アイコトバ 52





「ところで、川崎の皆さんは何処に行くの?」

が問う。

「え、いや。そんな計画立ててなかったから...」

近藤がそう言って八谷と星野を見た。

「取り敢えず、近場の伝統文化って考えて東京の下町。浅草になったんだけど...」

「じゃ、ご案内しましょうか」

の言葉に世良たちは驚く。

「買い物は?!」

「ご馳走するという約束は果たすから」とが言い、「や、でも」と近藤が遠慮する。

その反応が普通だと星野は思った。

「ヤタヨー!」

普通じゃない反応をしたのがいる。

サン、アンナイシテクレルノ?」

「ま、地元自慢させてもらいましょうか?」

の言葉に姜は嬉しそうにピョンピョン跳ねた。

「いいんですか?」

近藤に聞かれて「ま、乗りかかった船だし」と有里も苦笑する。


取り敢えず、たちの目的でもある浅草寺に行った。

そこでお参りをして、隅田川に出る。

「アノウンコナニ?」

指差して姜が問い、苦笑してが応える。韓国語で。

「ちょ、さん。聞いてたら混乱するから、日本語でたのんます」と赤崎が抗議の声をあげ、仕方なく日本語で案内をすることにした。

しかし、ちょっと前まではあんな会話をしてたんだ...

傍から見たらヘンテコだと言うことに今更ながら気が付く。

てくてく歩きながら観光案内をしていると「サン」と姜が声を掛けてきた。

「ワタシ、ハラペコヨ」

そう言った途端にぐー、と姜の腹の音が鳴り、他の人の音も聞こえた。

「もんじゃ、かな?」

「あ、だったらオレ、良い店知ってますよ」

赤崎に言われて皆は彼に続いた。


店の前に着くと「あ!」とが声を上げる。

「知ってるんスか?」

「実家がこっちにあったときにね。良く母に連れて来てもらったから」とが頷く。

「ちは」と赤崎が入り、皆がそれに続いた。

「あら、遼君」と店のおばさんが嬉しそうに声を上げる。

「ども」と言った赤崎に後ろに居た人物にまたしてもおばさんは声を上げた。

ちゃん?!ちゃんでしょう??」

「お久しぶりです」

「裏切り者のお母さん、元気?」

「今ではすっかりETUファンに逆戻りですよ」

苦笑しながら答えるに「ま、後藤さんが居るものね」と笑いながらおばさんが返した。

そして、後ろの人物を目にして眉間に皺を寄せた。

「ちょっと、その後ろの...」

『その後ろの』と言われたのは川崎の選手達だ。

「ああ、そうです。川崎の...」

「塩を撒いても良い?」とおばさんに言われては笑った。

「何を言ってるんですか!心のあったかい下町の代表としてこのお店を紹介してるのに、真逆じゃないですか。オンとオフは切り替えてくださいよ」

カラカラと笑うにおばさんは苦笑を漏らす。周囲の常連客たちも笑った。

「おう!食ってけ。うまいぞー」

、今度おっちゃんとデートしようなー」

「しっかし、あのハナタレが今じゃETUのスタメンかー」

さん、大人気ね」

有里が声を掛けると「ま、母の性格のお陰だよ」と苦笑しながら返す。

「おばさん、端っこの席。大丈夫?」

「いいよ。そのほうが良いかもね。江戸っ子は人情溢れるけど、気も短いからね」

「おばさんみたいにね」とが返すとデコピンされた。「生意気言うんじゃないよ」と。


「そういえば、世良君たちはまだ地元に帰らないの?」

注文を終えてが問う。

「そろそろ帰ろうとは思ってるんスけど」

「俺も」と椿が言う。

「赤崎は?」と八谷に聞かれて「オレは此処が地元っスから」と返した。

そういえば、常連客らしき人たちに声を掛けられていたな。『遼くん』とかって呼ばれていたし。

さんと、有里さんは?」

八谷が問う。

というか、何でナチュラルに名前呼びしてんだよ!!

何となくETU所属選手3人はちょっと面白くない。

「わたしの地元は東京だから、帰るところはないし。有里ちゃんも同じくよね?」

「お正月にはおばあちゃんの家に行くけど。それくらいだし」

頷いて有里もそう言う。

「しかし、今期のETUはちょっとしんどかったですよ」

近藤が言う。

川崎も、結局タイトルには及ばなかった。どのチームもそこを目指しているのだ。

「くっそー、ネルソン監督のために」と思い出したのか八谷がブツブツと呟いている。

さんは、日本人..なんですよね?」

星野が問う。先ほどから色んな言語が口から漏れてきていたのだ。

姜との会話で韓国語。道を聞かれて英語とかそれ以外の言葉。凄いと素直に思ったが、どんどん国籍不明になってくる。

「ええ。両親とも日本人よ」とが頷く。

「そういえば、お父さんは元気?」

種を持ってきたおばさんが声を掛けてきた。

「どっちの?」

「あっちの」

「だぶん、元気。今年も面倒だから会わなかったけど...」

苦笑して言うとおばさんは豪快に笑う。

「そんなことをしたら、来年もーっと面倒かもよ?」

「面倒くさくなりませんように、って浅草寺でお参りして帰ることにするわ」

の言葉におばさんはまたしても豪快に笑い「霊験あらたかだから、きっと大丈夫だね」と行ってその場を去った。

「仲、悪いんスか?」

「うん、面倒なの。会話とかもなるべくしたくない」

おばさんとの会話で何となく状況を察した彼らのうち、言いにくそうに世良が問うたが、は笑顔で頷いた。

のレクチャーを受けて姜がもんじゃ焼きに挑戦する。

は元々面倒見が良いからこういうとき、周囲としても凄く助かる。

姜へのレクチャーを聞きながら近藤たちももんじゃ焼きに挑戦した。大きいのを作って全員でつつけばいいのだが、作りたいというのだから、作らせれば良い。

食事が進み、まだ太陽は沈んでいないけどビールも入って皆が楽しそうにする。

頬杖をついてその様子を見守っていたの目がとても優しい。ちらりとそれを盗み見ていた赤崎はそう思っていた。

しかし、それを盗み見ていたのは赤崎だけではなかった。

食事が済んで落ち着き、外も暗くなったので川崎メンバーは帰らなくてはならなくなる。

一応、姜が納得するまで下町を味わった。


「あの、此処の支払い俺に持たせてください」と言ったのが近藤では苦笑した。

「いいですよ。世良くんたちもご馳走するって話で今日は付き合ってもらったんだからご馳走しないといけないし」

「でも、俺たち迷惑を掛けたんだし...」

さらに言い募る近藤には笑う。

「自分の地元にこんなに感動してもらえて充分。ずっとこっちに住んでるからそういう新鮮な感覚はなかったし。こっちこそ、楽しい思いをさせてもらったんだし」

の言葉にまだ納得していない様子の近藤の肩に赤崎はぽんと手を置いた。

「言葉じゃさんには勝てないスよ」

赤崎の言葉に世良と椿も頷いている。

「...じゃ、ご馳走になります」

諦めたように言う近藤に「よろしい」とは笑いながらちょっぴり偉そうに頷いた。









桜風
10.12.5


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