| 合宿から帰っては一度もクラブハウスに足を踏み入れていない。 禁止されてしまった。 そうでもないと休まないだろうから、というのが理由らしいし、それは間違いないと自分でも思う。 思うのだが、理不尽だ。 有里だってたくさん働いている。他の人だって、自分の仕事を忙しくしているのだ。 勿論、サボっている人も居るが... 溜息を吐きながら家の中を片付けていると携帯が鳴った。 クラブからで、何事かと慌てて出てみるとこれまた思いも拠らない人からだった。 「どうしたんですか?」 『明日、暇?』 「お陰さまで」 が返すと彼は笑う。 『何だよ、デートする相手すら居ないのかよ』 「うるさいです。で?明日は何があるんですか?」 『ブランとデート。一緒に来てくれる?』 そういえば、確かどこかの雑誌の企画でこの中断期間中に日本代表監督と全チームの監督がそれぞれ対談をするとかそう言うのがあったと思う。 そうか、明日だったか... しかし、は彼の言葉に困惑した。 「英語なんて楽勝ですよね、達海さん。不安があるなら有里ちゃんでも大丈夫でしょう。ブラン監督もイングランドで監督生活を送っておられたから英会話できるでしょうし。あ、フランス語か。それにしても通訳の方もいらっしゃいますよね?」 こういった対外的なものは有里が同行するのが広報部の暗黙のルールだ。 『まあ、フランス語での話になるだろうけど。俺の言葉で会話がしたい。だから、有里じゃムリだ。時間はぁ...』 の意見など聞く耳を持たずに電話の向こうの彼、達海猛は話を続けた。 『んじゃ、よろしく。久しぶりの仕事だから張り切ってくれよ』 そう言って電話を切る。 通話の終了を告げる電子音を聞きながらは首を傾げた。 その数時間後、これまた電話が鳴る。 基本的に電話が鳴るようなことがない生活をしているので珍しいなぁと思いつつ出てみた。 『さん。今日の夜、時間ありますか?』 今度は有里からだ。 「あるよ。お陰さまで」 『じゃあ、ちょっと待ってください』 そう言って電話の向こうで声がする。これは、世良? 『さん、チーッス』 「世良くん。どうしたの?」 『この間、話したじゃないスか。若手でメシ食いに行きましょうって。さん、確実に夜捕まるなら今日どうかな、って。明日俺らオフだし』 まだ中断期間ではあるが、大丈夫なのだろうか... 「大丈夫なの?」と確認のために聞くと『大丈夫っス!俺たちだってプロだからそれくらいちゃんと考えています!!』と返された。 たびたび堺にプロの自覚について説かれている世良の発言とは思えない。 まあ、他にも『若手』が来るんだろうし、その彼らもちゃんと考えているだろうから世良の暴走だけで話が進むとは思えない。 「時間は?」 『調整して有里さんからメールしてもらいます』 「わかった。じゃあ、それ待ってるね」 そう言っては電話を切る。 夕方、有里からメールのあった待ち合わせ場所に着くと自分が一番乗りのようだった。 選手達の練習は今日は午前中だけだったはずだから、一旦家に帰ってからとなるのだろう。 有里は仕事だから..ちゃんと仕事切り上げられるのかな? そんなことを考えていたらぽんと肩を叩かれて振り返る。 「お疲れ様」と挨拶をすれば「ウス」と小さく会釈をして返された。 「早いスね」と言われた。 「暇だったんだもん。普段、自分の時間を作らないからどうしていいかわかんなかったわ」 苦笑しながらそう言うに同じく赤崎は苦笑した。 「スカート、っスね」 珍しいものを見たという表情で赤崎が言う。実際、珍しい方だとは思う。 「まあ、たまには『女の子』しておかないと」というに赤崎は複雑な表情を浮かべた。 「そいえば、赤崎くんはお酒飲めたよね?」 「今日は飲まないスけど」 「そうなんだ?」とが意外そうに言うと「リーグが終わるまで飲まないように決めてるんス」と返された。 「我慢は良くないよ?」 「どうしても飲みたいっていうほど好きでもないし。それよか、さん。体、もう大丈夫なんスか?」 「元々そう大変でもなかったんだけど...ちゃんとマッサージもしてもらえてたみたいだし」 「けど、働き過ぎっスよ。人のことばっか心配して...」 「ちわー!」 赤崎と会話をしていると世良が元気よくやってきた。 その後、続々と皆が集まり、時間内に有里も駆けて来た。 |
桜風
10.9.25
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