| イエローカードの累積で試合に出られなくなった村越はスタジアムで観戦をしていた。 「隣、いいですかー?」 声をかけられてちらりと視線を向ける。 「珍しいな。がスタジアムに来るなんて」 そう声をかけると「たまには、ね」とは返した。 「あっちじゃなくて良いんですか?」 がいう『あっち』とは、ベンチに入れなかった選手達の座っているところだ。 「俺が居ると居心地が悪いだろう」 「一緒に考えれば良いのに」 の言葉に村越は肩を竦めた。 「こそ、あっちで一緒に考えてみたらどうだ?」 「選手の領域に口は出しません」 キッパリと返されて「だったな」と村越は頷く。 「こんな高いところから見ないから新鮮だー。あ、でもテレビで見たら此処からの景色と変わんないか...」 試合を見ながらが呟く。 「そうかもな」と村越は相槌を打った。 「随分変わりましたね」 不意にがそういった。何を、といわれないので分からない。 「チーム」と村越の思いを感じたのかが先ほど省略した目的語を言う。 「...まあな」 村越が返す。 「たぶんさ、達海さんはETUを捨ててなかったんだよ」 がぽつりと言った。が言わんとしている事が見えないので、村越は黙って続きを待った。 「あれは、選手も、フロントも、サポーターも..皆が悪かった。 達海さんは自分が中心のチームを作って、ふらりと居なくなった。皆そう思った。けど、違う。皆で勝手に達海さん中心のチームにしたんです」 そこで言葉を切っては村越を見る。 「お茶、要ります?」 バッグからペットボトルを取り出し、「もらおう」と村越が手を出す。 「今のチームってさ。やっぱりどうやっても村越さんは大黒柱ってやつだと思う。でも、こうやって村越さんが居なくてもちゃんと機能するんだよね。 エースはエースとしているべきもので、心理的に頼りになる人は居たら良いと思う。でも、いたらそれで全部ってのじゃいけないんじゃないかなー」 「...どういうことだ?」 「合宿で、皆がやったこと。何となーく、そう言うことかなって。元々達海さんが目指していたチームってそれかなって。 達海さんひとりが居なくなってあんなにボロボロと瓦解したETUもきっと悪かった。あの時は、困ったときには達海さんって感じで、何でもかんでもあの人に頼ってたでしょう? 今でも、ちょっと困ったときにはジーノだけど、あの性格と日ごろの行いでジーノには全面的に頼ることが出来ないって言うのを皆分かってる。だから、試合が動かなくて苦しくなったときに誰かに預ければもう大丈夫って言う怠慢、甘えがないんですよね。村越さんにもそれが出来なくなったし」 「怠慢か」と村越は苦笑した。 「そうですよ。だって、あの人に預ければあの人が何とかしてくれるってのは、楽をするための行動でしょう? 今のETUは誰もが主役になれる。誰もが、頼られる存在になってるんですよね」 そう言っては村越を見上げた。村越は少し体を引く。 「寂しいですか?」 悪戯っぽく笑って言うに溜息をついて見せた。 「監督がやって来たばかりのとき、俺、キャプテン外されただろう?」 村越の確認には頷く。 「あのとき、言われたんだ。『お前が背負ってきたもんを半分、俺が死ぬ気で背負う』って。俺たちを、チームを捨てたヤツが何を言ってるんだって心からムカついた..んだけどな」 村越が笑う。 「あの時だったら、今のの言葉とか聞く気にならなかっただろうな。途中で止めてたかもしれない。けど、今なら..聞ける。 監督の目指しているチーム、お前にはちゃんと見えてたんだな」 「一歩引いて見ているからですよ」 はそう言って苦笑した。 「独り言、です」 突然彼女は宣言した。村越は黙ってペットボトルに口をつける。 「わたし、1年間欧州に留学したんだよね。拠点はフランスだったんだけど、すぐにイングランドに向かった。噂には聞いていたから。 達海猛が移籍したチームに行ってみた。彼はそのチームでのデビュー戦で故障したから、その後の足跡が辿れないかなって思って。移籍する前から足の故障はあったし、それを含めて彼を呼んだチームだからそれくらいわかるかなって思ったの。けど、分からないって言われた。 その後、そのチームを辞めた彼が何処に行ったのか、ちょっと本気で探してみた。 留学中は見つけられなかったけど、欧州に住んでいる姉が引き続きの捜索をしてくれたの。 3年前に見つけたって連絡を受けて、休みに強行スケジュールで見に行った。 そしたら、イングランドの片田舎、って言い方は失礼かな。下町のアマチュアチームの監督になってた。そのチームのホームタウンは、ETUのホームタウンに似てたのよ。みんな一丸となってチームを応援して、負けたら町全体がお葬式で、勝ったら町中お祭り騒ぎ。 オーナーさんに話を聞いてみた。どうして、あの人を監督にしたんですかって。そしたら、彼がこの町を気に入ったと言ったから、自分のホームタウンに似てるからって言ったんだって言われた。 達海さんは、自分が出て行くことでETUが違う形にバージョンアップするんじゃないかって期待して出て行ったのかなって思った。 ...けど、今思えば、随分と達海猛を美化してるよなー、わたし」 そう言って村越を見上げた。 「独り言、終わり」 「ジーノが手を振ってきてるぞ」 は苦笑して振り返す。 その様子に気が付いた他の選手も手を振ってきた。 「あいつら、集中しろ...」 苦々しく村越が呟く。 「村越さんは手を振らないの?」 「俺が振ると思うか?」 「皆驚いてもう手を振ってこないと思いますよ?」 どういう意味だ... ジロリとを見た。 はニコニコと笑って、今度はベンチに入れなかった選手達の手振りに応えている。何処のアイドルだ... 「さっきの独り言は、また別のところでも口にするのか?」 「んー?村越さんの隣だけ、ですかね」 「おせっかいめ」 「江戸っ子ですから」 カラカラと笑ってはそう返した。 |
桜風
10.11.27
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