アイコトバ 42





日付が変わる頃にドアがノックされた。

「んー?後藤?」と振り返ると立っていたのはだった。

「何だ、か。まだいたの?」と言うと「ご挨拶ですね」とが返して「差し入れです」と何かを置いた。

「なに?」

DVDを一時停止した達海はの置いた袋の中を覗く。

「お?!にっくまーん」

リズムをつけて嬉しそうにそう言う。

「横浜ですか」

テレビの画面を見てが言う。

「んー?うん、まあ。監督変わったし...」

そう言いながら肉まんを取り出してかぷりと食いつく。ゴミはに無言で渡し、もそれを文句言わずに受け取った。

「なあ、。今度の横浜、誰が良いと思う?」

「は?!」

「スタメン」

半眼になっては溜息をついた。

「作戦によるでしょう」

「んー、じゃあ。赤崎のSBってどう思う?」

何で自分に聞くかなぁ...

またしても溜息を吐いて、「どういう面で考えているんですか」とが問う。

「守備はまだちょっと心許ないでしょう。合宿のときよりはマシになったとは思いますけど。攻撃のオプションに、っていうんだったら五輪予選で見たとおり。でも、体力の問題もあるでしょうね。
うちは石神さんと清川くんがいるんだし、ムリにコンバートする必要はないんじゃないんですか?体力だったら断然椿くんでしょう?」

の言葉に「だよなー」と達海は頷く。

そして、ふとが持っている別のコンビニ袋が気になった。

「それ、何?」

「わたしの夜食です」

「おでん?」

容器が透けて見えた。

「ええ。始まっていたのでつい」とが返すと「何で俺もおでんじゃないんだよー」と文句を言われる。

眉間に皺を寄せて盛大に溜息を吐いてみせたら「村越になってんぞ」と指摘された。

「第一、達海さんのこの部屋でおでんとか、汁が散ったりこぼれたらどうするんですか」

「んじゃ、今から事務所行く」

そう言って立ち上がる。

「はあ?!」とが頓狂な声を上げているうちにDVDを停止して電源を落とした。

「ほら、いくぞ」と促されては腑に落ちないながらも事務所へと足を運んだ。


事務所に戻ると「お帰り」と後藤に声を掛けられ、達海が一緒であることに彼は驚いたようで少し目を丸くした。

「後藤さん、コーヒー入れましょうか」

「ああ、ありがとう」

「俺もー」

がコーヒーの準備をしていると背後でガサガサとビニール袋の音がした。

まさか、と思って振り返ると「いただきまーす」と達海がの夜食に手を伸ばしていた。

まあ、仕方ないから分けてあげてもいいけどとは思っていた。

思っていたが...

「ちょ..ばっ...!!許可なく大根を食べたな、このクラゲ!!」

が声を上げる。

「んだよー!他のたまごとかはんぺんとかそういうのは我慢してやるってのに」

口を尖らせてそう言う達海だが

「おでんの王様は大根に決まってんでしょ!!わたしの夜食なんだから、メインはわたしが食べる権利があるってのに...!」とが言う。

「おー!も大根が一番なんだな。他のヤツに言っても『スジ肉』とか『卵』とかいうからさー、あいつら全然分かってねぇって思ってたんだけど。いやぁ、お前、おでんが分かってるよ」

「買ってきてください」

半眼になってが言う。

「えー!寒いじゃん」

「どの口が言うかぁーーー!!」

達海の口を引っ張りながらが言う。

「ははは」と笑い声がして振り返ると後藤が笑っていた。

ちゃん、まあ、許してやってよ。俺のをあげるから」

「後藤さんはクラゲに甘すぎます!!」

「だって、俺が連れてきちゃったんだし」

「来たのは達海さんの意思です!」

の言葉に虚を突かれたのか後藤は目を丸くする。そんな後藤の反応には首を傾げた。

「だなー。俺の意思だよ」

そう言って達海はニッと笑った。

「...なあ、。今度を日本代表に売っ払っていい?」

「締め上げますよ、首を」

ニコリと微笑んでが言う。

変なことを言うなぁ、と後藤は首を傾げ、「達海、あまり変なことを言うなよ」と注意しておいた。

しかし、とと達海を見る。

何だかこの2人って似てるんだよなぁ...

これを言うとが全力で拒否をしそうなので口にしないが、結構似ているところがある。

兄妹みたいで微笑ましいとすら思うのだが、それも口に出来ない後藤は黙って微笑ましい光景に目を細めていた。









桜風
10.11.6


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