゆいものだ。

「なあ、いつからー?」

不意に声を出したのは達海だ。

「早く帰ったらどうですかー?面白くないんでしょう?見てても暇なだけなんでしょう?」

「だーかーら、俺はいいの。オッサンが頑張るんだから。で、いつから?」

は盛大な溜息を吐いた。

「生まれる前から」

「は?!」

「どういうことスか?」

思わず赤崎が入り、ハタと口を真一文字に結んだ。

「懸命だわ」とが苦笑する。

「で、どういうこと?」

「母のお腹にいるときから。母がETUの熱狂的なサポーターでね。まあ、それが原因で離婚もしてるんだけど」

「え、そうなの?家を潰しそうになったの?」

達海が驚いたように声を漏らした。

「ではなく。父がヴィクトリーのファンだったんですよ。で、東京ダービーでETUが大勝した試合があるでしょう?そのとき、母があまりにも浮かれまくって、勢い余って父が離婚を申し出て母が受けて...はい、離婚成立。わたしはまだ乳飲み子だったから全然覚えてないんですけどね。姉が言うには『子供か!』って小学校に上がる前に思ったらしいです。まあ、物の弾みだったから特に憎み合っての離婚じゃないからそんなに不便ではなかったですね」

「へー、んじゃ今はおふくろさん独りで暮らしてんの?あ、姉ちゃんが居るか...」

「姉は海外で生活しています。母はわたしが物心つく前に再婚したので、今はその再婚相手と仲睦まじく暮らしていますよ。再婚相手は、ETUのファン..になったひとだからもう離婚はないでしょうけど...」

んちって、変な家族だなー」

「まあ、ねー。...後藤さんが入団して以降がいちばん大変でしたけど。母は後藤さんの大ファンで...」

そう言って構えたカメラを下ろして溜息を吐いた。

「後藤?アイツ途中で京都行ったじゃん」

「うん、だから京都に引っ越そうと家族に提案したわよ、あの人...結局引越しはしなかったけど、かなり追いかけてたわ。わかる?今でも家に帰ると若い後藤さんの写真があるんだよ?!山のように...母が後藤さんと2人で撮った写真もあるんだから。あー、帰りたくない」

「そりゃ、悪夢だな」と達海が苦笑した。

「最近、ETUで誰のプレー好き?って聞いたら『後藤GM』って真顔で言われたわよ。プレー??」

の言葉に達海は声を上げて笑った。赤崎も、悪いとは思ったが苦笑がこぼれる。

が再びカメラを構えた。

「んじゃ、おふくろさんはスタジアムに来てんだ?」

「いいえ、来てないみたいですよ。応援の様子が怖いそうです。ちょっとブーイングが多いですからね」

の言葉に達海は「ふーん」と気のない声を漏らした。

「まあ、スカルズは10年。ETUの暗黒時代とかって勝手に名づけられている10年を支えてきたっていう自負がありますからね。ちょっと違うかもしれないけど、村越さんと同じですよ」

「かもな」と言って改めてを見た。

「お前、あいつらと一緒に応援してたんだよな?」

「ええ。何か?」

「あんなふうに?」

「いいえ。わたしは好きに応援していました。ブーイングするの好きじゃないし」

の言葉に達海は首を傾げる。

「怒んないの?」

「どうして怒られるんですか?あのノリ、体育会系でしょう?体育会系ってセンパイの方が偉いんでしょう?」

がそう言ってやっと達海は納得したように手を叩いた。

少なくとも、自分がこのチームで選手をしていたときにはゴール裏の応援団の中にの姿はあった。ということは、は彼らの随分先輩ということだ。

赤崎の撮影もつつがなく終了した。

達海がたくさん話しかけてきたのでその分時間が掛かってしまったのは仕方のないことで、赤崎は特に気にしていない。

あまり自分のことを話さないが家族のことを話したので赤崎としては結構有意義な時間だったりする。

「あ、黒田さん帰っちゃったね...」

「クロに用があったの?」と達海が言う。

「どの写真が良いかって聞こうとおもったんですよ。結構シャッター切っちゃったし」とが返す。

「赤崎くん、時間大丈夫?」

「はい」と返すと「じゃあ、ちょっと事務室に付き合って」と言っては事務室に向かって歩き出す。

デジカメにコードを挿してテレビに接続した。

テレビ画面に写真が表示される。

「こんなことも出来んだ?」と興味津々に達海が言う。

「達海さんって妙にちぐはぐですよねー」

が言うとどういうことだろうと達海は首を傾げたが、特に興味がなかったらしくて寧ろ画面を見るほうが楽しいらしく考えるのを止めた。

「赤崎くん、世界中がこの写真を見るんだから、自分の気に入ったのを決めてね」

に言われてそれはそれで難しいなぁと思いながら「ウス」と返事をした。

最終的には「わたし、この赤崎くんの表情好き」とが言った写真が採用となった。

赤崎の耳には『の表情』が届いていたかどうかは分からないが、本人がそれが良いと言うのだからそれが採用だ。

「いやぁ、若さだねぇ」

と達海が呟いたが、これまた赤崎の耳に届いたかどうかは不明である。









桜風
10.9.4


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