アイコトバ 39





前半は防戦一方だったETUも後半に入るとFW陣が息を吹き返したかのごとく果敢にゴールを脅かす。

DF陣の活躍のお陰で前半は0点で抑えた。だから、後半、点を取って..勝利が見たい。


「ああ、本当だ。居るね」

ボールを捌きながら、ジーノが呟く。

スタンドの最上階。彼女は子供達と一緒に居た。

「ザッキー。見せ場、作ってあげる」

そう言ってジーノは赤崎にパスをした。

前半、DF陣に声が聞こえたと言うことは、いま、自分が向かっている先にがいると言うことだ。

「ヘイ!」と誰かがパスを促した。

チラと見たら世良だ。

このまま突破..と思ったがパスを出した。チャンスを潰してしまうなんて勿体無い。

ピピッと笛が鳴り、ゴールエリア内で世良が足を押さえている。

「大丈夫っスか?」

「いてぇ!けど、PKだ」

ニッと笑って世良が言う。


ジーノが見上げるとが嬉しそうにピョンピョン跳んでいた。

【ジーノ!此処で決めたら男前だよ!!】

ああ、本当だな。あんなところに居るのに声が届く。

「ザッキー、悪いけど。ボクが蹴るね」

赤崎にそう言うと「ウス」と彼も頷く。

ボールは吸い込まれるようにゴールマウスの中に一直線に伸びていき、ネットが揺れた。

ETUのサポーター達は沸いた。

ジーノは最上階に居るを指差してウィンクをした。

「あ、バレた」とは苦笑する。

「姉ちゃん。今の王子。俺を指差したよね?!」

ジーノファンの少年が言う。「私よ!」と女の子が主張した。

「どうだろうね」とが返すと2人は自分だと主張をして譲らない。

何であんなにモテるんだろう...

ジーノの人気には首を傾げた。


「ところで、お姉ちゃん。さっき、王子がPK蹴るときになんていったの?あれも英語?」

ジーノファンの女の子が聞いてくる。

「ああ、イタリア語。ジーノはイタリアと日本のハーフでしょう?だから」

「教えて!『王子頑張って』ってどういうの?!」

女の子にせがまれてはたじろぐ。

「『王子』じゃなかったら、だめ?」

「何で?王子でしょう?!」

自分が彼のことを『王子』と呼びたくないだけなのだが...

「ねえ、早く」とせがまれ、は観念した。


【王子、ガンバッテ!!】

発音はまだまだだが、それでもジーノには通じるだろう。

そう思ってピッチを見下ろすとジーノと目が合う。愉快そうに笑っている。

はうな垂れた。

自分がイタリア語を教えたのは一目瞭然として、つまり、自分が彼を『王子』と呼んだことになると思うと何とも屈辱的と言うか、とてもダメージが大きい。

しかし、気を取り直して改めて試合を見る。

「今日は椿くん、あまり走れてないね...」

「椿は波があるもんなー」と腕を組んでコータが言う。

確かに、とは苦笑した。

「でも、椿くんの応援してるんだよね?」

そう言っては田沼たちを見た。

彼らは椿の横断幕を作っている。

「だって、椿だけ断幕ないんだもん」

なるほど、とは唸った。

それから赤崎、世良もシュートを決めた。

「前半のあれ、何だったんだよー...」

不服そうにコータが呟く。

「まあ、前半に何か仕掛けとかしてたんじゃないの?」

あの人、性格悪いから...

心の中では一言付け加えてフィールドを見下ろした。

「あ、来る...!」

椿の縦のラインが空いた。

が呟いた途端、ジーノから椿へのパスが通ってそのままぐんぐん彼が近付いてくる。

ふと、時計を見たら試合終了まで5分をきっていた。ロスタイムがあるにしてもそろそろもタイムアップだ。

「じゃあね、コータくん」

「へ?!」

ピッチの上では椿がぐんぐん走っているし、が何か言うし、コータは少し困惑したみたいだが、結局試合に集中することにした。


「すみません」とスカルズのメンバーに声をかけた。

声をかけられたメンバーは「あ?!」とを睨んだ。好き勝手応援しやがって、と言いたいらしいが、羽田が言わないのだから言えないと思っているらしい。

「これ、羽田さんに渡してお願いしてもらえますか?」

「ああ?!」

「試合終了直後、自分の定位置からスタンド上方に向けてシャッターを切ってくださいって。カメラは、後で選手にでも渡してください。ダメなら、スタッフに」

そう言ってはその場を離れた。

「あ!おい!!」

そうは言っても、を無視することが出来ずにメンバーは急いで羽田の傍に行き、の言葉を伝えると、「...わかった」と羽田は渋々頷いた。










桜風
10.10.30


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