| 前半は防戦一方だったETUも後半に入るとFW陣が息を吹き返したかのごとく果敢にゴールを脅かす。 DF陣の活躍のお陰で前半は0点で抑えた。だから、後半、点を取って..勝利が見たい。 「ああ、本当だ。居るね」 ボールを捌きながら、ジーノが呟く。 スタンドの最上階。彼女は子供達と一緒に居た。 「ザッキー。見せ場、作ってあげる」 そう言ってジーノは赤崎にパスをした。 前半、DF陣に声が聞こえたと言うことは、いま、自分が向かっている先にがいると言うことだ。 「ヘイ!」と誰かがパスを促した。 チラと見たら世良だ。 このまま突破..と思ったがパスを出した。チャンスを潰してしまうなんて勿体無い。 ピピッと笛が鳴り、ゴールエリア内で世良が足を押さえている。 「大丈夫っスか?」 「いてぇ!けど、PKだ」 ニッと笑って世良が言う。 ジーノが見上げるとが嬉しそうにピョンピョン跳んでいた。 【ジーノ!此処で決めたら男前だよ!!】 ああ、本当だな。あんなところに居るのに声が届く。 「ザッキー、悪いけど。ボクが蹴るね」 赤崎にそう言うと「ウス」と彼も頷く。 ボールは吸い込まれるようにゴールマウスの中に一直線に伸びていき、ネットが揺れた。 ETUのサポーター達は沸いた。 ジーノは最上階に居るを指差してウィンクをした。 「あ、バレた」とは苦笑する。 「姉ちゃん。今の王子。俺を指差したよね?!」 ジーノファンの少年が言う。「私よ!」と女の子が主張した。 「どうだろうね」とが返すと2人は自分だと主張をして譲らない。 何であんなにモテるんだろう... ジーノの人気には首を傾げた。 「ところで、お姉ちゃん。さっき、王子がPK蹴るときになんていったの?あれも英語?」 ジーノファンの女の子が聞いてくる。 「ああ、イタリア語。ジーノはイタリアと日本のハーフでしょう?だから」 「教えて!『王子頑張って』ってどういうの?!」 女の子にせがまれてはたじろぐ。 「『王子』じゃなかったら、だめ?」 「何で?王子でしょう?!」 自分が彼のことを『王子』と呼びたくないだけなのだが... 「ねえ、早く」とせがまれ、は観念した。 【王子、ガンバッテ!!】 発音はまだまだだが、それでもジーノには通じるだろう。 そう思ってピッチを見下ろすとジーノと目が合う。愉快そうに笑っている。 はうな垂れた。 自分がイタリア語を教えたのは一目瞭然として、つまり、自分が彼を『王子』と呼んだことになると思うと何とも屈辱的と言うか、とてもダメージが大きい。 しかし、気を取り直して改めて試合を見る。 「今日は椿くん、あまり走れてないね...」 「椿は波があるもんなー」と腕を組んでコータが言う。 確かに、とは苦笑した。 「でも、椿くんの応援してるんだよね?」 そう言っては田沼たちを見た。 彼らは椿の横断幕を作っている。 「だって、椿だけ断幕ないんだもん」 なるほど、とは唸った。 それから赤崎、世良もシュートを決めた。 「前半のあれ、何だったんだよー...」 不服そうにコータが呟く。 「まあ、前半に何か仕掛けとかしてたんじゃないの?」 あの人、性格悪いから... 心の中では一言付け加えてフィールドを見下ろした。 「あ、来る...!」 椿の縦のラインが空いた。 が呟いた途端、ジーノから椿へのパスが通ってそのままぐんぐん彼が近付いてくる。 ふと、時計を見たら試合終了まで5分をきっていた。ロスタイムがあるにしてもそろそろもタイムアップだ。 「じゃあね、コータくん」 「へ?!」 ピッチの上では椿がぐんぐん走っているし、が何か言うし、コータは少し困惑したみたいだが、結局試合に集中することにした。 「すみません」とスカルズのメンバーに声をかけた。 声をかけられたメンバーは「あ?!」とを睨んだ。好き勝手応援しやがって、と言いたいらしいが、羽田が言わないのだから言えないと思っているらしい。 「これ、羽田さんに渡してお願いしてもらえますか?」 「ああ?!」 「試合終了直後、自分の定位置からスタンド上方に向けてシャッターを切ってくださいって。カメラは、後で選手にでも渡してください。ダメなら、スタッフに」 そう言ってはその場を離れた。 「あ!おい!!」 そうは言っても、を無視することが出来ずにメンバーは急いで羽田の傍に行き、の言葉を伝えると、「...わかった」と羽田は渋々頷いた。 |
桜風
10.10.30
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