| 店に向かいながら有里が声をかけてくる。 「さん、明日の打ち合わせ。ちょっとだけさせて」 「明日?達海さんの?」 清川が振り返る。 「明日?オフっスよね?」 「そうよ。達海さんがちょっと取材入っててね」と有里が返すと「フロントは休みになんないんスね」と清川は呟いてそのまま何事もなかったかのようにまた歩きだす。 今日、世良が言ったところの『若手』は世良、赤崎、椿、清川だった。他にも声をかけたのだが、既に用事が入っていたとか。 まあ、人数が多いと今度は店を選ぶのとか色々と面倒になるからこれくらいの人数が丁度良いのではないかと思う。 「それで。打ち合わせ?」 「たいしたことじゃなくて、いつもどういう風にしていたかっていう引継ぎみたいなもの」 そう言って有里が説明をする。 ただ、言葉の端々に有里の感情が入っていてはちょっと困った。 店に入るまでに引継ぎは終了した。 まあ、引継ぎと言うよりも普段どういった態度で達海がインタビューに応じているかという話だけではあった。 「私はぁ..生まれたときからETUのために生きていくことを決めていたのぉ〜!」 「有里ちゃんは絡み酒かぁ...」 有里の正面に座っているはウーロン茶を飲みながらそう呟いた。 自分はある意味前科持ちなので、飲まないように決めていた。他の人が酔うのを見るのは楽しいものだが、見てるだけではなく、絡まれている椿は災難だ。 災難だが、選手達はどこか羨ましげな眼差しを向けている。 有里の絡み方は椿に寄りかかり、殆どハグをしながらの絡み酒となっている。 「椿くん、役得ね」 「えぇえーーー?!」 すでにパニックでどう反応していいかという椿にが声をかけた。 「何で俺じゃないんだ?!」と清川が首を傾げている。有里は椿と清川の間に座っている。ちなみに、は世良と赤崎の間だ。 「清川くん、絡まれたい?」 「いや、絡まれたいとは思わないんスけど...」 ちょっと羨ましいとは思う。 「...ETUに対して悲観的なことを言ったらターゲットにしてもらえると思うよ」 が言うが「それは、ムリっス」と返されては微笑む。 「有里さん、荒れてますね」 世良がそっと声をかけてた。 「明日の、達海さんの同行がわたしになったからね」 が言うと「え?!」と皆が声を上げた。 そういう、外での仕事は大抵有里が窓口になるから、珍しいのだ。 「なんで?」 「フランス語がほしいそうよ。相手は英語を話せるし、基本的に通訳の方もいらっしゃるんだから有里ちゃんでも充分なんだろうけど...」 そう言ってちらりと有里を見た。 「さん!」 ダン!とテーブルを叩いて立ち上がる。 いやはや。個室で本当に良かったなぁ... は苦笑して「はい」と返す。 「私、さんに負けません!!」 「はいはい、受けて立ちますよー。まずは、何語から勉強するのかな?」 挑発するようにが言う。選手達はハラハラとその様子を見守っていた。 「ふ..フランス語」 少し怯んでそういった。 「ま、良いけど?分からないところがあったら聞いてごらん。普段の会話がフランス語が良いならそれで対応するし」 の答えに有里はグッと詰まった。 「監督、選手以外にも競争させるつもりなんスかね」 赤崎が呟く。 「でしょうね。達海さんのあれって期待の表れだからね。達海さんは、期待してないとすっぱり切り捨てるタイプだと思うよ」 が言うと皆の表情が変わる。 あれ?違ったかな?? 「まあ、達海さんって確実に出来もしないことを求める人じゃないと思うから。そんな奇跡に期待するよりも確率の高い現実から色々手を尽くすタイプだろうし。 有里ちゃんにも期待してるんだよ、きっと」 そう言って有里を見ると警戒している猫のような目をしている。 「ここまで敵意むき出しにあされると..可愛いよね」 ニコニコと笑いながらが言う。 そうかなー?ちょっと怖くないかなと選手達は首を傾げた。 「有里ちゃん、おいで」とが手を伸ばすと有里は椿を押し退け、ついでにの隣に座っている赤崎を押し退けてそこに座ってにぴたりとくっつく。 「ETUは優勝、するんです」 ポツリと呟く。 「うん、するんじゃない?するといいねぇ...リーグ戦?カップ戦?」 「全部!」 勢いよく答えた有里の言葉には苦笑して選手達を見た。 「だ、そうよ?」 クスクスと笑いながらが言う。 「が..頑張ります!!」 緊張した面持ちでそう返す選手達には笑って、「有里ちゃん。大いに期待してくださいだって」と意訳した。 「さん。翻訳家になれるん..ですよね?」 「うん。今のは完璧な訳でしょう?」 選手達は何も言い返せずに溜息を吐いた。 「永田さん、どうするんですか?」 椿が問う。 「うちにつれて帰る。会長もこんな娘を相手にするの大変だろうし。というか、そろそろ連れて帰った方が良さそうだから、帰りたいんだけど。お金は今度でも大丈夫?」 幹事であろう世良に問うと「あ、いいっスよ。俺らで割るんで」と返されては半眼になる。 「なら、今度から参加しない」 「じゃあ、割ってあとで請求します」 清川が返すとは満足したように頷き、「じゃあ、お先」と言って有里を支えながら彼女のバッグも持ってそこを後にした。 「優勝、だって...」 先ほどまで有里が独り大騒ぎしていたからかなり静かになった空間で世良が呆然と呟いた。 |
桜風
10.10.2
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