| まさか本気だったとは... 合宿最終日の夜、は深い溜息を吐いた。 選手だって疲れているのではなかろうか。 「さん、大丈夫?」 「うん、まあ。大丈夫みたい」 苦笑して返すに有里は心配そうな表情を浮かべた。 この合宿中、は人一倍、いや、それ以上に働いた。 広報としての仕事に奔走したり、他のスタッフの手伝いをしたりその上、夕方2時間はみっちりひたすらボールを蹴っていたのだ。本当に働き通しだった。 は有里と同じくワーカーホリックなところがあるが、それにしたって働きすぎだと思う。 幸いなことに、と言って良いのか。 後藤と笠野は間違いなくの体調を心配しているし、注意してみてくれているようなので、何かあったら対応してくれるだろう。 こういうとき、自分は気配りが足りない気がして有里は少し落ち込む。 「うわー、何。本気でやる気?」 遠い目をしてが言う。 選手達はが表現したとおり、本気でやる気のようだ。 夜はレクリエーションを行うと達海が今朝、高らかに宣言した。 内容は肝試し。 と言っても誰かが驚かせるのではなく、くらーい道を歩いていくだけのことだ。 驚かせてその勢いで怪我をさせたら本当に目も当てられないのでそういうルールになった。 そして、ヤロー同士で暗闇の中を体を寄せて肝試しをしても何も面白くないだろうということで、2人限定となった。 もちろん、パートナーはか有里となる。 くじを作って、そのくじの先に彼女達の名前がそれぞれ書いてあるらしい。 他の選手は、そのままバーベキューなどをするとか。 肉を取るか、肝試しを取るかと言ったことになるらしい。 「わたしの肉は?」 が真顔で聞いた。 「お前、太るぞ」と達海が真顔で返す。 「今度、肉奢ってくださいね」 「今度なー」と返す達海に「奢る気ないな...」との眉間に皺が寄る。 「後藤さん。大人気ないですよ」 が笑いながら言う。 「まさか当たるとは思ってなかったからなー」 と後藤は応じる。 有里とのペアになったのは後藤で、は椿とペアになった。 「椿くんがこういうのに名乗りを上げるとは思ってなかった」 「後藤さんと同じだったんスけど...」 まさか当たるとは思っていなかったと言うことらしい。 どうでも良いが、だったらエントリーしなかったら良いのに... はそう思ったが、本当にどうでもいいことなので、特に言わなかった。 「コースは2つな」という達海に、「無駄に凝るのやめてくれません?」とが言うが「よーし、んじゃ頑張れ」との文句を黙殺して肝試しの開会が宣言された。 場所は夢の島内だ。だから、街灯もある。 しかし、何となく薄暗い道はそれなりに緊張することは緊張する。 肝試しと言うか、夜のオリエンテーリングということになっており、指定されたポイントで達海画伯のパッカくんを回収していくのが今回の道程だ。 全部で5つあるとか。 「さん、大丈夫スか?」 「んー?」 少し..かなり緊張した声で椿が問う。 「うん、まあ。街灯がある上に懐中電灯あるし。椿くんは?」 「俺は、元々田舎出身スから。暗い道には慣れてます」 「それは心強いね」 が笑いながら言うと「っス」と椿が返す。 「サッカー、いつからしてたん..でスか?」 今回、合宿では大活躍だった。 「んー、小4から小6までの3年間でやめたよ。あとは専らサポーター」 そんな風に椿と会話をしながら社に行き、ヘンテコ妖怪のイラストの証明書を回収しながら歩いていく。 会話はかなり途切れたが、それでも椿が一生懸命会話を続けようとしてくれたし、もその一生懸命を汲んで話を振ったりしていたので、ここまで会話が続いた。 いつも自分の事を聞かれたらカウンターをお見舞いしていただったが、椿は興味本位ではなく、間が空かないように気を配った結果のそれだからどうにもカウンターをお見舞いし辛いのが本音だったりする。 「さんって...」 また途切れた話題の代わりを探して椿が質問を口にしようとした。 が後ろをそっと振り返る。さっきからずっと自分達と同じペースで歩いている人が居るのだ。それこそ、道から外れたところに置いてあるパッカ君を回収するときもその足音は近くにあった。 「椿くん」とが名を呼ぶ。 「はい」と椿は緊張した面持ちで返事をした。 「走って!」 そう言って皆の待つ方角を指差し、その瞬間椿は反射的に駆け出していた。 ぐんぐんと豆粒のように小さくなっていく椿を眺め、「いやぁ、懐中電灯は置いてってほしかったわ...」とはのんびりと呟いた。 |
桜風
10.9.11
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