アイコトバ 36





「そういえば、さんって身長何センチ?」

不意に有里が聞く。

「えーと、160くらいだったと思うけど。最近測ってないし。どうかした?」

有里を見れば何だか納得いかない表情を浮かべている。

「だって、さん。小学生のときは私のほうが背が高かったよね?」

言われて記憶を辿る。

「だいたい同じだったじゃないの?」

「それって3歳の差で、でしょ?」

まあ、つまりは有里の年齢のときにがどうだったかと言うことのようだ。

「だったら、まあ。うん。ちびっ子だったね」

が頷くと有里は得意そうに「そうでしょう?」と言う。

「それで?」

「あ、うん。あのね、恋人とかで身長差は15センチくらいが丁度良いっていわれてるの知ってる?」

「興味ないから知らなかったけど。ふーん、そうなんだ...」

本当に興味なさそうにが言う。

さん、いつ背が伸びた?」

まだ続くのか、と思いながらは「高校から大学卒業まで」とこたえた。

「ハタチすぎても背が伸びたの?」

興味津々の有里に「幸いにも」とが返す。

「えー!いいなー、いいなー」とのシャツの裾を掴んで有里が訴える。

そんなことを言われても、家系とか遺伝子とかに言ってもらいたい。勿論、有里の。

「いつも仲が良いな」

声をかけられて振り返る。

「いや、杉江さんに言われたくないです」

は苦笑して声をかけてきた杉江に応えた。隣には勿論、黒田だ。

「そうか?」と苦笑する杉江に「そうです」とが返す。

「あ!黒田さん。こけしまたひとつ通販で売れました!」

有里が嬉しそうに報告するものだから、黒田は「そ、そうかよ」と照れ隠しに素っ気無く返す。

「この間、スタジアムで黒田さんを兄貴と慕うファンの人たちがひとり3つとか買って行ったらしいですけど...」

が言うと黒田はちょっと嫌そうな表情を浮かべた。

「あー!黒田さん。ファンは大切にしなきゃ!!」

有里が指差して指摘し、「有里ちゃん、人を指差さない」とに注意される。


「前に後藤さんから聞いたんだけど。2人は小さいときから此処に来てたんだって?」

スギ、気をつけろ。の過去は暴こうとするな!!

黒田が視線で訴えるが、この程度なら大丈夫だろうと杉江は踏んでいる。何より、有里が応えてくれるはずだ。

さんの昔の実家とウチが同じ小学校の学区だったんです。当時サッカー好きな女の子って少なかったからすぐに意気投合して..ね?」

有里に話を振られては苦笑して、

「元々母が熱狂的なETUサポーターだったので、記憶のないときからこのクラブハウスまで来ていたみたいですよ」

と続ける。

「あ!そうだ。黒田さん身長何センチでしたっけ?」

有里が問うと憮然として「170だよ」と応える。

「んー、じゃあ杉江さんは?」

「俺?182だけど、どうかしたのかい?」

杉江はを見た。は苦笑して肩を竦める。

「んー、175センチって誰かいたっけ?」

「事務所に戻れば選手名鑑があるからそれで確認すれば?」

気のないの返事に、有里はピンと来た。

「誰?」

「何故わたしに聞くの?」

「知ってるんでしょう?みんなのプロフィール覚えてるんでしょう?」

期待に満ちた瞳で有里に迫られるが「さあ?」と返しては「お疲れ様でした」と杉江たちに声をかけて事務所に足を向ける。

「お!ー、お前んち、昔の映像とか結構持ってる?」

だらだらと歩きながら達海が声をかけてきた。

「昔の?いつのですか」

「昔。んー、10年前くらいからの」

「実家に帰ればたぶんありますよ。消えていなければ、ですけど。ETUのだけで良かったらこの間整理しましたからここの資料室にありますよ」

が答えると「マジで?!ちょっと見せて」と達海が言う。

「...ん?達海さん。身長いくつですか?」

「俺?175くらい」

有里に背を向けたは苦い表情になる。

「なるほどー。これくらいの身長差か...」

あごに手を当てて有里がうんうんと頷いている。

「有里、何してんの?」

に聞くと

「世の中、一般的に恋人は15センチの差が丁度良いって言う情報を仕入れたらしくて。客観的に見たかったみたいですよ」

と返されて「ふーん」と気のない返事をする。

「けど、ウチの選手ってそれくらいの多いだろう」

達海が続けた。

「椿は74だったか?ジーノが76で、石神もそれくらいだったよな。あとー...赤崎って75だったろ?夏木と宮野も」

「...選手のプロフィール覚えてるんですか?」

が問うと、

「この間見たばっかりだからなー。けど、まあ。背の高さとか特に気にしてないからすぐに忘れると思うけど」

まあ、達海は相手チームのプレイスタイル等によって戦術を変えるから、この先そういったことを気にすることは出てくるかもしれないが、今のところは選手達のプレイを見ての判断に拠るものなのだろう。


「お疲れーす」

他の選手達が声をかけてきた。

練習も終わったので帰るところなのだ。

「有里ちゃんは何センチなの?」

が問う。

「へ?えーと...」

誤魔化す様子に「達海さん、有里ちゃんと並んで」とが言う。

「えー、もう面倒くさいよー。先に資料室に行っとくから後で来てよー」

そう言って達海が去っていく。その後姿を見た有里はほっと溜息を吐いた。

「155センチくらいかー」

「ひゃ!」

の言葉に有里は飛びあがった。

「な..なんで!!」

「だって、黒田さんと約15センチ差」

そう言って有里は自分の隣に立つ人物を見てぎょっとした。達海から逃げることだけに意識が行っていたので、誰かが隣に立っていることなんて気がつかなかった。

「何の話してんスか?」

自分を見下ろす赤崎に、「赤崎くんは175?」とが言う。

「は?身長っスか」

頷くに「そうっスけど...」と困惑しながら返した。

「達海さんは妙な記憶力をお持ちだねー」

そう言って「お疲れー」と声をかけて資料室へと向かった。

「...何の話だったんスか?」

何も分からない状況で放置された赤崎は首を傾げて有里を見た。

しかし、有里はそれどころではなく、「さんよりも5センチ...」と項垂れている。

「というか、もう何年も一緒に仕事をしていたのに、今更知ったんだ...?」

杉江のこの突っ込みはある意味的を得ている。

「ま、身長差、15センチでよかったな」

ぽんと赤崎の肩に手を置いて黒田は玄関に向かい、杉江も続く。

「...は?」

最後まで話題に置いてけぼりでそのまま放置された赤崎だった。









桜風
10.10.23


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