アイコトバ 38





「ジーノ、いるよ!!」

興奮気味に子供が言う。この子もよく見学に来ている子だ。女の子も声を上げた。

「ジーノのファンなの?」

子供がジーノのファンと言うのは意外だと思った。でも、まあ、目立つし憧れるのかなぁ?

「うん!ジーノにいつもサインしてってお願いしてるんだけど、してくれないんだ。この間なんて、椿に変わりにサインさせたんだぜ?!」

初めて知った事実には思わず広報として頭を下げそうになった。というか、うっかり下げた。「ごめん」と。

今、ここでは普通にサポーターで居るつもりだったのに...

「ま、いつか絶対にサインもらうんだ!!」

村越さんに言いつけてみようか...

は何となくそう思った。

あの人は本当にサポーターを大切にしてきたから...あ、ムリだ。あのジーノには何を言っても無駄かも...


試合開始の笛が鳴る。

やぱり、そうだ。

昔からのサポーターだった田沼たちは今の応援団のスカルズと溶け込めないみたいだ。

まあ、10年前の応援の様子と全然違うからなぁ...

「コータ君は何で新しいサポ軍団を作ったの?」

「大人なんて、本当のサポじゃないよ。選手のこと、心から応援してないもん」

そういった。

羽田さん、泣きそうになるだろうなー...

「コータくんはいつからそんなことを思い始めたの?」

「中断期間前の、ビクトリー」

たしか、誰かがサポたちの雰囲気が変だったとか言っていた気がする。そのときに何かあったのだろうか...

ふと、少し離れている彼らの父親達を見た。やはりスカルズから離れて独自の..昔の通りの応援をしている。

やっぱり難しいなぁ...

そう思っていただが、試合が展開されていくうちにすでにそういった難しいことを考えられなくなってきた。

勿論、きちんと仕事は続ける。

「ねえ、お姉ちゃん。さっきからあっちは何て言ってるの?」

ひょろっとした子が聞いてきた。

この子は見学には来ていない。少なくとも、は目にしていない。

「んー?」

膝を折って彼の視線にあわせる。

「うぃあーごなうぃん?」

「ああ、うん。そう。勝利に向かって、っていう意味ね。We gonna win!」

「姉ちゃん、英語得意なの?!」

「まあ、そこそこ」と返すと「すげー!」と子供達から一斉に尊敬のまなざしを向けられた。

「他に、いい言葉ある?」

コータが目を輝かせて聞く。

「じゃあ..We are ETU!とかどうかな?オレたちはETUだ!って」

「俺、ETUのユースに入ってるけど、皆が皆そうってワケじゃないし...」

コータの言葉には笑う。

「サポーターでしょう?サポーターが居なかったら選手はどれだけ力が出せるんだか。みんなの応援があって、選手は頑張れるんだって。ちゃんと届いているんだよ。それに、そのタオルマフラー。それにちゃんと書いてある」

の言葉にコータは笑う。

「ホント?!」

「うん、ほら」

「やった!じゃあ、一生懸命応援しなきゃ!!」

「We are ETU!」

子供達が声を張ってそう叫ぶ。もそれにあわせた。

羽田と目があう。不快そうにされたが何も言われない。

いえるはずがない。は羽田の大先輩だ。

がゴール裏に来なかったのだって、平たく言うとETUのためだった。羽田たちもそれを知っている。

死ぬ気で勉強して独りで1年間留学して、戻ってきてETUに就職。

彼女の人生はETUと共にあるのだ。

『お前らぁー!声を出せぇ!!』

拡声器で羽田が言う。

サポーターの声は一層大きくなる。



前半終了の笛が鳴り、は急いでスタンドの中を歩いた。


「有里ちゃん」

緑川がロッカールームに入ってきた有里を呼び止めた。

「はい?」

ちゃん、もしかしてスタンドに居る?」

有里は目を丸くした。

「何で分かったんですか?!」

「ええーーーー???!!!」

知らなかった選手達は声を上げた。勿論、声が出なかった選手も居るが、皆一様に驚いた。

「いや、声が聞こえてね。普段聞きなれている声だから耳に入ったんだ。『ナイスセーブ、ドリさん』って言われてあれ?違うかな??って思ったんだけど...」

「俺も聞こえた!『ナイスクリア、クロさん!』って。『スギさん!素敵!!』も聞こえたけど...」

そう言って黒田は杉江を見ると彼も頷く。

「...どういうこと?」

「よーし、そんなみんなの疑問には俺が答えよう!」

そう言って入ってきたのは達海だ。

「えーと、はい。有里。これ読み上げて」

そう言ってノートパソコンを渡してきた。

「へ?!」と声を漏らした有里は画面を見てもっと驚く。

「えーと。まず、緑川さん...」

有里が何かを読み上げる。これは、読み上げているのは何だろう...?

皆は首を傾げた。

「んー、やっぱりFW陣への応援メッセージが少ないねー」

「あの、監督...」

「うん、ね。今スタンドにいるから。ついでに、ハーフタイムにスタンドのサポーターに前半の感想を聞いてみてって言ったんだよ。まさか、ひとりひとりメッセージを拾ってくれるとは思っていなかったけど...」

そう言ってロッカールームの中の選手の顔を見た。

「さて、次はFW陣が見せ場を作るところだよな?」

丁度ブザーが鳴って選手達はロッカールームを出て行く。

「あ、あと。今追加でメッセージが来ました!『俺たちは最後まで選手を応援する。それがサポータってもんだろう!』by新・旧・子供応援団長、だそうです」

新・旧・子供応援団長。

子供応援団のことは良く分からないので首を傾げたが、新旧応援団長には達海もちょっと思うところがあったのか苦笑する。

「んじゃ、サポーターの心意気に応えるのがお前らの仕事だ!行って来い!!」

達海の檄を背に受けて選手達はピッチへと向かっていった。










桜風
10.10.30


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