| 国立競技場入り口で待ち合わせていた。 「さん」と声を掛けられて見上げると赤崎だった。帽子を被っている。 「変装?」 「偶に追いかけられるから」 そうだったんだ...! 全くそんなそぶりを見せることがなかった赤崎に感心しながらはチケットを渡す。 「この間、浅草寺あたりに行ったときはそんな変装しなかったでしょう?」 「他の奴らがいたら特にそういうのないんスよ」 そういわれて、そういうもんなのか...と感心した。 「って、これ。スゲー良い席じゃないスか」 チケットの座席を見て赤崎が驚きの声を上げる。 「わたしもビックリした。けど、『ETUが決勝に出たときに隅っこの方で見るなんてありえない』って言われたら何となく納得しちゃったのよね」 苦笑しながらそう返したに「っスか」と相槌を打ちながら赤崎はの母親ってどんな人だろうと思っていた。 観戦シートは本当に良い席だった。 隣にが居ることをすっかり忘れてしまうくらいに。 試合は当初の予想通りのチームが優勝となった。 しかし、と赤崎は別のところで熱くなっていた。何処が優勝したってETUじゃなかったら関係ないと言うのがのスタンスで、赤崎だってそのチームに所属しているのだからそれに異を唱えるなんてことはない。 今、2人が熱く語っているのは、決勝点になったゴールのことだ。 「あれって、オフサイドだったって!」 の主張に 「ギリセーフですよ。それに、笛が吹かれなかったらオフサイドじゃないってことなんスから」 国立競技場を後にした後もそんな話をしているからが「じゃあ、確認してみる?」と言い出した。 「は?どうやって??」 終わったことをどうやって確認するのだろうか... 「ウチで録画してる」 そう言い切ってはテクテクと歩き出した。 良いのだろうか... そう思いつつもこんなチャンスは二度とないと思って大人しくついていくことにした。 「どうぞ」とドアを開けてが言う。 「ウス」と心持ち緊張しながら敷居を跨いだ。 の匂いだ、と何となく思った。 「ちょっと待ってよ」 1DKの小さな部屋だ。もしかしたら、寮の部屋の方が広いのではないだろうか。 「ちゃんと録れてる」との声が聞こえて入って良いのか悩んだが、まあ、大丈夫なんだろうと思って「失礼します」との生活空間に入った。 「あ、」と赤崎が呟く。 「ん?あ、パッカくん」 の部屋にはパッカのぬいぐるみがあった。 「何か、ちょっと違うスね」 「パッカくんもマイナーチェンジしてるのよ」 笑いながら答えてはそのパッカを手に取る。 「これ、今の父が初めて母に贈った物だったんだけど、母が自分へのプレゼントではなくて乳飲み子のわたしへのものだって思い込んでそのままくれたものなの」 「うわぁ...」自分がそれをされるとかなり痛い気がして赤崎は呟く。 「ま、それ以降。パッカくんがマイナーチェンジするたびに父が買ってくれてるからウチにたくさん居るのよね、パッカくん」 笑いながらがそう締めくくり、「最初から見る?」とリモコンを手にして聞いた。 「あ、どっちでもいいっスよ」 「んじゃ、先に問題解決しちゃおう」 そう言って後半35分まで早送りをした。 「ここら辺からで良い?」 「ウス」という赤崎の返事を聞いてがパッカくんを抱えてベッドを背もたれにして座り、「楽にしてね」と声を掛けられた赤崎は「楽にするってどうしたら良いんだろう...」と心の中でちょっぴり途方にくれていた。 問題のプレイには前に乗り出したと、同じく前に乗り出した赤崎はテレビ画面に釘付けで、結局、赤崎の正解だと言うことが判明した。 「むー...」と少し不本意そうなに「こう見えてもプロっスよ。点を取りにいってるし」と赤崎が言う。 「知ってるよ!」と拗ねては立ち上がる。 「コーヒーで良い?」 キッチンに向かいながらが言う。 「はい」と返事をして赤崎は手持ち無沙汰になった。 問題のプレイをもう見たし。じゃあ、どうしたら良いのだろうか... ふと、思い浮かんだ。 「さん」 「なに?」 「昔のウチの映像って此処にあるんですか?」 「どれくらい前?黒田さんの入団会見のときとか?」 「んなもん、あるんスか?!」 食いついた赤崎に苦笑を漏らしながら、「今こっちに持って来てるかしら...?」とベッドの下を漁った。 出てきた箱の中にはびっしりとDVDが入っている。 「これ、全部ETU?」 「たぶん、京都も混ざってるかな?前に達海さんにケン様の映像が欲しいって言われたから実家から借りてきてるし」 「...さんの実家、スゲーっスね」 「実家、と言うよりも母がね」 呆れたように笑うに赤崎は苦笑した。 「さて、赤崎くん。此処で問題です」 「ウス」 何だろう。 「今、我が家に食べ物はありません。あ、お菓子なら多少あるけど。ピザ、元日もやってるかな?というか、ピザ、大丈夫?カロリー高いけど...やっぱ、何か買ってこようかな...」 の言葉に、「いや。別に気にしなくてもいいスよ」と返した。 そんな長居をするつもりはない。したいけど。 「そう?」と首を傾げるに「はい」と頷いて赤崎はテレビ画面を見た。 「そういえば。監督の選手時代のって、あるんスか?」 聞かれたは少し考えて「たぶん」と言いながら箱の中を確認し始める。 「ただ、見ない方が良いと思うなー」 の言葉に赤崎はちょっとムッとして「オレが負けるからっスか?」と言う。 「昔の人に勝つ、負けるってどうやるの?勝負のしようがないじゃない」 そういいながらは1枚のDVDを取り出した。 「これ」と言って渡す。 「此処で見てもいいっスか?」 「いいよ」というの返事を聞いて赤崎はディスクをセットした。 やっとテレビ画面以外のものを見た。 他人の試合をこんなに集中してみるなんて中々ない。 ふと、目の前にお椀が置かれた。 「ま、お雑煮くらいなら出来たから」とが言って箸を渡された。 「どうだった?」 「すげー悔しいです」 ニコリと微笑んだは「赤崎くん。五輪の遠征は2月だったよね。感謝祭には出られるの?」と言う。 話を逸らされた感じがした。 「一応、そのつもりっス」 「そう。広報として、腕が鳴るわ」 腕まくりをしてみせるに噴出した赤崎は出された雑煮に箸をつける。 の作った雑煮は、少し薄めの味付けだった。 |
桜風
10.12.11
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