| 時計を見るとリミットまであと20分。 書類は全て修正できた。 原稿は一応メールとファックスで送って、原本はこれから送る。 「ありがとうございました!」 そう言って書類の束を手にしてハタと気が付いた。 今日は自転車を漕げない。 結婚式に出席していたので、裾がヒラヒラしたドレスを着ているし、髪も盛っている。これでは自転車を漕げば裾を巻き込んで大変なことになるし、髪もばさばさになってまさに妖怪だ。 「。玄関に赤崎が車回してるって」 「へ?!」 「それじゃチャリはムリだろう」 カラカラと笑いながら石神が言う。 「あ、はい...」 「急ぐみたいだし、ほら。もう玄関に居ると思うぞ」 「ありがとうございます」 そう言っては事務所を出た。 「いやぁ、凄い反応早かったなぁ、赤崎」 クツクツと笑いながら石神が言う。 書類が出来たと分かった途端「車、回しておきます」と出ていったのだ。 「んじゃ、俺たちはが戻ってくるまでの留守番だなー」 そう言って客用のコーヒーカップを取り出してコーヒーを飲み始める。 しかし、まあ。あのドレス姿であれだけバリバリと仕事をされると違和感があると言うか、逆に迫力が増すものだなぁ... そう思いながらコーヒーに口をつけた丹波は眉間に皺を寄せる。 「苦っ...」 「それを誤魔化すために砂糖、入れたんじゃないのかな?」 笑いながら石神はその苦いコーヒーを飲む。 「...ところで、世良。お前役に立ったか?」 真顔で丹波に言われて、世良は「結構パシッたじゃないスか!」と抗議の声を上げた。 「ごめんね、赤崎くん」 「ああ、いいスよ」 素っ気無く答える赤崎はどう見ても不機嫌だ。 「あ、最寄からちょっと遠いコンビニでお願いします」 そう言うと不思議そうに赤崎がを見る。 「いや、さすがにこの格好であそこに入りたくないって言うか...」 「わかりました」と答え、赤信号で止まった際、赤崎は後部座席に体を伸ばした。 「これ。その格好だと寒くないスか?」 ブランケットを取り出してに渡す。 肩も出ているし、ドレスの丈もそんなに長くない。普段のは大抵パンツだから見慣れていない赤崎としてもちょっと隠してほしい。 「あ、うん。ありがとう」とは受け取って膝にそれをかけた。 「結婚式だった..んスよね?」 信号が青になって車を走らせる。 「うん。大学時代のね」 「何か出し物みたいなのしたんスか?」 結婚式といえばそういうものだと聞いたことがある。 「ううん。うーん、出し物って言うか、同時通訳?新郎さんがイタリアの人で、こっちの結婚式と披露宴をご両親に見せたいって言うんで、こっちで式を挙げたんだけど。披露宴ってスピーチとかあるでしょう?それをイタリア語で通訳したの。まあ、日本語、英語に並んでイタリア語は馴染みのある言葉だったからね」 イタリア語はジーノとの会話で多用される言語だ。日本語は普段使っているし、英語だって達海に禁止令を出される前はクラブハウスの中で使っていた。 不意にの腹の虫がなる。 「あ、えーと」 「こういうのはスルーするのがいいと思うな」 真顔で返すに赤崎は噴出した。 「食べなかったんスか?」 披露宴では料理くらい出るだろう。 「同時通訳してしまったがために、その後も通訳状態。何も食べられなかったのよ。で、二次会に行こうかなーって思ってたら有里ちゃんから電話があって慌てて戻ってきたの」 「散々スね」 赤崎の言葉に苦笑して「いや、でも。わたしの最優先事項はETUだし」とが返して丁度コンビニに着いた。 が車から降りてレジに向かう。宅急便の依頼のためだ。 「最優先事項、ね...」 シートに深く凭れて目を瞑った赤崎は呟く。 自分にとってETUは通過点に過ぎない。昔そう思ったし、今も..変わらない。 『クラブ』に嫉妬心を覚える自分にはどうかと思う。でも、は何でこんなにもETUを愛しているのだろうか... コンコンと窓をノックしてが助手席のドアを開ける。 「何でノックしたんスか?」 「うーん、無断でドアを開けるのが何となく引けたから?」 つまりは、これが自分との距離と言うことだ。 赤崎は吐きたい溜息を飲んで、の手にあるものを見た。 「あ、どれがいい?肉まんとピザまんとカレーまんと...」 コンビニに寄ったのだから、と買ってきたようだ。 「さんはどれっスか?」 「カレーまん以外なら何でも」 じゃあ買わなきゃ良いのにと思いながら、「んじゃ、オレはカレーまん」と言って手を伸ばした。 「赤崎くんはカレーまんが好きなの?」 そういいながらは肉まんに手を伸ばす。 「いや、別に」 「えー?!じゃあ、いちばん好きなのを取ってくれて良かったのに。此処まで乗せてくれたんだし」 がそう言うが赤崎は「カレーまんも好きっスよ」と言ってあっという間に平らげた。 |
桜風
10.11.13
ブラウザバックでお戻りください