アイコトバ 31





「おっす!」

あの合宿以来、が休んでいることを選手皆が知っている。そして、今日復帰することも。

強制的に休ませたと聞いているのだ。

練習に来た黒田が声をかけると「おはようございます」という言葉が返ってきた。

黒田は足を止める。

「?どうした?」

少し遅れてやってきた杉江が廊下の真ん中で固まったままの黒田に声をかけた。

「いや、何でもねぇ...」

自分の聞き間違いだと黒田は思い込むことにした。

そう。毎日「よお」とか声をかけたら「Hello」って返ってくるのだ。だから、それが脳内で翻訳されたのだ。きっとそうだ。

もう慣れたもんなぁ...

うんうんと一頻り頷く黒田を杉江は怪訝な表情で見下ろしていた。


練習着に着替えてグランドに向かう途中にを見つけた。

「久しぶりだな、ちゃん」

杉江が声をかけると「お久しぶりです」とが返す。

「な?!」

驚いたのは杉江ではなく、黒田だ。

いや、杉江も驚いたのだが、黒田が自分以上に驚いたものだから驚きそこなったと言うのが正直なところだ。

「英語..じゃないよ?」

杉江の言葉にが苦笑した。

「はっはー!さては、やっとこの俺たちの懐の深さを理解したか!!」

と黒田が高らかに言う。

が日本語で返す人物を見たら皆ベテランだ。だから、それの域に入ったということだと思ったのだろう。

『ベテラン=懐が深い』というのが黒田の理屈らしい。

「おう、ちゃん。疲れは取れたか?」

「だから、わたし皆さんが思っているほど疲れていません」

緑川が声をかけてきてが答える。

やはりそうだ。自分はあのベテランの域に達したと理解されたのだろう。うんうん。俺は包容力のある大人だ。

クロの考えって何でこうもダダ漏れになるんだろう...

目の前の黒田の考えが手に見て取れる杉江は更に反応に困っていた。

「お?さん。お久しぶりーっス」

宮野が声をかけてきた。

「久しぶり」

ピシリと音がした。間違いない。

杉江は静かにその場から距離をとり、見守ってみることにした。

、ちょっと待て」

「はい」

「なぁんで、宮野も日本語なんだ?」

日本語で返された宮野も驚きの表情を浮かべている。

「監督命令です」

あっさりと返されて黒田は開いた口が塞がらない。

「はあ?!」

「だから、監督が、英語禁止令を出したから。英語禁止令と言うか、外国語禁止令?ジーノとガブリエルはいいけど、って」

「ちわーす!どうしたんスか?」

世良が問う。

「まあ、そういうことなので」

はそう言ってその場を去っていった。

「どうしたんスか?」

世良は緑川に聞いてみた。

ちゃんが日本語解禁になったらしぞ?」

苦笑しながら答える。

「日本語、解禁?」

「クラブの中では基本的に外国語禁止になったんだってさ」

杉江の言葉に世良は目を輝かせる。

「じゃあ、日本語の返事が来るんスか?!」

「さっきそうだった。宮野も、な?」

「はい」

未だに呆然としている宮野に苦笑して杉江は「クロ」と黒田を促した。


「大騒ぎになってますよ」

練習が終わっての姿を探していた赤崎が声をかけてきた。

「何が?またスカルズと喧嘩してるの?」

「じゃ、なくて。さんの日本語」

そう指摘されては肩を竦めた。

「まるで珍獣ね」

「オレも、ビックリしてるんスけど...」

赤崎が言うと「そうなの?」とは目を丸くする。

「合宿以降こっちに来てなかったからもう慣れてたかと思ったけど...」とは思案した。

「ま、英語が恋しくなったらまたいつでも言って。言語切り替えますから」

笑いながら言うに「気兼ねなく話ができる方がいいっス」と赤崎は苦笑した返した。

「あ、そういえば。この間のいくらだった?」

「ああ、世良さんがまとめてましたから...聞いてきますよ」

「いいよ。世良くん、探してみる」

そう言って歩き出そうとするの腕を掴んで「オレが、聞いてきます」と赤崎が止める。

不思議に思っただが、「じゃあ、お願いした方がいいのかな?」と言って自分は広報部に帰ることを告げてその場を去った。

我ながらみっともない独占欲だな...

世良と話をしてほしくないと思ったから思わず止めてしまった。世良は随分とに懐いているから、もそれなりに可愛がってるしそれが何とも違和感がないのだ。

「えーと。何処にいるんだろう...」

とりあえず、シャワールームか?

彼は賑やかだから近くにいたら声が聞こえてくるだろう...

そんなアバウトな感じに赤崎は世良を探し始めた。









桜風
10.10.2


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