アイコトバ 32





達海が物凄く面倒くさそうな表情を浮かべながらこちらに向かって来るのを目にして村越は眉間に皺を寄せた。

ただ歩くだけなのに何でそんなに面倒くさそうなんだ?

そう思ったが、達海の後ろに居た人物が目に入って余計に眉間に皺が寄る。

が居るのだ。しかも、達海のシャツの裾を掴んでいる。

何だ?どういうことだ??

「何してんるんスか?」

どう考えてもが喜んでこんなことをするはずがない。だったら、また達海の悪巧みにつき合わされているのだろう。

「...村越さん?」

眉間に皺を寄せて目を細めたが疑問系で声を出す。

「どうした?」

「さっき、監督とぶつかった拍子にコンタクトが落ちてしまって...で、広報部に戻ればメガネがあるからそれで良いんですけど、戻るまでが色々と危険なので、責任を取ってもらっているんです」

「てかさー、あれって俺が悪いの?」

達海が言う。

「悪いんです。達海さんが9割悪いんです」

「んじゃ1割は?」

「...運?」

首を傾げてが言う。

「なんだよー」と達海が抗議する。

「そんなに見えないのか?」

不思議に思って村越が言う。

が手招きをするので、腰を折って視線を合わせてみた。

ずい、とが近付き、「ここら辺まで近づけばちゃんと見えます」と言う。

殆どすれすれじゃないか...

さん?」

名前を呼ばれて振り返る。

あ、まずい。似た体格の人が2人並んでいる...

さっきの声は、たぶん赤崎だが、どっちがどっちだか分からない。

「どうかしたんスか?」

どっちが声を出したか分からないので、どっちがどっちなのかは判明しなかったが、どうやら赤崎と椿が立っているようだ。

赤崎たちは遠くから見たら村越とがキスしているようにも見えて驚いたが、それと同時にのっぴきならない何かがあるに違いないと判断して声をかけた。傍に達海もいるし。

そうじゃなかったら、一応気を使う。

「わかるか?」

村越がに問う。

「赤崎くんと椿くんというのは声を出してくれたから分かるんですけど、どっちだか判別できない。体格似てるから...」

あごに手を当ててが呟く。

「あ、」とが声を漏らしたときには既に達海が逃げ出していた。

「逃げるなー!」

「俺じゃなくても良いだろう。仲良しの村越とか、赤崎も椿も来たんだし」

そういいながら遠ざかる達海に「責任取れー」とが声をかけるが、達海が足を止めるはずがなく、すたこらとトンズラしていった。

「あ、あの...」

全く状況が飲み込めないと言うか、推測すらも出来ない。

村越は先ほどに聞いた話を口にして、「赤崎、広報部へ連れて行ってやれ」と指名した。

「ウス」と返事をした赤崎が一歩前に出たので、そこでやっとから向かって右側が赤崎だと言うことがわかった。


「ごめんね、赤崎くん」

が言うと「いや、別に」と赤崎が返した。

「でも、さん。そんなに目が悪かったんスね」

と驚きをにじませた声で言う。

「うん、悪いよ。だって、今赤崎くんの輪郭がぼやけてるもん。顔のパーツが分かんない」

「こんなに近くで?」

先ほどの達海と同様には赤崎のシャツの裾を握って歩いている。手を繋いでもいいのだが、と赤崎は思ったが提案できなかったのだ。意外とヘタレである。

「うん。さっきも村越さんに聞かれたから見えるところまで近付いたんだけど。これくらい近付いたら顔のパーツもばっちり」

そう言って赤崎の隣に並んで背伸びをしながら顔を近づける。

「ちょ..!」

赤崎は慌てて顔を逸らした。近い...

「まあ、そんな感じで。あ、ごめん、気に障った?」

「いえ、別に」

気に障ってはないが、色々と困る。

俯いて無言になった赤崎にはちょっと困りながら静かに彼のエスコートに従った。


広報部に戻り、デスクの引き出しの中からメガネケースを取り出す。

さんって、メガネかけたら印象が全然違いますね。知的な感じになる」

赤崎が素直に感想を述べた。

「...それは、普段のわたしはそんなにのほほんとした、よっぽど気の抜けた表情で歩いているってことなのかしら?」

そう指摘された赤崎は「い、いや。そうじゃなくて...!」といつもは中々見せることのない狼狽っぷりを披露し、それを見たは満足そうに笑った。









桜風
10.10.9


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